カゴヤ・ジャパン「SX-Aurora TSUBASAクラウド」導入事例

スパコンのクラウド利用でAI対話サービスを多方面に展開、ウェルヴィル

文●カゴヤ・ジャパン

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※本記事はカゴヤ・ジャパンのWebサイトに掲載されたウェルヴィル株式会社の導入事例「スパコンを利用したAI対話エンジン。サービス展開とシステム内部に迫る。」を再編集したものです。

 

 AI対話サービスを多方面に展開するAIベンチャーのウェルヴィル株式会社。コア事業の基盤である、AI対話エンジン「LIFE TALK ENGINE」を搭載しているカゴヤのHPCサービス「スーパーコンピューター SX-Aurora TSUBASAクラウド」について、同社 取締役CTOの樽井俊行氏(写真中央)に話をうかがった。

■導入事例:ウェルヴィル株式会社(wellvill)

 ・利用サービス:HPCサービス「SX-Aurora TSUBASAクラウド」
 ・導入を決めたポイント:
  -SX-Aurora TSUBASAの クラウド利用が可能
  -本番環境に適した安定的なサービス提供
  -コミュニケーションを取ることができ、細やかで小回りの利く対応

「AIの対話能力」開発に特化したAIベンチャー企業

――まずは会社のご紹介をお願いします。

ウェルヴィル 樽井氏:ウェルヴィルは2018年に創業したAIベンチャーで、AI分野における対話能力開発に特化した研究開発を行っております。具体的には、アバターとAI対話機能、IoTデバイスとAIセンシング機能など、AIとシナリオを組み立て業務プロセスへの適用をソリューションとして提供しています。

 現在のコア事業としては、AI対話エンジン「LIFE TALK ENGINE」のサービス提供で、特に介護・医療といったヘルスケア分野に力を入れています。その他にも不動産で、営業の代わりのアバターやスマートシティのコンシェルジュの案内、コールセンターのオペレーターなど、幅広い業種へ同サービスを展開しております。

ウェルヴィル「LIFE TALK ENGINE」の不動産営業支援DX利用イメージ

 当社では、自由度の高い会話能力の開発に特化した研究開発を行っており、人との対話能力をいかに極めるかという点に注力しています。

――LIFE TALK ENGINEの特徴について教えてください。

ウェルヴィル 樽井氏:LIFE TALK ENGINEは、人の会話を統語論的に解釈し、業務会話(注文、問い合わせ、相談など業務目的の会話)から自由会話(共感・興味を示すような雑談など)までに対応する対話応答システムです。

 一般的に検索エンジン等で利用されているAIチャットbotや音声認識システムとは異なり、LIFE TALK ENGINEは人の発話の中から見つけ出される要素を文法的に解釈して、次のアクションにつなげる、つまり統語論を基本としたメカニズムになっています。

 LIFE TALK ENGINEのシステムは、さまざまな機能で成り立っています。たとえば発話内容を構造体分解した状態で記憶する「記憶制御エンジン」(主に自由会話で利用)、目的に沿った対話を誘導する「対話誘導制御エンジン」(業務会話で利用)、「意味解析エンジン」、そして約550種の辞書・コンテンツ群、対話能力の定義体を引き出すための「対話シナリオ作成ツール」などの機能があります。そして、全体を統制する制御基盤を対話エンジン内に内蔵しています。

LIFE TALK ENGINEのサービス概要図(右端がAI対話エンジン)

 サービス構成としては、上記のシステム(上図右)から会話に必要な言葉を導き出した後、アバターシステム(上図中央)でアバターやロボットを使って外部に表明し、さまざまな業種・業務に展開しております。

 アバターを通じた対話エンジンの使用により、人間の能力値を拡張すること。これがLIFE TALK ENGINEの大きな役割だと思っております。

新築マンション販売でお客様と会話しながら物件説明するAIアバター

“お試し”で利用した「SX-Aurora TSUBASA」で驚異のスピード改善

――SX-Aurora TSUBASAクラウドを導入されたきっかけを教えてください。

ウェルヴィル 樽井氏:現在、カゴヤさんのHPCサービス「SX-Aurora TSUBASA クラウド」に、我々のコア事業のサービスの中心であるLIFE TALK ENGINEを搭載しています。

 導入の背景としてはNECさんとのつながりが関係しています。

 以前、AIの強化学習の分野で、コンテナへの荷物積込の最適化に深層強化学習のプログラムを実装していました。当時は法人向けのGPUで計算を実行していましたが、ハードウェアをNECさんの「SX-Aurora TSUBASA」に変更してスピード比較を行ったところ、驚異的に早く処理が完了したという経験がありました。

NECの「SX-Aurora TSUBASA」

 また、別の機会に、当時研究を進めていた言語分野の意味解析の定義などで、RNNやTransformerを利用していたものをベクトルコンピューター上で動かすと影響があるかもしれないということで、NECさんと再び実験的にサーバー移行を行った結果、応答速度が8%程度上がるということがありました。

 それまで言語処理もGPU上で行っていましたが、ベクトルコンビューターの方が軽く処理が済むということで、以降、しばらくは言語分野でも実験的に使用させていただきました。

 その後、いよいよLIFE TALK ENGINEをサービスに載せてリリースできる段階になり、本番環境としてSX-Aurora TSUBASAのクラウド提供がないか相談したところ、カゴヤさんをご紹介いただいたというのが、導入の経緯です。

安定したサーバー環境と、きめ細かく小回りの利く点でカゴヤを選択

――サービス導入の検討時に重視した点はありますか。

ウェルヴィル 樽井氏:SX-Aurora TSUBASAのクラウド提供環境であるというのは必須でしたが、その他のポイントとしては、お客様に提供するサービスなので安定的な環境であることは必須条件で考えておりました。具体的には、しっかりとした環境であること、小回りが利いて会話ができることが重視した点です。カゴヤ様には、非常にきめ細かくサービスでの相談に乗っていただきました。

 オンプレミス環境ではなく、クラウド環境にした理由ですが、開発環境であれば、自分たちの研究室において行うことはあります。

 しかし、本番環境としてサービス提供する段階になると、安定的な環境構築という点でクラウドを選択するのは今の時代当然の選択肢だと思っています。私自身、クラウド環境が当たり前になっている部分もありますが、やはり安定的にマシンを稼働し続けるという点で、オンプレではなくクラウドという選択になりました。

一番の成果は「スピード」、人間とAIの自然な対話を実現

――SX-Aurora TSUBASAクラウドの使用感はいかがですか。

ウェルヴィル 樽井氏:導入経緯の部分でもお話ししましたが、一番の成果は「スピード」です。

 対話サービスにおいては、いかにリアルタイムに応答できるか、レスポンスタイムが早いか、が勝負です。要するに人間と人間の会話のリターンスピードと、どれだけ遜色なく応答を返せるかということが求められます。

 人が発話してから、話の内容を理解し、記憶し、必要な応答文を作り上げてそれを返すという自然の流れが勝負どころになるので、少しでも早く返せることがとても重要なポイントになってきます。

 スーパーコンピューターは元来、科学計算などで使用されるように、いかに大量のデータを効率よく計算して、答えを導き出すかということが求められます。ですので、我々の使用方法は、使い方としては異端児かもしれません。

 AI対話はさまざまなモジュールを通過するため、対話エンジンが使える時間はせいぜい400ミリ秒が限界です。残りの時間を、アバターのためのレンダリングやTTSの音声合成の処理に費やしていきます。そのため、レスポンス重視という点でもSX-Aurora TSUBASA クラウドを使わせてもらえたことで、対話エンジンの応答スピードが最大の成果といえます。

 あとは、実際に計算はしていませんが、おそらくコストパフォーマンスも良いと感じています。

 現在、他社サーバーを利用している部分もいろいろとありますが、コミュニケーションも含めてカゴヤさんの対応が非常にありがたいなと感じておりますので、なるべく寄せていきたいなということは考えております。

カゴヤ・ジャパンの「SX-Aurora TSUBASAクラウド」Webサイト

介護・サービス・医療・教育など多方面への展開拡大を検討

――LIFE TALK ENGINEについて、今後の展開をお聞かせください。

ウェルヴィル 樽井氏:今後のサービス展開としては、いくつかありますが大きく考えているところでは以下のとおりです。

 まずは現在のメインとなっている介護分野に関して、介護する側の精神状態の把握とメンタルケア、また、一人暮らしの方も含めた介護される側の日常会話の活性化(好きな会話を楽しめる状態の展開)。その双方向からのアプローチでの展開を考えております。

 ニーズとしてはさまざまなコンシェルジュとしてのものが大きく、デジタルサイネージなどを使った展開も一つのポイントです。ホテルや観光の分野でも、コロナが収束すればいろいろと動き出すと思います。

 また、医療分野では、東京大学が作っているスマホ端末で健康状態を自分で管理できるプロダクトへのアバターの搭載や、自動問診の機能強化なども考えております。

 面白い分野では教育分野への展開です。

 例えば、オンライン授業で、事前に先生の授業を学習したアバターが生徒と1対1で対話しながら授業を進行することで、それぞれの生徒の進度や質問に応じた対応が実現できます。

 また、例えば歴史上の人物の知識を学習させたアバターを作ると(人格を作り上げると)、仮想的に歴史上の人物との会話が実現します。

 こういったことを考えると、教育という観点からはさまざまな使い道が考えられ、今後に大きな可能性を感じています。

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