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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第171回

AIの進化は当然音楽も変える、グーグル、ヤマハなど各社の戦略

2023年02月13日 19時30分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 昨年来から「Stable Diffusion」などAIによる画像生成ツールが話題となっている。

 これはAIにプロンプトと呼ばれる指示文を与えることで、名画タッチから美少女イラストまで様々な絵をAIが描いてくれるというものだ。また最近話題の「ChatGPT」はAIによる文章作成ツールという枠を超えて、プログラミングから情報検索まで多様な用途をこなしてしまう。最近ではグーグルがChatGPTに脅威を覚えて非常事態宣言をしたなどというニュースも流れているほどだ。

 もしや画像があるならば音楽も、と思っていたらグーグルから、音楽を生成するAIが先日発表された。これは研究部門のGoogle Researchが発表した「MusicLM」というAIだ。ただし発表はしているがChatGPTのように一般には開放していない。人権や倫理問題に神経質な会社であるGoogleはいままではAIに対しては慎重だったのだが、前述のChatGPTの脅威論などもあり自らも発表に踏み切ったのだとも考えられる。

 一般に開放はしていないがGoogle ResearchのページではMusicLMでAIに生成されたサンプル曲をいくつか試聴することができる。それには音楽を生成するのに使用したプロンプト(指示文)も添えられている。例えば「アーケードゲームのサウンドトラック、速いテンポのアップビート。キャッチーなギターのリフも加える」や「フルートとギターが奏でる心を落ち着かせる瞑想的な曲。安らぎを与えるようなスローな音楽」などである。

 実際に聴いてみると確かにそれらしい曲が再生される。また15秒ごとにジャズ、ポップ、ロック調を切り替えるというような指示も可能であり、それらしく聞こえるとともに曲調のつながりも自然に作られている。加えて「落ち着いたバイオリンの旋律と、歪んだギターリフ」のように普通の音楽ではあまりないような指示も可能となっている。

 実のところ音楽生成AIはこのMusicLMだけではない。例えばヤマハは動画や画像の内容をもとにオリジナルの音楽を自動で作成できるアプリ「AmBeat(アンビート)」を先日発表している。これはVlogなどのコンテンツにつけるBGMなどのための音楽を作るためとしている。画像生成AIで有名なツールのひとつ「Novel AI」も元々は名の示す通りにオリジナル小説の挿絵生成ツールとして作られたものなのに経緯が似ている点が面白い。

 また「FMMIGRM」はオリジナル曲をAIで生成できる楽曲作成サービスだ。これはヒットソングの特徴を大量に学習して抽出された特徴にランダムさを加えることで、新しく様々なパターンのメロディやコード進行をAIで生成することが可能だとしている。

 ただし生成AIの応用については学習に使われるデータ自体の著作権保護なども含めて、各国で法規制の対象として検討されているというグレーな面もある。サービスによってはこれが明確にクリアされているものもあるが世論の抵抗も根強い。こうしたディープラーニング・ニューラルベースのAIは大量データのパターン認識の産物であり、元のデータの切り張りをしているわけではないのだが、AIの応用については今後どうなっていくかは不透明な点もある。だが一旦動き出した流れは止まることはないだろう。

 最近のAIサービスの中にはアインシュタインやビルゲイツなど有名人とチャットを楽しむ「Character.AI」というサービスもある。こうしたAIが作曲AIや文書生成AIと結びついて既に亡くなったミュージシャンや解散したグルーブの新曲を作ってくれる日も来るかもしれない。

 もしかすると近い将来のスマートフォンでは内蔵のMP3音源やネット経由のストリーミング音源さえもなくなり、通勤や通学に出かける時に音声アシスタントに「ハロー、AI。今日はビートルズの新曲を再生して。気分が上がるようなアップテンポの曲で、女性ヴォーカルが参加して美しいコーラスも入れて。」と語りかけるようになるのかもしれない。

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