自動走行ロボット実証実験を11月26日に実施
車いすが通れる道は自動走行ロボットでも進めるのか?実証実験の課題を聞く
この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。
将来的な自動走行ロボットの運用に向けた実証実験が11月26日に行われます。今回の実験でのルートの選定方法やクリアしたい課題などについてお話を伺いました。
未来の物流を担う存在として期待されているのが自動走行ロボットだ。その自動走行ロボットが実際に社会で活躍するには、ロボットのハードウェアやソフトウェア、そして社会的な制度など多岐にわたる開発・整備が必要となる。
現在、国土交通省では、それらの課題解決に向けて自動走行ロボットの実証実験の準備を進めている。実際に人が生活しているUR団地と駅との間を走行し、ロボット運用上の問題点をクリアにしていくものだ。
東京都北区のJR赤羽駅前からヌーヴェル赤羽台団地までの区間を舞台とした今回の実験のルートやロボットの詳細については、6月に行われたプレ実験の記事でご紹介した通り。
参考記事
・「自動走行ロボットにもバリアフリー情報を。この秋「歩行空間ネットワークデータ」を活用した配送実験実施へ」
https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2135201.html
・「自動走行ロボット「プレ実験」ソフトウェア開発担当者に話を聞いた!」 https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2135365.html
プレ実験を通じて作成した3次元地図を用いて、11月26日にはいよいよ本格的にロボットの自動走行を試験する本実験が実施される。
そこで今回は、ロボットの運用を担う株式会社パスコとYRPユビキタス・ネットワーク研究所、ユーシーテクノロジ株式会社の担当者にお話を伺った。
※記事中の写真は6月に行われたプレ実証実験の際のものです。
歩行空間ネットワークデータを生かしたロボット運行
「今回の実証実験では、歩行空間ネットワークデータのバリア情報がロボットの運行をするときにうまく当てはめることができるかということを検証します」と言うのは、ユーシーテクノロジ ユビキタス事業部 部長の峯岸康史氏。
「車いすだとだいたい2cmくらいの段差がをひとつの壁になっていますが、ロボットだと5cmくらいでも問題ありません。またそういう段差とか勾配、道の幅といったことが大きく影響するんだということはプレ実験でわかっていました」と峯岸氏は続ける。
「歩行空間ネットワークデータ」は、歩道などの歩行空間の段差や傾斜など歩行の支障となるバリア情報や、車いすでも利用できるエレベーターといったバリアフリー情報をまとめたもの。オープンデータとしてさまざまな分野で活用できるようになっている。
参考記事
・「バリアフリーに役立つ歩行空間ネットワークデータ」
https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2183968.html
・「歩行空間ネットワークデータを使うとなにができるの!?」
https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2214373.html
車いすで通行できるということは、裏を返すとタイヤで走行するロボットも通れるということでもある。今回の「自動走行ロボットとの連携」をテーマにした実証実験は、歩行空間ネットワークデータを利用した自動走行ロボットがコンビニエンスストアから団地の住居まで荷物を届けることを想定したものだ。約500mの距離があり、実験環境ではなく、日常的に人が暮らす空間での実証実験という点もポイントのひとつだ。
ロボットがエレベーターに乗り込む
同行している係員がボタン操作をしていたプレ実験とは異なり、本実験ではルート内にあるエレベーターに自動的にロボットが乗降するということも大きな特徴となっている。
「クラウドからエレベーターを制御します。ロボットがエレベーターの前に来ると、それを検知してクラウドシステムからエレベーターに行き先のボタンを押す信号を出します。そして目的地に着いたら降りる信号を送ります」とYRPユビキタス・ネットワーク研究所の山田浩之氏は説明する。
「今回のエレベーターは上と下の単純なものですが、このシステムを利用すれば、たとえば集合住宅でロボットが現在いる階を判断し、エレベーターを呼んで別の階に移動して荷物の配送をするといったこともできます」
クラウドからエレベーターを制御する技術自体はもともとあるものだが、今回使用するエレベーターには機能が備わっていなかったため、実験に向けて工事をして機能を実装するという。
実証実験を通じて歩行空間ネットワークデータを促進
「ロボットが自律走行するためには、どんなデータが必要なのかを突き止めることも今回の実証実験の大きなテーマです」と、株式会社パスコ 中央事業部 空間情報コンサルタント室 室長の高塚智道氏は語る。
「現在は国土交通省の仕様に従ってルートのデータを作成しています。凹凸といったバリアフリーのデータというのは歩行空間ネットワークデータを除いてなかなかありませんので、そこに自動走行ロボットに必要なデータを整理することで、よりよいデータにすることができると思います。たとえば車いすでの移動だと段差は2cmが一つの目安になるんですが、ロボットだと5cmでも行けるんですね。必要とされる要素が変わってくるんです」
峯岸氏は「また、ここは道幅が狭い、ここに段差がある、といった物理的なバリアは回避しやすいんです。しかし人が密集しているとか、データにはない想定していない物体が突然そこに転がっているというのは大きなバリアになるかなと思っています。そういった可能性も、うまくデータとして整理することが必要だと思っています」と言う。
実用化を進めるための法整備も課題に
今回の実証実験は基本的に全行程をロボットが自律走行をするが、停止した後にスタートする際には人間の操作が加わるという。
それについて山田氏は、「ロボットは横断歩道に着くと自動的に止まります。今回の実験では、信号が青になって動き出すとき、近くの操縦者が“Go”の信号を出すことになります。信号の変化を検知して自動で発進することは技術的にはもちろんできますが、現状の法律的な制約があってスタートの判断は人間が行わないといけないんです。そういった法律の整備もこういった実験を行うことで進められるのではないかと期待しています」と説明する。
自動走行ロボットが安全に生活に溶け込み、便利な社会となる未来に向けての一歩となる今回の実証実験。その模様は11月26日(土)に行われる「TRONイネーブルウェアシンポジウム TEPS 35th」で紹介される。リアルとオンラインでの参加者を募っているので、興味を持たれた方は申し込んでみてはいかがだろうか。