理化学研究所などの国際共同研究チームは、バリウムとニッケルの硫化物BaNiS2において、質量を持たない電子(ディラック電子)と、あたかも液晶(固体と液体の中間のような状態)のように振る舞う電子が共存していることを発見した。これは非常に珍しい電子状態であり、全く新しい物性を実現する舞台として期待できるという。
理化学研究所などの国際共同研究チームは、バリウムとニッケルの硫化物BaNiS2において、質量を持たない電子(ディラック電子)と、あたかも液晶(固体と液体の中間のような状態)のように振る舞う電子が共存していることを発見した。これは非常に珍しい電子状態であり、全く新しい物性を実現する舞台として期待できるという。 研究チームは今回、電子間相互作用(電子相関)が期待される遷移金属元素であるニッケルの電子が物性を支配し、かつ、その特殊な結晶構造に関係してディラック電子が存在することが分かっているBaNiS2に着目。走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を用いた実験とその理論解析から、ディラック電子と、電子相関によって生じた液晶のように方向性を持った電子が共存していることを明らかにした。 結晶構造が特別な幾何学的対称性を持つ物質や、電子状態がトポロジー的に非自明な物質では、電子の質量がゼロになることがある。一方、電子相関が強い遷移金属化合物では、高温超伝導やさまざまな磁性など、非自明で役に立つ現象が観測される。ただし、それぞれの効果が著しい物質は異なっている場合が多く、両者の共存・競合を研究することは困難であった。 研究論文は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)のオンライン版に2022年12月2日付けで掲載された。(中條)