NTTが、IOWNサービスの第1弾として、2023年3月に、APN(オールフォトニクスネットワーク)サービス「IOWN 1.0」の提供を開始する。
IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想だ。サービスを開始する「IOWN 1.0」は、100Gbpsの専用線サービスで、ユーザーがエンド・エンドで光波長を専有でき、APN端末装置での遅延の可視化と、調整が可能という特徴を持つ。
光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍となる大容量化を実現している。
NTTの島田明社長は、「2022年度末(2023年3月)に、いよいよIOWNサービスがスタートする。データドリブン社会が訪れると、膨大なデータを扱うようになり、さらに、データ処理に必要となる電力消費量が大幅に増加する。データ量の増加、消費電力の増加、ネットワークの遅延などの問題を、IOWNで解決していくことになる」と述べ、今後、想定されるネットワークを起因とした社会課題を解決するサービスであることを強調した。
島田社長は、データドリブン社会におけるいくつかの課題を、データを用いながら示す。
たとえば、ハイビジョン動画をスムーズに視聴するには、1.5Gbps程度の回線スピードが必要であるのに対して、16Kの映像を視聴するには、その約750倍の回線スピードが必要になること、メタバースの普及によって、2次元データが3次元データになると、必要なデータ量が30倍に増加すること、IoTによる接続が増え、2017年には270億個だったネットワークに接続するデバイス数が、2030年には1250億個に増加し、より多くのデータがやりとりされることなどだ。
また、「これに伴い消費電力も増加することになる。データセンターの消費電力は、2018年には、日本で14TWh、世界で190TWhであったが、クラウド化のさらなる進展に伴い、2030年には日本では約6倍となる90TWh、全世界では13倍の2600TWhまで増加することになる」とも指摘する。
さらに、VRやAR、ドローンやロボット、自動運転の普及には、ネットワークの低遅延化は避けては通れない。ここでもIOWNが果たす役割は大きい。
「VRは20ms以下でないと、人の動きよりも映像が遅れて見えてしまうため、VR酔いが起きてしまう。また、IP/Etherサービスでは遅延が大きいときと、小さいときがあるため、遅延の予測が難しく、細かい複雑な作業を遠隔で実施することは困難だった。IOWNでは遅延における揺らぎがなくなるため、遅延の予測が可能となり、様々なサービスに応用することか可能になる」という。
IOWNが実現する低遅延化は、新たな可能性を引き出している。
たとえば、NTT東日本は、2022年11月に、IOWNの技術を活用して、約10km離れた会場を結んで、演奏と観客の反応を双方向で配信する実験を行い、2つの会場の一体感を実現することに成功した。
東京・初台の東京オペラシティで開催された「第179回 NTT東日本 N響コンサート」と、東京・成城のドルトン東京学園の2カ所を低遅延通信技術でつなぎ、アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏を、東京オペラシティからドルトン東京学園にリアルタイムで配信。また、ドルトン学園ではスネアドラムの演奏者が現地から演奏に参加し、行進曲にあわせて沸き上がったドルトン東京学園の会場での手拍手を、オペラシティに低遅延で配信した。両会場をあわせて約1600人の手拍子と演奏がひとつになり、本会場と離れた会場との一体感を実現したのだ。
NTT東日本によると、ウェブ会議などで利用している通常のインターネット通信環境では、数100ms程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできないが、IOWNの低遅延伝送技術を活用することで、20ms以下の低遅延を実現。これにより、同時演奏が可能になるという。
さらに、IOWNが実現する大容量、低遅延によって、様々な可能性が広がろうとしている。
ここでも、NTTではいくつかのユースケースを示す。
遠隔医療の分野では、低遅延、大容量のメリットを生かして、安定したロボット操作が可能になり、遠隔手術を実現することができる。すでに遠隔手術ロボット「Hinotori」で共同実験を行っているという。
また、スマートファクトリーの領域では、化学プラントにおいて危険箇所でロボットによる遠隔メンテナンスを実現することができたり、eスポーツ分野では遠隔地のプレーヤー同士を結び、ストレスがなく、公平なプレイが可能になる環境を実現できたりする。
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