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「マルチクラウドに共通のオペレーションモデルを提供」デイブ・マクジャネット氏インタビュー

HashiCorp CEOが「クラウド時代のVMwareを目指す」と語る理由

2022年12月30日 08時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 クラウドインフラの構成管理ツール「Terraform」などを提供するHashiCorp。その重要性はマルチクラウド時代においてさらに高まっている。また2022年10月には「HCP Boundary」の一般提供を開始し、ゼロトラスト戦略も加速させている。

 HashiCorpのCEO、デイブ・マクジャネット氏に、HashiCorpが目指すもの、オープンソースモデルなどについて聞いた。(インタビュー実施:2022年10月)

HashiCorp CEOのデイブ・マクジャネット(Dave McJannet)氏

HashiCorpは「クラウドインフラオートメーション」ベンダーである

――HashiCorpはTerraformで知られるが、急ピッチで製品を拡充している。市場において自社をどのように位置付けている?

マクジャネット氏:われわれはHashiCorpを「クラウドインフラのオートメーション技術を提供するベンダー」と位置付けている。製品カテゴリとしては「インフラプロビジョニングのオートメーション」「セキュリティオートメーション」「ネットワークオートメーション」など複数にまたがるが、それら全体を「クラウドインフラオートメーション」というメッセージでまとめている。

――そのビジョンはすでに完成しているのか? まだ不足していると考えるものがあれば教えてほしい。

マクジャネット氏:製品ポートフォリオは定期的に見直している。現在は8つの製品があるが、ポートフォリオに付け加えることに意味があると判断したら、新たな製品も適宜加えていく。

HashiCorpのプロダクトポートフォリオ。インフラ、セキュリティ、ネットワーク、アプリケーションの4領域で8製品を展開する(画像はWebサイトより)

――しかし「Terraformしか利用していない」という顧客も多いはずだ。顧客はHashiCorpの製品ポートフォリオの成長について行けているのか?

マクジャネット氏:多くの企業における“クラウド受容の道のり”、クラウドジャーニーは、まだ早期段階だ。多くの企業がプロビジョニングに関する問題解決に取り組んでおり、次の段階には進めていない。現時点で「Terraformしか利用していない」顧客が多いのもそのためだ。ただし、クラウドジャーニーの段階が進めば、たとえばセキュリティの問題を解決するためにシークレット管理の「Vault」を導入するなど、他製品の導入も進むことになるだろう。

 企業がクラウドを受け入れると、段階的な変化が起こる。まずは(組織的に)管理されていないクラウドの導入から始まり、その次は組織化されたクラウド導入の段階に進む。この段階になると、プロビジョニング、ネットワーク、セキュリティ、特権アクセスなど、管理にまつわるさまざまな問題が出てくる。企業はこうした問題に直面しながら、クラウドの歩みを進めていくことになる。

 HashiCorpでは、早期にクラウドジャーニーを開始した顧客企業を支援してきており、その道のりの中でどんな問題が起こるのかをよく理解している。早期段階ではTerraformが必要になり、それに続く段階ではほかの製品が順次必要になってくることを理解してほしい。クラウド管理について「どうすればいいのか教えてほしい」と質問してくる顧客も多い中で、HashiCorpの製品ラインアップはその“処方箋”にたとえることもできるだろう。

 いま話したクラウドジャーニーにおける課題は、世界中の企業で共通している。自社のクラウドプログラムを作成し、TerraformとVaultからスタートして、次の製品、その次の製品へと進むわけだ。

クラウドの受容過程は段階的に進む、とマクジャネット氏は説明する(画像は年次イベント「HashiConf Global 2022」基調講演より)

――「VMware vSphere」向けTerraformでは、ダウンロード回数が600万回に到達したことを発表している。オンプレミス側の動向をどう見ている?

マクジャネット氏:Terraformを拡張することで、クラウドインフラだけでなくプライベート資産(オンプレミス)にも適用できるようにする動きがある。これがvSphere向けのダウンロード数増加につながっている。

 顧客においても、Terraformの最初のユースケース(適用対象)はAWS、Azureといったパブリッククラウドだが、その後はプライベートクラウド、(オンプレミス)データセンターにも拡張していくというパターンが増えている。

一貫性のあるクラウドオペレーションモデルの実現

――HashiCorpが考える理想のクラウドオペレーションモデル(クラウド運用モデル)とはどのようなものか?

マクジャネット氏:HashiCorpでは先に、企業のクラウド戦略に関する年次調査「State of Cloud Strategy Survey」を発表した。この調査では企業のクラウドジャーニーが成熟し、企業全体で一貫性や標準化されたプラットフォームを構築し始めていることがわかった。

 その一方で、スキル不足によるセキュリティリスクの悪化、本来は回避できるはずのクラウド支出の増加、マルチクラウド運用組織の能力阻害などの問題が起きていることもわかった。これらの問題は「一貫性のあるクラウドオペレーションモデル」を導入することで解決できる。

 成功している企業は、クラウドサービスを利用してアジリティ、信頼性、セキュリティを最大化し、ビジネス上の成果を得るためのフレームワークとして、このクラウドオペレーションモデルを活用している。

――AWSなどのハイパースケーラーも、それぞれ独自の運用機能を提供している。こうしたハイパースケーラーとの関係は?

マクジャネット氏:HashiCorpの製品は「クラウド中立」であることがポイントだ。顧客が複数のクラウドを利用するようになれば、このメリットの重要性は増す。また、ハイパースケーラー側もHashiCorpがもたらすメリットを理解しており、彼らとは良好かつ長期的な協業関係にある。協業を通じて、新しいインテグレーションや製品の機能をすぐに利用できるようにしている。

――製品をオープンソースとして公開している。オープンソース戦略を教えてほしい。どうやってオープンソースと商用製品のバランスをとるのか?

マクジャネット氏:オープンソースとして公開している理由は、開発者がインフラにおいてイノベーションを起こせるようにすることで、より大きなエコシステムが構築できると信じているからだ。また、オープンソース化することで、企業はインフラ分野においてより簡単にインテグレーションの問題を解決し、共通のワークフローを導入できる。

 なお商用製品では、組織内でHashiCorpのテクノロジーを活用する際の「中央のコントロールポイント」としての機能を持つよう設計している。商用製品を通じて標準化を推進し、マルチクラウド環境での運用担当や開発者へのメリットを大きくしたいと考えている。

HashiCorpの将来像と今後の優先事項

――5年後、あるいは10年後、HashiCorpはどのような企業になっていると考えるか?

マクジャネット氏:われわれはVMwareと同じモデルをやろうとしている。VMwareは、さまざまな種類のハードウェアに対して(仮想化テクノロジーを通じて)共通のオペレーションモデルをもたらした。そして市場は現在、クラウド時代に誰かがその役割をすることを求めている。HashiCorpはさまざまなクラウドを通じて共通のオペレーションモデルをもたらす。これが我々のミッションだ。

 HashiCorpは現在、Fortune 500企業のうち182社にそうしたクラウドオペレーションモデルを提供している。目標はGlobal 2000の全企業にそれを提供することだ。なお現在公開している顧客事例だけでも、ヤフージャパン、楽天、メルカリ、3M、Adobe、Nike、Paypal、トヨタ自動車などが、HashiCorp製品を使用している。

 またインフラ企業として、オープンソースの姿勢を維持する必要があると考える。オープンソースではない新たなインフラカンパニーは成功できない。ここまでHashiCorpは、オープンソースでも大きなビジネスを構築できるということを実証してきた。

――そうした目標を達成するために、今後の優先事項は何か?

マクジャネット氏:今後の優先事項は2つある。

 1つ目は、クラウドを導入するGlobal 2000のような大手企業との関係を構築すること。そのために、まずはHashiCorpがやっていることを理解してもらうことに努めている。

 2つ目として、これらの企業から信頼性を得ること。日々、新しい製品や機能の提供やサポートを通じて信頼を獲得していく。最終的には、HashiCorpはインフラベンダーであり、我々の製品は最も重要なアプリケーションのランタイムパスの中にある。

――日本市場をどう見ているか?

マクジャネット氏:クラウドへのシフトやデジタル変革(DX)に関して、日本市場のIT幹部が重要視しているのは「セキュリティ」だと認識している。デジタルへのシフトにおいて、企業はセキュリティを再考し、クラウドに必要なものは何かを考える。そこではゼロトラストが重要になるが、HashiCorpはそこで重要な役割を果たすと信じている。

 日本市場でも顧客数は増えており、パートナーも増えている。今後も投資を続ける。

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