HubSpot Japanは、「日本の営業に関する意識・実態調査2023」を発表。法人営業活動における無駄な時間を、調査をもとに金額換算すると、年間で約1兆円となり、前回調査よりも増加していることなどがわかった。「社会全体で働き方改革やDXが推進されているにもかかわらず、営業活動では無駄な時間が増えている矛盾が明らかになった。本質的な業務改善が実現していなのではないか」(HubSpot Japan マーケティングチーム マネージャーの亀山將氏)と指摘している。
業務時間の22.3%を無駄と感じている営業担当者
同調査は、営業組織の現状と課題を明らかにし、日本の営業組織の次のステップを考察することを目的に2019年から実施しているもので、今回で4回目(関連記事:買い手は訪問営業にこだわっていないーHubSpot Japanの調査に見る営業現場の変化)。経営陣や営業責任者、営業担当者である「売り手」では1545人、営業アプローチを受ける「買い手」では、経営者や役員、会社員を対象に515人から回答を得ている。売り手側では、個人事業に近い企業や大企業からの回答を省くため、従業員数51〜5000人に絞って調査を行なっている。調査期間は2022年11月25日~28日で、オンライン上でのアンケート調査として実施した。
まず営業担当者を対象にした「働く時間のうち無駄だと感じる時間の割合」の調査では、回答者全体の加重平均で、業務時間の22.3%を無駄だと感じていることがわかった。
これを給与所得者の時給や1日の労働時間、営業日数、法人営業職への就労人口などと掛け合わせると、日本の法人営業において無駄となっている時間は、金額換算で年間9802億円となり、2021年12月の前回調査の8294億円から、約1500億円増加しているという。
無駄が増加している背景には、1日の就労時間の増加、無駄と感じる時間の増加、営業職就労職の増加の3点をあげたほか、「リモートワークやウェブ会議が浸透し、顧客訪問のための移動時間が削減しているにも関わらず無駄だと感じる時間が増えている背景には、顧客DXがあるべき姿で進んでいない可能性がある」と亀山氏は指摘。その理由として、この1年で、業務効率と生産性が悪化したとの回答が63%にのぼっていること、営業現場で働く人からは、データとシステムの連携が悪化したとの回答が43.3%、営業組織内にデータ、システムが乱立し、統合できていないとの回答が55.9%を占めていることといった結果をあげた。また、営業組織に導入している業務管理システムが、操作方法やシステム仕様が複雑であり、それによって無駄な業務が発生しているとの回答が57.2%を占めていることも示した。
「データとシステムの分断や、最適化されていないシステム運用が行われていることが、無駄の増加につながっている。DXの号令のもと、さまざまな業務ツールが新規に導入されていても、システム導入そのものがゴールになり、それがデータの分断を引き起こし、システム間連携が悪化しているのではないかと推測される。システムを導入したあとの運用方法や、現場担当者のタスクレベルでのプランニングが行われていないケースも多い」(亀山氏)。
また、無駄と思う業務としては、社内会議が51.7%、社内報告業務が39.5%となり、社内コミュニケーションや情報共有が上位にあがっている。だが、営業部門においては67.3%が、社内の上司や部下、同僚とのつながりを、重視あるいはやや重視していると回答。亀山氏は「社内での情報共有やコミュニケーションに関わる時間が無駄と捉えられている一方で、社内における人と人とのつながりが、以前以上に求められている」と指摘した。
なお、営業組織のデジタル化については、テレワークを導入している組織は56.2%(前回調査は59.6%)、リモート営業を導入している営業組織は42.1%(同40.4%)、CRMを導入している営業組織は36.1%(同34.8%)となった。亀山氏は「顧客管理の方法がわからない、あるいは明確ではないという組織は31.0%に達している。また、日本におけるCRMの導入率は微増となったが、米国では従業員10人以上の企業の91%がCRMを導入しており、大きな差がある」とも述べた。
直近1年間で感じる変化は3つのマイナス要因
今回の調査結果から、日本の営業組織が直近1年間で感じている変化として、「企業と顧客の分断」、「市場環境の悪化」、「企業成長の鈍化」の3点をあげた。
「企業と顧客の分断」では、51.6%の売り手が、顧客との関係構築がより困難になったと回答。見込み客の獲得の難しさが悪化したとの回答も58.9%、見込み客へのアプローチの費用が増加したとの回答は46.8%をなっていることをあげながら、「売り手は顧客との各接点において、以前よりも困難を感じている」(亀山氏)と総括した。また、買い手側にとっては、2人に1人が、社外から受け取る情報量が多いと感じていることや、企業から役立つ情報が得られているとする買い手が34.8%にと留まっていること、企業から送られたメールの開封率が、コロナ禍以前と比較して40%も低下していることを示し、「買い手にとっては情報過多の状態となっており、役立つ情報を得られていないとの実態もある。企業からの情報を取捨選択している」(亀山氏)とした。
「市場環境の悪化」および「企業成長の鈍化」については、売り手の74.8%が、市場規模の縮小傾向が強まったと回答。企業成長が鈍化しているとの回答は66.8%、成長戦略の効果の低下を指摘する回答も63.9%を占めたという。亀山氏は、「市場環境の悪化により、売りにくい状況が生まれており、企業成長の鈍化が顕著になっている。企業1社では解決ができず、制御が不可能なマイナス要因が増えていることが、その背景にある」とした。
また、買い手の購買意思決定において、もっとも重要な要素は、「信頼できる」ことであり、41.7%を占めて引き続き首位となり、前回調査に比べても8.1ポイント増加した。次いで、「製品の品質が高い」が30.5%、「価格に見合う製品やサービスを提供している」が28.3%となった。亀山氏は「品質や価格も重要であるが、それを大幅に超えて、信頼を重視している企業が最多となった。しかも、信頼の重要度はさらに増している」と述べた。
信頼につながる要素としては、「営業担当者が自社の要望を的確に実行してくれる」が59.4%で最も多く、「営業担当者が自社のことを真剣に考えてくれていると思う」の53.6%が2位。「企業として言っていることと実際の行動が一致している」が52.4%で3位となり、前回調査と順位だけでなく、回答割合もほぼ変わらなかった。ここでは「経済状況が変わっても、信頼の築き方に変化はない」と分析している。
好ましい営業スタイルは「訪問、非訪問どちらでも良い」が高止まり
売り手が考える「好ましい営業スタイル」は、2019年から変わらず「訪問」が1位となり、今回の調査でも58.4%を示したが、買い手では「訪問」が39.6%とトップとなったものの、「訪問、非訪問のどちらでも良い」が37.9%を占め、高止まりしている。
売り手が訪問型営業の方が好ましいと思う理由としては、「訪問することで商談の相手から信頼を得られると思うから」がもっとも多く35.7%を占める一方、買い手が「訪問してほしい」理由としては、「営業担当者の顔を見ると安心感があるから」が36.3%を占めて前年調査から増加。逆に、「ビデオ会議や電話で説明を受けるには複雑な商材だから」が30.7%となり、減少傾向にある。「オンライン商談の普及に伴い、説明がうまく伝わらないといった実用面での懸念は減り、訪問については、安心や信頼を求める買い手が増加している」とした。
また、B2B商材を購入する際に、法人営業担当者を介さず、オンライン上の簡単な決済のみで商品やサービスを購入したい人は約3割に達し、営業担当者が必要だと感じる場面は、「商品やサービスの基本的な情報を知りたいとき」が47.2%、「自社の課題や要望に合わせた提案が欲しいとき」が46.4%を占めた。「営業担当者が提供すべき付加価値は時々によって変化し、買い手のニーズも変化する。自社の顧客に自社の商材を届けるとき、営業の介在価値とは何なのかを問い、営業プロセスを改善しつづけることが大切である」と提言した。