『10年後の歩行って?』アイデアコンテスト 歩行空間デジタルツインやレーザー光を活用した交通サインのアイデアが入賞
この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。
「10年後の歩行って? アイデアコンテスト」は、アイデア部門とネーミング&ビジュアル部門を設け、学生から一般まで広い範囲で募集。2021年12月21日から2022年7月31日までの期間で総計439点の応募があった。ネーミング部門、ビジュアル部門、アイデア部門『バリアフリーの部』、アイデア部門『イノベーションの部』の各部門で優秀作品を選定。また各部門の中から、未来を担う子供たちの作品、特に歩行者移動支援との親和性や独創性の高い作品が「特別賞」として2作品選定された。
表彰式の開会の挨拶として、国土交通省 国土交通事務次官 藤井 直樹氏が登壇。
「“バリアフリー”という言葉が使われるようになって久しい。例えば、鉄道会社でバリアフリー料金の導入が始まっています。例えば駅のホームドアの整備が一気に進み、ハンディキャップを持つ方々が普通に電車で移動できるようになりました。また乗り物だけでなく、歩道を広くして、歩くことを楽しめるようにする“ウォーカブルなまちづくり”という取り組みもしています。来年のG7は日本がホスト国となりますから、交通大臣会合での話題になるでしょう。4年前にイタリアで開催したG7の交通大臣会合では、いろいろな車いすの展示がありました。通常の車いすは座ると立っている健常者と目線が合いませんが、イタリアのスタートアップがつくった車いすは立った状態で乗れるコンセプトのものがあり感心しました。このようにすべての方々が普通に暮らせる世の中にしていくために、世界中のいろいろな方々が努力をしています。今回の表彰式をきっかけに、すべての人にやさしい社会をみんなの力を合わせて作っていきましょう」と述べた。
続いて、本コンテストの審査員長を務めた、「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」の委員長である坂村健氏が本コンテストの趣旨を説明した。
「国土交通省では、2000年代初頭から自律移動をテーマに、車いすに乗っている方、視覚障害の方、外国の方を含めた、あらゆる方に対して、日本の中の移動をしやすくするための活動に取り組んでいます。例えば、皆さんが普段使っているスマホのマップには、スロープやエレベーター、点字ブロックがあるのかはわからない。これらの情報をスマホの地図の中に入れたい。国土交通省では“バリアフリーマップ”として、段差、階段、道幅が狭い、といった情報を地図に入れるためのデータ整備にも取り組んでいます。しかし、道路の情報は日々変わるので、バリアフリーマップを維持してくのはすごく大変。そこで、個人のスマホを使って周辺道路の情報を集める活動に協力してもらう活動を本委員会でやっています。こうした活動を広くみなさんに知ってもらうために当コンテストを開催しました。これをきっかけに、データの整備にもみなさんに協力していただけるとうれしいです」と語った。
■ネーミング部門
優秀賞「スマイル歩行ナビ」鈴木 結子氏
10年後、20年後の歩行をよりよいものにしていく活動の愛称を募集していた部門では、鈴木 結子氏の「スマイル歩行ナビ」が優秀賞に選ばれた。
受賞のコメント:
「このたびは、すばらしい賞をいただきありがとうございます。車いすやベビーカーを利用する人、すべての人々やロボットがスムーズに移動できる笑顔があふれる未来を願って『スマイル歩行ナビ』というネーミングを考えました」
■ビジュアル部門
優秀賞『あるこっく』米田 貴史氏
ネーミング部門と同じく本活動をよりよいものにしていくデザインを募集したビジュアル部門は、米田 貴文氏が考案したクジャクをモチーフにしたキャラクター「あるこっく」が選ばれた。
受賞のコメント:
「このアイデアコンテストを通して、未来の歩行について考えるきっかけになりましたし、このような賞をいただけてうれしく思っています。『あるこっく』は、10年後、20年後の歩行をイメージしたキャラクターです。コンセプトは、小さな子どもからお年寄りまで、多様な人種や性別、ベビーカー、車いす、ロボットなど多様性のある歩行。クジャクのモチーフは、年齢を問わずに親しまれる動物であり、多様性を感じさせるカラフルさから選択しました。『あるこっく』という名称は『歩こう』+『ピーコック』(クジャクの英名)から名づけました。曲線的な形やロボットを模すことで、未来を感じさせるビジュアルにしています。このキャラクターを通じて、多くの方に未来の歩行に興味を持ってもらえればと思っています」
■アイデア部門『バリアフリーの部』
我々の暮らす社会における「10年後、20年後の歩行」のあるべきかたちを考え、それを実現するためにあるとよい「もの」や「しくみ」などを募集していたアイデア部門。バリアフリーに関連する社会のあり方やアイデア、未来像を募集した『バリアフリーの部』では、Onion Ringの「PLAFETY(安全な未来広がる歩行空間デジタルツイン)」、金沢工業大学心理科学科6班「危険地点投票システム」の2作品が入賞した。
優秀賞「PLAFETY(安全な未来広がる歩行空間デジタルツイン)」Onion Ring
「PLAFETY(安全な未来広がる歩行空間デジタルツイン)」は、スマートフォンに搭載されたレーザーを利用し、歩行空間を計測した3次元データと危険箇所をサーバー上でデジタルツインとして共有。「周辺情報の把握」「危険箇所の共有」「危険箇所を考慮した道案内」を行うというもの。メタバースのベースにできるなどの可能性があるという。
Onion Ringメンバー代表 矢野 海悠氏の受賞のコメント:
「私たちは視覚にハンデを抱える方々を少しでもサポートするためにPLAFETYを提案しました。PLAFETYでは、スマホを首から下げてもらい、レーザーを用いて障害物や段差を3次元データで把握。利用者に注意を促します。さらにデジタルツイン上に情報を共有することで、ほかの利用者が初めて歩く場所でも障害物や段差など危険な箇所を考慮した道案内を可能にします。またこの情報を活用して、道路管理や信号機等の維持にも役立てられると考えています」
優秀賞「危険地点投票システム」金沢工業大学心理科学科6班
「危険地点投票システム」は、地域の歩行空間に存在する危険を、住人や利用者に手軽に報告してもらおうというアイデア。危険な場所を発見したときに、その位置と危険度、利用する頻度を報告。投票方式にすることで対処すべき優先度がわかりやすくなるという。
金沢工業大学心理科学科6班代表 成島 束咲氏のコメント:
「私たちは授業の一環としてコンテストに応募しました。『危険地点投票システム』は、革新的な技術で安全を確保する、というよりは、もともとある危険を効率的に取り除いていこう、という方針で考えたアイデアです。先行的な取り組みを調べたところ、インターネットを通して危険な地点を投票するものはあったものの、参加自治体が限定的であったり、入力項目が多くてとっつきにくい、という問題点がありました。そこで私たちは誰もが簡単に投票できるようにシステムを改善し、位置と選択式の質問に答えるだけとし、写真投稿と自由記述の入力は任意にしました。また結果をランキング形式にすることで自治体は優先的に対処すべき場所を一目でわかるようになっています。周知にはSNSの広告を利用することで幅広い人に知っていただけるのではと考えています。またネットの投票だけでなく、小中学校で実施されている校区内の簡易的なハザードマップを作る取り組みなども利用すれば有効な情報を効率よく集められるのでは、と考えています」
■アイデア部門『イノベーションの部』
10年後の歩行空間を見据えた新しい技術やシステムを募集したアイデア部門『イノベーションの部』は、佐賀大学 理工学研究科理工学専攻『光活用型交通サイン計画』が優秀賞を受賞。
優秀賞「光活用型交通サイン計画」佐賀大学 理工学研究科理工学専攻
「光活用型交通サイン計画」は、将来実現するであろう光の技術を利用し、歩行空間に存在する危険への警告や、施設や経路などの情報を空間上にわかりやすく表示するというアイデア。
メンバー代表 長野 竜己氏の受賞のコメント:
「『光活用型交通サイン計画』は、ながらスマホや歩きスマホによる交通事故や信号無視を減少させるために、光の技術を使って歩行者の安全性を確保しようという提案です。歩行者やクルマが交差点内に入るとレーザー光のサインを空間に大きく表示します。光なので、人やクルマにぶつかってもケガや破損にならないのが特徴です。光サインの応用として、駅など建物内の案内表示や災害発生時の危険地域の表示にも活用できます」
■特別賞
今回の募集では、児童からの応募も多かったという。そこで未来を担う子どもたちの作品から特に歩行者、移動支援との親和性、独創性の高い作品を特別賞として表彰。篠澤 花奈さんの「らくらくおたすけロボット」と矢野 和真さんの「アニメの世界に入れちゃう!アニメウォークメガネ」が入賞した。
特別賞「らくらくおたすけロボット」篠澤 花奈さん
受賞のコメント:
「『らくらくおたすけロボット』は、人や荷物を簡単に目的地まで連れて行ってくれるロボットです。専用アプリで目的地を設定するだけで、目的地に連れて行ってくれます。また自動車とロボットの道は分かれているので安全で渋滞にもなりにくいです。また、いす型のロボットなので車いすの人ともコミュニケーションをとりやすいです。思いついたきっかけは、家族でショッピングセンターに買い物に行ったとき、両手いっぱいの荷物が重そうだと感じてこのアイデアを考えました。赤ちゃんを抱っこしている人や旅行の手荷物が多い人に役立てたらいいと思います」
特別賞「アニメの世界に入れちゃう!アニメウォークメガネ」矢野 和真
受賞のコメント:
「アイデアはVRを使って人の助けになることや楽しめることを考えました。また、まちを歩いているときに暗い所やモノに当たりそうなところがあったりという、困りごとから思いつきました。このメガネをかけるとアニメの世界に入ったように、歩くのが楽しくなり、危険も防ぐことができます。お気に入りのポイントは、楽しめる機能と助ける機能の2つがあるところです。メガネには電源を入れるボタン、選ぶボタン、音量を変えるボタンがあり、アニメやゲームの世界に入って楽しめたり、安全性を踏まえて、信号や自転車、クルマは見えるようになっていたり、音も聞こえるようになっています。人を助ける機能としては、障害物があるときには声で教えてくれたり、またマップで検索すると行き方を案内してくれたりします」
坂村委員長による総評
最後に、坂村委員長が講評を述べた。
「皆さん、おめでとうございました。我々の委員会(ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会)は名前からして長くて難しい。この活動をもっとみんなに知ってもらうためにも、わかりやすいネーミングに変えたい、わかりやすいビジュアルがあればいいのに、という声は委員からもあり、ビジュアルとネーミング部門は非常に期待していました。『スマイル歩行ナビ』と『あるこっく』は、ぜひ積極的に活用していきたいです。
今回、アイデア部門は応募数が非常に多かったのですが、データを活用するという趣旨に沿ったものが少なかった。今回は第1回なので、次回からデータを使って人を助けられるイメージのアイデアが増えるといいと思います。受賞した「PLAFETY」と「地点投票システム」の2作品は非常によかった。スマホを利用して歩行者も一緒にバリアフリーマップを作っていこう、という考え方はまさに国土交通省がやろうとしているものです。イノベーション部門の光活用型交通サインは、今の技術では難しい部分もあるけれど、光を活用して注意喚起をするのはいいアイデアです。
特別賞の篠澤さんの『らくらくおたすけロボット』は、国土交通省でもモノを運ぶロボットについて考えているので、我々がやっていることそのもの。矢野さんのアニメウォークメガネもXRメガネが開発され、これから実用化が期待されています。まだお2人は小学生なので、ぜひこうした分野で貢献してもらえたら。最新の技術で飛行者を助ける活動をこれからも続けて、あらゆる人が楽に、楽しく歩いていけるような道をつくっていきたいので、これからもご協力をよろしくお願いします」
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