マリンスポーツは不確定要素が多いので
シミュレートするのが非常に難しい
こういったICTを駆使したスポーツへの取り組みというのは、ランドスポーツではかなり進んでいる。一方でマリンスポーツでは水、特に海水への対応が大変なことと、陸から離れた海上で行なわれるため、リアルタイムでデータを送信するには通信環境のハードルが高く、ランドスポーツほどの普及は進んでいない。
そのためマリンスポーツでは、たとえば風や波にあわせてセールやボードのセッティングを変えた場合、それで本当に速くなっているのかどうかというのは、プレーヤーの感覚に頼っていたところが大きかった。これがデータとして収集できれば、より効率の良い練習などができるというわけだ。
今回そういったハードルを乗り越えて、NTT人間情報研究所が「ウインドサーフィンシミュレーター」を開発している。まずはカメラや傾き・速度といったセンサーに加えて、LTEでの通信が可能なモジュールを開発。そのモジュールをウィンドサーフィンのマストやボードに取り付け、海上からリアルタイムでデータを送信している。
陸上では、そのデータを元にウィンドサーフィンのボードとマストの傾きを再現できるシミュレーターを設置。海上で走行するプロウィンドサーファーが操作するボードの動きを、リアルタイムで体験できる。
シミュレーターの映像は本来だとHMD(ヘッドマウントディスプレー)を使って、より没入感のあるリアルな体験が可能だが、今回は屋外ということで、通常のディスプレーでの再生となっていた。ちなみに説明員によると、屋外でのHMDは外光が影響して想定どおりに動作しないためとのこと。
また会場そばの駐車場には、ドコモの移動基地局車を配置し、シミュレーターへのデータ送信は5Gを経由していた。海上のウィンドサーフィンからのデータ送信も、低遅延がウリとなっている5Gにしたいところだが、バッテリーと通信エリアの問題で、現状は4G/LTEの通信を使用しているそうだ。
リアルタイムのデータではなく、収集したデータを元にウィンドサーフィンの動きを再現した状態のシミュレーションを体験してみたところ、かなり本物の動きに近い印象。筆者はウィンドサーフィンの経験が多少あるが、セールの引き込み具合こそ再現はできてはいないが、ボードのヒール・アンヒール(傾き)や風によって変わるマストの動きが映像としっかりリンクしていて、かなりリアルに感じた。
マリンスポーツでのICT導入が進むことで、競技者のレベルだけでなく競技人口の拡大にもつながるので、今後の展開に期待したい。