新横浜ラーメン博物館のウラ話 第20回

ラー博にまつわるエトセトラ Vol.15

あの銘店をもう一度第8弾 「呼び戻し」スープ発祥のお店 久留米「大砲ラーメン」

文●中野正博

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 みなさんこんにちは。2024年の3月に迎える30周年に向けて、これまで実施してきましたさまざまなプロジェクトが、どのように誕生したかというプロセスを、ご紹介していく「ラー博にまつわるエトセトラ」

 2022年7月より、過去にご出店いただいた約40店舗の銘店を2年間かけて、3週間のリレー形式で出店していただく「あの銘店をもう一度“銘店シリーズ”」と、11月7日より、1994年のラー博開業時の8店舗(現在出店中の熊本「こむらさき」を除く)が、3ヶ月前後のリレー形式で出店する「あの銘店をもう一度“94年組”」がスタートしました。約5カ月が経ちましたが、おかげさまで大変多くのお客様にお越しいただいております。

 前回の記事はこちら: あの銘店をもう一度”94年組”がスタート! トップバッターは引退に向けた最後の舞台。目黒「支那そば 勝丸」

 過去の連載はこちら:新横浜ラーメン博物館のウラ話

 第8弾は「呼び戻し」スープ発祥のお店 久留米「大砲ラーメン」の登場です!!

 出店期間は2022年11月25日(金)~12月15日(木)

大砲ラーメンの「昔ラーメン」

 九州とんこつラーメンの発祥は「博多」と思われがちですが、九州ラーメン及びとんこつラーメンの発祥は、同じ福岡県の「久留米」なのです。

 九州ラーメンの発祥は1937(昭和12)年創業の久留米「南京千両」です。そして、現在の白濁したとんこつラーメンの源流となるお店が1947(昭和22)年に誕生した久留米「三九」であり、「三九」の味は約100人とも言える弟子や孫弟子によって九州全域に広まりました。

 そのとんこつラーメン発祥の地久留米において、1953(昭和28)年創業、半世紀以上継ぎ足されてきた伝説の「呼び戻し」スープが味わえる、久留米の雄「大砲ラーメン」。 大砲ラーメンの歴史は戦後の復興期となる昭和28年、初代 香月 昇(かつきのぼる)氏が久留米の明治通り沿いに屋台を開業したことに始まります。屋号の「大砲ラーメン」は昇氏が「家を飛び出したら最後、二度と戻らない鉄砲玉のような人」だったことにちなみ、鉄砲では小さい、でっかく大砲にと命名されました。

大砲ラーメン創業者 香月昇さん

 初日の売り上げはわずか18杯。初代は前日の売り上げを手に、熊本まで良質の豚骨を買い付けに出かけながら「とにかくいいスープを作りたい!」と毎日このことばかり考えていたようです。

 その一念で誕生したのが大砲ラーメンの代名詞となる「呼び戻し」スープです。

 その一方、二代目 香月均史(ひとし)氏は当時、家業を継ぐ意思がなく、グラフィックデザイナーと音楽活動という夢をに向かって突き進んでいました。しかし、1976(昭和51)年、先代夫婦が突然同時に倒れ、均史氏は家業を継ぐことを決意したのです。

二代目 香月均史さん

 大砲ラーメンには創業以来、空にしてこなかったスープ釜があります。毎日、その釜の熟したスープに別の釜で作った新しいスープを少しずつ継ぎ足すことにより、より深いコクと旨みを出すというもので、初代 昇氏が試行錯誤の末に生み出した技法です。濃厚でありながらもまろやかな口当たりの味。初代が作り上げた技法を二代目 均史氏が「呼び戻し」と命名しました。

 この技法は単純に継ぎ足すだけではなく、季節や日によって調合が異なるため高い技術を要します。均史氏曰く「呼び戻しとは、積み上げられた歴史の味を今日に残すという意味で、勘と経験が物を言います。技術を身につけるまで最低でも3年の年月が必要です。」とのこと。今回のラー博出店の際も釜から釜へ、店から店へと「スープ分け」を行うことで、創業当時から熟成され続けた「呼び戻し」スープは引き継がれるのです。

半世紀以上つぎ足し続けた伝説の「呼び戻し」スープ

 大砲ラーメンのとんこつスープは他の食材を一切使用せず、豚骨だけを用いています。この豚骨を強火で濁らせながら、創業以来、継ぎ足し仕込み《通称:呼び戻し》で半世紀以上もの期間、骨の髄までひたすら炊き続けたものです。調味料は、味噌・醤油に頼らずに"塩"が基本になっているのも特徴のひとつです。

旨味とコクを兼ね備えたスープ

 麺は、国産小麦を独自にブレンドした大砲ラーメン専用粉を使用。スープとの絡みを考え、低加水(麺に加える水の量)のストレート中細麺で、コシと滑らかさがあります。

低加水のストレート細麺

 久留米ラーメンの特徴と言われながら姿を消してしまったのが通称「カリカリ」で、手作りのラードから生まれる豚脂の揚玉です。昔ラーメンのみに入っている具材です。

通称「カリカリ」豚脂の揚玉

 2014年7月、福岡・佐賀の2県を対象とした「ミシュランガイド福岡・佐賀2014 特別版」が発売されました。「ビブグルマン」の受賞対象店舗は福岡エリアで66店舗、うち4店舗がラーメン店で、大砲ラーメンがその中で2店舗(本店・長門石店)受賞の快挙となりました。

  大砲ラーメンさんの出店は2022年11月25日(金)~12月15日(木)の3週間です。皆様のお越しをお待ちしております。

 次回は銘店シリーズ第9弾 「八戸麺道大陸」について発表させていただきます。 お楽しみに!!

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文/中野正博

プロフィール
1974年生まれ。海外留学をきっかけに日本の食文化を海外に発信する仕事に就きたいと思い、1998年に新横浜ラーメン博物館に入社。日本の食文化としてのラーメンを世界に広げるべく、将来の夢は五大陸にラーメン博物館を立ち上げること。