第183回 SORACOM公式ブログ

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ISDNをセルラー回線に置き換える利点と、パターン別構築例・費用【技術編】

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 本記事はソラコムが提供する「SORACOM公式ブログ」に掲載された「ISDNをセルラー回線に置き換える利点と、パターン別構築例・費用【技術編】」を再編集したものです。

こんにちは、ソラコムのテクノロジー・エバンジェリスト 松下 (ニックネーム: Max) です。

このブログは、ISDNの終了に伴って特に情報システムの方が行う必要がある「回線の置き換え」について、セルラー回線を利用する利点や構築に使えるサービスを紹介します。

ISDNのサービス終了についての概要やスケジュール等の基礎知識は「ISDNのサービス終了とは?総務や情シスが今知っておきたいスケジュールや代替案【基礎編】」をご覧ください。

「セルラー回線に置き換える」とは?

前回の基礎編でご紹介した通り、ISDNの置き換えにはいくつかの方法がありますが、ISDN回線に求められているコストや要件を満たす選択肢として、LTE / 5G といったセルラー通信への置き換えが現実的となりました。ISDNとの具体的な比較は、基礎編の『代替となる通信回線』の章をご覧ください。

セルラー通信を利用する利点

ネットワーク接続に用いるアクセス回線に、セルラー通信を使う利点は以下の通りです。

  • 開始までの手間
    • 回線工事が不要でつながる / オンラインで契約や発注が完結、調達の手間が少ない / Web 上での回線管理や料金確認、停止再開といった操作が可能
  • 接続性
    • 無線通信であるため設置先の自由度が向上 / 複数の通信事業者の利用による安定化
  • 費用
    • 接続時間課金からデータ通信量課金で費用最適化 / 利用形態に合わせたプラン選択

考慮すべき点としては「電波が届くところを探す」と「回線の品質」があります。
まず電波については、設置の自由度自体が向上していることから、本体を移動したり、製品によってはオプションの外部アンテナ利用によって確保ができます。回線の品質については、2024年1月以降は ISDN もベストエフォートになるため、回線による品質の差は小さいものと考えられます(基礎編『「補完策」で変わらないこと、変わること』参照)。

ISDN回線をセルラー通信で置き換え、活用事例

SORACOM Air for セルラー(以下、SORACOM Air)は、IoT向けデータ通信サービスです。「IoT向け」とは、課金形態や様々なIoT向け付加サービスが利用できるという意味であり、本質的には LTE / 5G の通信です。そのため、今回のようなISDN回線の置き換えにも検討できる通信サービスです。

セルラー通信の利点を活かしてSORACOM Airをご利用いただいている事例が「オンワード ホールディングス」様です。

催事場などで開催するセールにおいて、不可欠なのが決済端末やPOSを動かすための通信回線です。会場が決定してからすぐに通信回線の手配をしていましたが、手配に2〜3ヵ月かかり、また、ネットワークを会場全体に張り巡らせる工事も必要なため、時間と費用が課題でした。

LTE ルーターとSORACOM Airを組み合わせることで、開始までの手間と費用の削減を実現しています。また、閉域ネットワーク間を接続する SORACOM のサービス「SORACOM Canal」を用いることで、催事場のネットワークとAWSのネットワークを、これまでと遜色のないセキュリティでつなげています。

パターン別、ISDN 置き換えネットワーク構成例

ISDN の置き換えは、規模や用途で構成が異なります。ここでは、実現したいネットワーク別に構成例をご紹介します。

パターン1:拠点間接続の置き換え ― 両拠点ともセルラー通信を利用

それぞれの拠点を、セルラー通信(LTE や 5G)でつなげる手法です。双方とも ISDN 回線で、直接通信していたネットワーク構成の置き換えに使えます。

この方法の利点は、既存の環境への影響を最小限にしつつ、手軽に開始できることです。

以下の構成で実現できます。

  • SORACOM IoT SIM × 拠点数
  • SORACOM IoT SIM 対応デバイス × 拠点数
  • SORACOM VPG (Type-E) × 1つ
    • 当該 VPG で SORACOM Gate D2D を有効化

別ネットワークを作ることになり、既存ネットワークと併用には向かないため、テストや移行計画をしっかり立てることがポイントになります。

パターン2:拠点間接続の置き換え ― 既存のインターネット回線を利用

既に使っているインターネットの回線を流用する手法です。片方が ISDN 回線、もう片方がインターネット回線を利用している構成の置き換えに使えます。

この方法の利点は、既存の通信回線を流用できるため資産の有効活用ができることです。既存ネットワークとの併用もしやすいため、柔軟性の高い構成と言えるでしょう。

インターネット側の拠点数を1とした場合、以下の構成で実現できます。

  • SORACOM IoT SIM × 拠点数
  • SORACOM IoT SIM 対応デバイス × 拠点数
  • SORACOM Arc で発行した仮想 SIM × 1
  • WireGuard 導入済みのデバイス × 1
    • パソコンにインストールしたり、ルーターで動かすといった選択肢があります。
  • SORACOM VPG (Type-E) × 1つ
    • 当該 VPG で SORACOM Gate D2D を有効化

SORACOM Arcとは、VPNでSORACOMプラットフォームに接続できるサービスです。VPNには WireGuard を利用しており、UDPベースのプロトコルを使用します。また、ポート番号は設定ファイル内で指定します。そのためファイアウォールの設定によっては、 VPN 通信を確立できない事があり得るため、利用前にインターネット通信を管理している部門へ相談することをおすすめします。

その際に利用できる資料は以下の通りです。

パターン3:クラウドやデータセンターとの接続

SORACOM の閉域化サービスを使い、閉域ネットワークを作る手法です。データ交換用のサーバーやシステムをクラウドに置き換える際に使える方法です。

利点は拠点間通信にクラウドを組み込むことができるため、ただの置き換えに留まらず、今後の発展性に寄与できます。

クラウド上の兵器以下の構成で実現できます。

  • SORACOM Air for セルラーもしくは SORACOM Arc 回線 × 拠点数
  • クラウド上の閉域ネットワーク(例: Amazon VPC) × 1
  • SORACOM VPG (Type-F) × 1
    • SORACOM Canal もしくは Door、Direct のうちどれか1つ × 1
    • 当該 VPG で SORACOM Gate D2D を有効化

この接続形態は、例えば AWS とのつなげ方も Amazon VPC や AWS Transit Gateway を利用する手段があるなど、複数の方法が考えられるため、ご相談いただくのも1つの手です。

SORACOMを用いた場合の費用

ここでは以下の条件において、構成例の一番最初でご紹介した「両拠点ともセルラー通信を利用」の場合において、それぞれの運用費を見比べてみます。

条件は以下の通りです。

  • 2拠点間を接続
  • 1日当たり2時間接続=116MBの送受信(128Kbps換算で接続中は常時送信)を30日間
  • 初期費用や機器の金額は含めず

その結果、ISDN (INSネット64ライト)の場合は、1か月あたり約3万円ですが、SORACOM による両拠点とも LTE/5Gの場合は、1か月あたり約1万円となります。

それぞれの内訳は以下の通りです。

数量 単価(円) 金額(円)
INSネット64ライト(事業用)基本料 2 3,883 7,766
60時間分(2時間×30日) 通話料(市内通話) 2 11,220 22,440
合計 30,206
ISDN (INSネット64ライト)の場合
数量 単価(円) 金額(円)
SORACOM Air plan-D D-300MB 基本料 2 330 660
容量追加(3,500MB分) 2 770 1,540
VPG Type-E (SORACOM Gate D2D) 1 8,184 8,184
合計 10,384
SORACOM による両拠点とも LTE/5Gの場合

※ 金額は2022年11月現在の税込みです。算出根拠は INSネット64ライトのページSORACOM 料金見積もりツールを利用しています。

参考までに、上記における SORACOM の初期費用の概算も出しておきます。

数量 単価(円) 金額(円)
SORACOM IoT SIM plan-D D-300MB (nanoサイズ / データ通信のみ) 2 902 1,804
SORACOM Onyx LTE USB ドングル 2 11,968 23,936
合計 25,740
SORACOM による両拠点とも LTE/5Gの場合の初期費用

※ 金額は2022年11月現在の税込みです。

SORACOM では、オンラインで試算できる見積もりツールを提供しています。現状の通信量がわかれば、すぐにでも正確な金額をお見積りいただけます。

置き換え検討時のチェックポイント

最後に、置き換えの検討時に確認しておきたい項目2つをご紹介します。

  • IP アドレス設計
  • アプリケーション
    • ネットワークセグメントを越えられないアプリケーションは、利用の再検討が必要となります。これは拠点間接続が基本的に IP ネットワークセグメント間接続となるためです。

技術編のまとめ

ISDN 回線の置き換えについて、基礎編と共にご紹介してきました。

2022年11月に開催した、ISDN・専用線置き換え対策セミナーでいただいた質問の中に「置き換えが付加価値の向上につながった事例はありますか?」というものがありました。

冒頭でご紹介した「セルラー通信の利点自体」や費用削減も付加価値になり得ますが、特に「クラウドやデータセンターとの接続」といった構成は、例えば信頼性の高いクラウドストレージを安価・セキュアに使えたり、そのデータを別の業務へとつなげていく事ができる可能性を秘めています。

置き換えを「付加価値を上げるチャンス」と捉えて、モダンなネットワーク作りのヒントとして本ブログが役立てば幸いです。その際には、ぜひSORACOMをご活用ください!

― ソラコム松下 (Max)


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