アカザーの不自由自在

Vol10 苦手意識のあったバスに車いすで乗車!(バス編)

文●アカザー 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 どうもアカザーです! 2000年に脊髄を損傷して以来車いすユーザーを22年ほどやっています。車いすユーザーになって社会復帰した直後、今から22年前ほど前に車いすではじめてバスに乗った時の体験(https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2234353.html)が強烈過ぎて、それ以降はずっと車いすでのバス乗車を避けていました。

 しかし先日、このコラムのネタにと新交通システム「東京BRT」を利用してみたところ、これが思いのほか車いすでもストレスなく乗車するコトができたんです。

 というわけで、「東京BRT」乗車体験で自信を持ったオレは、今回は満を持してほぼ22年ぶりに車いすでのバス乗車に再挑戦!

22年前とは違い設備や使う側の練度が進化!

 今回、車いすでバスに乗るために選んだバス停は、日ごろ妻が通勤で使い、車いすの乗客をよく見かけるというバス停なので、運転手さんも車いすユーザーの対応に慣れていると予想。

 とはいえ、ここは22年前に乗車に10分以上かかり、その時の乗客からの視線がその後22年間もバス乗車を避けるほどのトラウマを生んだバス停でもあるワケで…。

 万全を期して、乗車時間はラッシュ時を避けた午後イチの時間帯をチョイス。とはいえ22年前も空いている時間帯を狙っての乗車だったので、やはり不安は残ります…。

 ドキドキしてバスを待っていると、ほどなくバス停に1台のバスが接近。このバスは行先が違ったので、乗車位置から少し離れた場所に車いすを移動させ、乗車の意志がないことをアピール。バスは他の乗客を乗せてスムーズに出ていきました。

 そして3分後、お目当てのバスがバス停に接近。こんどは乗車位置あたりに車いすを進めて、乗車の意志を示します。ちなみに車いすでの乗車はバスの先頭側の入口からではなく、後方側にある出口からの乗車になります。ベビーカーユーザーと同じ乗車方法ですね。

車いすでの乗車口は後方になるので、降りて来る人の邪魔にならない位置で待機。

 後方の出口付近には運転手さんを呼び出せるインターホンがあるんですが、道路と歩道の段差に加えて、バスのインターホンの取り付け位置もかなり高い位置にあるので、車いすユーザーが使用するのは絶望的! このインターホンはたぶんベビーカーユーザー向けな気がします。

停車したバスとバス乗り場との間には50~60センチぐらいの溝が。

 バスが停まって数秒で出口ドアが開き、目の前にBRT乗車体験で使った「反転式スロープ板」を確認し、ひと安心。運転手さんもすぐに降りて来てくれました。

ドアが開くと目の前にはBRTと同じ「反転式スロープ板」が。これがあるかないかで、車いすでも乗りやすいバスか否かを判断できるかも。

 バス停と停車したバスの間には50~60センチほどの隙間があったのですが、「反転式スロープ板」は長さが約1メートルほど。なので、BRTの時と同様に問題なく設置完了! スロープをかけるのにかかった時間はわずか数秒です。

「反転式スロープ板」中央のハンドルを持って、バス停側に弧を描くように展開する。

わずか数秒でスロープがかかる。収納も逆の手順なので、30秒ほどで車いすでの乗車が可能。

 22年前は引き出し式のスロープ板でした。それに加えて、車いすユーザーでバスに乗車する人がほぼいなかったので、まったく使われずに錆び付いたスロープ板を引き出すのに2~3分かかっていました。

 それが、今回は10秒かからずに設置完了! かけてもらったスロープの角度もわずかなものだったこともあり、後ろから押してもらう補助も必要なく、自分で車いすを漕いであっという間にバスに乗車。いろいろと心構えをして臨んだので、そのあっけなさに拍子抜けするほどでした。

 乗車後は、目の前にあるベビーカー・車いす固定座席スペースまで移動し、前向きに車いすを停めてブレーキをかけます。バスが停車してここまでにかかった時間は50秒ほどでした!! 車内には22年前と同じように数名の乗客がいましたが、皆スマホなどを見入っており誰もオレのことなど気に留めてない様子。

乗車スペースも真正面にある。

“過剰な介助”がないほうがうれしい場合も!?

 そして驚いたのはこのあと。「反転式スロープ板」を収納した運転手さんがそのまま運転席のほうへ…えっ? 実は22年前はここから5分以上にわたる“地獄の車いす固定タイム”が始まったのですが、今回それはナシ!? マジすか!?

 運転席に戻った運転手さんはバスを動かし始めたので、オレは車いすを背面の壁に押し付けてブレーキで固定。右手で壁の手すりを持ち、左手は車いすのフレームを保持。電車に乗るときのいつものスタイルで、車いすと身体を固定します。

進行方向に車いすを向けタイヤを後ろの壁に当てた状態でブレーキをかける。右手は手すりをホールド。

右の手すりには車いす固定ベルトが掛けてあったので、必要な車いすユーザーにはすぐに対応できる状態だと思います。

 このときの対応が気になったので帰宅後に調べたところ、現在も車いすの固定義務はあるみたいです。でも、オレ的には今回の対応でバッチリというか、他の乗客の好奇や怒りの眼にさらされながらの車いすを固定された、あの地獄の5分間に比べたら天国でした! そして、乗車中もバスは急発進・急ブレーキもなく、軽く右手で壁の手すりを持っているだけで、身体の保持なども何ら問題はナシ!

 これは体幹があるていど効かせられるオレだからできることというのもあるんでしょうが、乗車する車いすユーザーがオレのような状態がいい障害者なら、この対応で充分だと思います。必要なことだけを手伝ってくれるというスタイルです。

 障害者だから、車いすユーザーだからといって、“過剰な介助”はいらない気がします。

 もちろん、車いすの固定が必要な方は当然います。しかし、そういった方はアシスト機能が付いた車いすや電動車いすに乗っているので、慣れた運転手さんならひと目見ればわかると思うのです。

 そして、アシスト機能付車いすや電動車いすのユーザーでベルト固定が必要な人は、自分にはどの程度の固定が必要なのかを運転手さんにちゃんと伝えて対応してもらう。そういう対応でいいのではないかと思います。固定が必要な方は車いすにテープなどで固定位置の目印を付けたりしている方もいらっしゃいます。

 ただ黙ってマニュアルに沿った画一的な介助を受けているだけではなく、我々車いすユーザー側もそれぞれの介助が必要なポイントをちゃんと相手に伝えることは必要だと思います。そうすることで“過剰な介助”での介助側への負担を減らし、より良い共生社会になっていける気がします。

 これはオレの予想ですが、今回対応してくれた運転手さんは普段から車いすユーザーを乗せていて、オレのような自走式の車いすに乗ったユーザーには固定ベルトの必要がないことを経験で学んでいたのではないでしょうか? そして、車いすの乗客のオレが固定ベルトなしで乗車しているのを知った上で、いつもより気を使って運転してくれていたのでは? と思うのです。

手慣れた運転手さんの対応でトラブルも回避!

 そんな感じで固定ベルトなしで乗車すること15分、目的地の新橋駅に到着。ここまでの流れで降車も余裕だろうと思っていたのですが、ここでまさかのトラブル発生!

 どうやら降車場所の路肩がL字になっており、バスを路肩の段差に平行に停車できないという事案が発生!

 他の乗客を降ろしたあとに、バックして位置を調整するも「反転式スロープ板」が路肩に届く距離まで近付けずやり直し。さらに運転手さんはがんばって細かくバスの位置を調整するも、「反転式スロープ板」の利用可能な距離まではあと1歩及ばず…。

 そこで登場したのが、我々車いすユーザーが電車に乗るときによくお世話になる「携帯型スロープ」です! バスの出口付近に設置されている収納ボックスから運転手さんが「携帯型スロープ」をサッと取り出し、歩道とバスの間にかけてくれました。

出口付近には「反転式スロープ板」で対応できない場合に利用する、「携帯型スロープ」を収納したボックスが設置されていました。

収納ボックスから二つ折りになった「携帯型スロープ」を取り出し、これまた数秒でスロープを設置。

運転手さんは手慣れた動作でテキパキと介助をこなしてくれました。

 そんなこんなで無事に降車。最後は少しトラブルがありましたが、運転手さんは慣れた手際の良さですべてをテキパキとこなしてくれました。これは運転手さんが何回も車いすの乗客の対応をしている経験から伝わる安心感!

 おかげで22年前のトラウマを払拭することができました!

 今回の乗車で感じた22年前との一番の違い、それは運転手さんにしても乗客にしても“車いすでバスに乗ってくる客”を珍しいものだと捉えていないということでした。

 オレ自身がそうであるように多くの車いすユーザーは、健常者の皆さんと同じように対応してほしいと願っていると思います。そこに過度なサービスは求めてはいないのです。ただ健常者の皆さんと同じように、普通にバスを利用したい。自分でできることは自分でやるので、車いすであるがゆえにできない事だけ手伝ってほしい。ほとんどの障害者がそう考えていると思います。

 22年ぶりのバス乗車体験は、まさにこの“できないこと”だけをごく普通に手伝ってもらえた体験でした。これまでの、こうしておけばいいという“ハコモノ”的バリアフリーが、介助する側・される側が臨機応変に対応する“心のバリアフリー”に変化してきているのを肌で感じました。

 次の20年は“心のバリアフリー”という言葉がなくなるほどフツーになっているとうれしいなぁ。

アカザー(赤澤賢一郎)
週刊アスキーの編集者を経て、現在は車いすのフリー編集者・ライターをやっています。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)。車椅子ユーザーになって21年です。2018年に札医大で再生医療の治験を受け、2020年に20年ぶりに歩行!!!

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