営業組織における社員教育とマネジメントの課題
一方、営業組織における社員教育やマネジメント面の課題として、「従業員のモチベーション維持」が45.0%と、2位を大きく引き離して、トップとなったものの、営業責任者および担当者の61.3%が、過去1年で燃え尽き症候群や、仕事のモチベーション低下につながるメンタルヘルスの不調を感じたと回答していることもわかった。
その要因として、「仕事量が多い」が67.6%の人が当てはまると回答。「挑戦機会の少なさ」では51.9%、「組織からの支援・期待不足」では60.6%が、モチベーション低下やメンタルヘルス不調の要因に当てはまると回答。人員不足や営業職を超えた領域の仕事も任されていることや、営業スキルを身につける支援の不足など、組織の課題も理由にあがっている。亀山氏は、「仕事量の多さによる疲弊だけでなく、挑戦機会や組織からの期待不足も、燃え尽き症候群の要因になっている」と分析した。
社員の燃え尽き症候群やメンタルヘルス不調の改善のために積極的に取り組んでいる施策の有無についての質問では、「ある」との回答が売り手全体の24.6%に留まり、その内訳も経営者では31.7%があると回答したのに対して、営業担当者では17.5%となり、ギャップがあることも浮き彫りになった。また、これらの取り組みが改善につながっているとする評価は22.7%に留まり、現場の営業担当者では16.7%とより少ない結果になっている。施策を実施しても、十分な成果があがっていないこともわかった。
亀山氏は「燃え尽き症候群やメンタルヘルスの低下の問題は個人の問題ではなく、組織として取り組まなくてはならない課題である。解決への取り組みはまだ道半ばと言わざるを得ない」とした。
営業職がやりがいを感じる瞬間としては、「顧客から感謝されたとき」が首位となり、次いで、「目標数字(予算)の達成したとき」、「顧客の成功に寄与できたと感じられたとき」、「昇給・昇進」の順となった。
昨今、注目されているリスキリングは、社員のモチベーション向上にもつながると見られているものの、今回の調査では、売り手の48.4%が人材育成を営業部門の課題と捉えているとする一方で、リスキリングを知っていると回答した人の約8割が、会社として社員のリスキリングに対する施策を講じていないと回答。営業担当者の6割以上が、リスキリングを知らないという実態も明らかになった。ここでは、リスキリングができていない理由として、1位が「どのスキルを獲得したら良いかわからない」となり、「時間がない」、「お金がない」を抑えた。リスキリングの考え方や手法が浸透していないことが裏づけられた。
亀山氏は「リスキリングは、DXを推進する企業で働くビジネスパーソンにとって、仕事の進め方や顧客コミュニケーションの仕方の大きな変化に適用するためにも必要なものである。企業はスキル取得のための資金や時間の提供に加えて、スキルを身につけることによる挑戦機会の創出、評価制度への組み込みによって、社員の後押しをすることを検討すべきである」と提言した。
データとシステム、企業と顧客、人と人 3つの分断に対応するHubSpot
今回の調査について、HubSpot Japan シニアマーケティングディレクターの伊佐裕也氏は、「営業活動における無駄な時間の増加は、本質的な業務改善が実現できていないことに気づき、社内のつながりのあり方を見直す必要がある。ツールやプロセスの一部のデジタル化で満足するのではなく、社内の全体戦略や組織編成、KPI設定などと調和し、部分最適に陥ったDXから脱却し、顧客の満足につながる形でデジタルを導入することが大切である。これは、短期的に工数がかかっても、投資すべき点であり、経営陣によるDXへのコミットは欠かせない」と指摘する。
また、「社内のつながりのあり方を見直すことが無駄な時間の削減につながる。社内会議を開く要件を決め、報告に留まっている会議を減らしたり、シンプルな意思決定を行なう会議であれば、メールやSlackのほか、録画データなどの非同期コミュニケーションを含めた各種デジタルツールを活用したりすることで、生産性を高め、効率性も高め、無駄な時間を減らすことができる」と指摘した。
さらに、「売り手が売りたいように売るプロセスではなく、買い手が買いたいように買えるプロセスを構築することが大切である。CRMを活用して相手に合わせた提案へとカスタマイズすることも有効である。また、メンタルヘルスの維持および向上には、業務の無駄の見直しとともに、スキル向上も貢献できる。なにを学べば個人の成長につながるのかを一緒に考えることが求められる」と述べた。
会見では、HubSpot Japan 代表・カントリーマネージャーの廣田達樹氏が、日本における同社の取り組みについても説明した。
「HubSpotは、スケールアップのためのクラウド型CRMプラットフォームを提供している。非線形的な成長を遂げている企業が対象であり、積極的な投資を行ない、事業規模を拡大し、変化のスピードにツールや戦略などを素早く適用させる必要があるといった難しい事業フェーズにある企業を支えていけるCRMプラットフォームを提供している。HubSpotがもっとも価値を発揮できるのは25人~2000人の企業であると考えている」とした。
2006年に米国で創業したHubSpotは、現在、世界13カ所に拠点を展開。120カ国で15万8000社が採用しており、米国以外からの売上高は約半分を占めている。日本は英語圏以外では最初の海外拠点になったという。日本では、過去1年間で、パナソニック、読売新聞などが導入したという。
廣田カントリーマネージャーは、「企業は、データとシステムの分断、企業と顧客の分断、人と人との分断という3つの課題に直面している。これらを解決するにはつながりの力が必要であり、従来のCustomer Relationship Management(CRM)による顧客の管理ではなく、顧客とのつながりを創出するCustomer Connectionを提供できるプラットフォームが必要である」と指摘。「HubSpotでは、Marketing Hubをはじめとした5つのプロダクト群で構成する連携型アプリケーションのConnected Application、顧客情報の管理だけでなく、レポートや分析機能により顧客の課題を抽出し、カスタマージャーニーを提案する統合型CRMプラットフォームのConnected Platform、ビジネスのヒントを共有したり、新たな学びの支援などを実現したりする、つながるコミュニティとしてのConnected Communityを提供し、組織内、顧客と企業、企業を超えたつながりをもたらす製品とサービスを提供している」と述べた。
その上で、HubSpot Japanとして今後注力する領域について説明。「日本で需要が高いニーズに対応したプロダクトへの改善、アプリ連携の継続的な強化による『データ・システムのつながり』、UIを含むローカライゼーションの強化、パートナーの拡充による『企業と顧客とのつながり』、HubSpot Japanの社員との対話を通じて、メンタルヘルスの向上に向けて効果がある施策を柔軟に展開するほか、アカデミーコンテンツの拡充によるリスキリングの社内外での推進、ユーザーコミュニティの推進などによる『コミュニティの強化』の3点に取り組む。マクロ経済が激しく変動するなかで、顧客の成長に着実に貢献することに注力していく」と述べた。