京都大学などの国際共同研究チームは、水(軽水またはH2O)と重水(HDO、D2O)を効率よく分離できる多孔性材料(細孔が非常に多く空いている材料)を世界で初めて開発した。重水は、原子炉の減速材のほか、放射線治療における医療応用や、ニュートリノ検出、研究の現場において溶媒として用いられており、現代社会には欠かせない物質である。
京都大学などの国際共同研究チームは、水(軽水またはH2O)と重水(HDO、D2O)を効率よく分離できる多孔性材料(細孔が非常に多く空いている材料)を世界で初めて開発した。重水は、原子炉の減速材のほか、放射線治療における医療応用や、ニュートリノ検出、研究の現場において溶媒として用いられており、現代社会には欠かせない物質である。 研究チームは水と重水を分離するために、有機分子と金属イオンからなるジャングルジム状のネットワーク構造で、内部にナノサイズの微小な筒状の細孔を無数に持つ多孔性材料を開発。この多孔性材料の細孔に、細孔内を通過するガス分子の流量の調整や、ガスの種類の選別を可能とする「ゲート(扉)」の役割を担う分子を組み込んだ。 実際に計測したところ、今回開発した多孔性材料中では、水分子の方が重水分子よりも2倍以上早く拡散。同材料に水と重水の両方を含む蒸気にさらすと、水分子が優先的に細孔中に入っていくことがわかった。このときの分離係数(分離操作をした後の2成分の比を、分離前の2成分の比で割った値)は最大212にまで到達し、従来法における分離係数に比べて100倍以上大きな値が得られた。 自然界の水には、およそ0.02%の割合で、水分子の水素(H)が重水素(D)に置き換わった重水が含まれている。水と重水は性質がほぼ同じであるため、分離して精製することが非常に困難だった。従来知られている水と重水の分離方法は分離係数が1.02~1.20程度であり、分離するために何度も蒸留を繰り返したり、電気分解をしたりするなど、莫大なエネルギーやコストがかかっていた。 研究論文は2022年11月9日付けで、ネイチャー(Nature)オンライン版で公開された。(中條)