今回のテーマでもある「足るを知る」の意味
──カリキュラムでも「吾唯足知」という言葉を使われていました。
落合氏 「⾜るを知る」経済学である仏教経済学みたいなものを導⼊して、「⾜るを知る」ことでコミュニティーベースの⼈の顔が⾒える道具があれば何とかなるんじゃないかという話をしました。顔の⾒える道具っていうのは、今の世界ではたとえばバナナペーパーを作った⼈の顔はわかるし、和紙をすいたおばあちゃんの顔もわかるわけです。そうなってくるともったいなくてちゃんと使うわけなんですが、そうじゃないものが世の中にあふれていてなかなか難しい。
落合氏 そういったものを⼿にして顔の⾒える道具や⾜るを知ることを学んでいったら、最後SDGsの問題というのは「再分配」、どうやって持てない⼈に持っている⼈から渡していくか、ということをもっと考えないといけない。そこのところをみんなに考えて欲しいなと思って講義を組みました。
鈴木氏 SDGsと⾔っても、画一化された領域課題に対する模範回答を知るだけでは対処止まりです。つまりなぜ⾎が出るかがわからないままに、ただ⽌⾎処理を頑張るみたいな。そこが問題だと思っていて、なぜ僕の腕から⾎が垂れ続けているんだろうという理由が、⾎⼩板が⾜りないとか動脈が硬化して血管が傷ついてるというのであれば、そっちから対処しないといけません。
SDGsに169のターゲットがあると⾔われても今ある課題が今のまま続くとは思えないし、悪化するかもしれない。複合的な要因でまた違う形の課題に変わるかもしれません。現在の姿がずっと続くという考え⽅はやめた⽅がいいかなと思っています。表層的課題の背景にまで洞察をめぐらせられる力を養っていく必要がある。そういった力は座学だけではなかなか身につかない。
鈴木氏 科学的知見の重要性について、たとえば今回のカリキュラムにあるアルカリ水溶液の性質や鉄の酸化還元反応を自ら手を動かして体験する過程で、これは教科書に書いてあることの応用なんだなと気づく人もいたかもしれない。SDGsの講義を通して「バナナペーパー」という具体に触れたからこそ、商品連鎖の地理空間的な広がりについて思いをめぐらすことができたかもしれない。サマースクールというのは、そういう座学知見の応用に適した場所だと思う。
そういう意味では、落合さんの⼦育てが不思議で、しかしとても参考になっている。⼦どもが椅⼦を指して「これなあに︖」って聞かれたとき、椅⼦って答えないんですよ。これは合成繊維とか鉄とかアルミとか⾔うのです。
鈴木氏 そういうふうにどこまで分解してモノを理解していけるかというのは、⾮常に重要なことです。課題は分解することで、それに対処するためのテクノロジーとか、学術的な⽂化的な知⾒とかと紐づけることができる。その発想⼒が豊かな⼈というのは、裏を返せば結びつけるところ、多分ひらめきが優れているはず。⼀般的な理解と、落合さんみたいなクリエイターの理解とはギャップがある、乖離があるなと思っています。
SDGsの視点というのは誰⼀⼈取り残さないですが、誰⼀⼈取り残されていると思わせないことが⼤事だと思います。
卒業証書にNFTを採用した理由
──サマースクールの卒業証明にNFTを使っている理由は?
鈴木氏 私⾃⾝のこのサマースクールの狙いは、落合陽⼀という知性の再⽣産です。ところがそれが⾮常に困難で、⼈類の⽣産活動に対して落合陽⼀という極値を導き出すためのプロセスが⾒えてない。この活動を通して、どういう⾵なところが化学変化の起点となり得るのか。それを⾒つけていくための動きではあるのかなと。いずれにせよ、こういう活動を通して変わっていく⼈が出るといいなと思います。
AO入試が一般化し、サマースクールのようなワークショップは今後たくさん商品として並ぶことになると思います。環境問題を知ろうみたいなスクールがたくさん出てきて、それが恐らく内申点などに効果があるというようなマーケティングもされていくと思います。ただそれではSDGsウォッシュとかグリーンウォッシュ、かつてのロハスウォッシュみたいに、何でもかんでものし袋に⼊れるような感じで終わってしまう気がしてよくない。知恵となるような課外スクールの本質は守っていきたいなと思っています。
それには先⽣の牽引⼒も重要ですが先生を補佐するティーチングアシスタント(TA)も大事です。このサマースクールでは、かなり過保護なぐらいに⼿取り⾜取りのハンズオン要員としてTAを多数配置しています。そのハンズオン要員が実は⼀番⼤事。会話や相談の相⼿がいることで学べるみたいところもあります。さらにこのサマースクールのなかから、次のTAが⽣まれてくることもでてくるはずです。
鈴木氏 そういう全体の⽣態系それを作っていくことが、サスティナブルな活動のためには⼤事でしょう。もちろんお⾦やITやクリエイティブっていう実行委員会としての原資調達も必要ですけど、それに加えて⾃発的に協⼒したくなるような同窓⽀援の枠組みが必要です。そういうことも鑑みのてのNFTとかブロックチェーン技術を使っての実績証明ということになるんだと思います。
2016年に実施したサマースクールの卒業生はまもなく大半が20代になります。また、今回のサマースクール参加者のうち7名は過去のスクールを卒業し卒業証明NFTを持っていたことで優先予約権を行使して参加されました。落合教育を受けた生徒たちがNFTネットワークを組むメリットは、TAを含む一生涯の相談相手を得られることにあると思います。
彼女ら彼らは、落合先生と過ごす3日間を通して「変だよね」を「ユニークだよね」とポジティブに解釈できる基礎教養を身につけます。そういう卒業生が再び戻ってきてくれて、もちろん生徒としてでも良いですし、TAになってくれたらさらに嬉しい。そういった同窓生のネットワーク、相談しあえる動線をちゃんと維持すること、これが私たち裏方には求められているのだと思います。
──ありがとうございました。