真夏を思わせる6月の赤羽でプレ実証実験を実施

自動走行ロボットにもバリアフリー情報を。この秋「歩行空間ネットワークデータ」を活用した配送実験実施へ

文●鈴木ケンイチ 編集●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 国土交通省が主導する『バリアフリー・ナビプロジェクト』の取り組みの中で、配送を行うための自動走行ロボットとの連携のためのプレ実証実験が6月に実施された。その様子をレポートしよう。

配送の自動走行ロボットに「歩行空間ネットワークデータ」を活用

 国土国交省は今、『バリアフリー・ナビプロジェクト』を推進している。これは、歩道などの歩行空間の段差や傾斜など、歩行の支障となるバリア情報と、その逆の車いすでも利用できるエレベーターなどのバリアフリー情報、そのふたつをまとめた「歩行空間ネットワークデータ」を構築し、オープンデータとして様々な分野で活用できるように進めるのが狙いだ。

 そうした取り組みの中、「歩行空間ネットワークデータを活用した実証事業」のひとつとなる「自動走行ロボットとの連携」をテーマにした実証実験がこの秋に予定されている。宅配など、世界的に需要の高まる自動走行ロボットには、走行する歩道のバリア&バリアフリー情報が必須という点に注目し、実際に配送のための自動走行ロボットを「歩行空間ネットワークデータ」を使って走行させ、その成果を「歩行空間ネットワークデータ」の仕様改定に利用するのが狙いとなる。

 実証実験は、6月下旬に「プレ実験」を行い、11月に「本実験」という2段階の実施。舞台となったのは、東京都北区にあるJR赤羽駅前のコンビニエンスストアから、500mほど離れた丘の上の「ヌーヴェル赤羽台団地」までの市街地だ。途中にエレベーターを使うのが特徴のひとつとなる。

プレ実験において赤羽の街中を移動するロボット。今回は自動ではなく人が操作して走行。前後に安全確保のための誘導員を配置していた

ちょっと大きめのスーツケースのような自動走行ロボット

 プレ実験が実施された6月下旬の実施日は、例年より20日も早い梅雨明け宣言が発せられた直後の真夏日であった。焼け付くような駅前の歩道に登場したのが、川崎重工業がティアフォーと共同開発した配送ロボット「FORRO」(試作1号機)だ。ハードウェアの開発は川崎重工業、自動運転のソフトウェアはティアフォーが担当したという。

 川崎重工業は船舶から産業設備、オートバイまでを手掛ける歴史ある大企業だ。一方、ティアフォーは、自動運転のためのオープンソースソフトウェア「Autoware」を手掛ける日本発のベンチャーとなる。老舗とベンチャーがタッグを組んだ自動走行ロボットというわけだ。

川崎重工業とティアフォーが共同開発する自動走行ロボット「FORRO」

 自動走行ロボット「FORRO」のサイズは、幅が60cm、長さが81.5cm、高さが120cmという大きめのスーツケース程度。本体重量は約45kg。4輪がついており、後ろ側2輪が電動で駆動する。通常走行速度は時速3km、最大速度が時速6kmだという。本体の上にある筒状のモノが、周囲をレーザーで検知するセンサー(LiDAR)で、本体の前、横、後ろにも小さなカメラが備わっている。ただし、自動運転はLiDARを主に使い、カメラは遠隔監視用だという。

 進行方向側の上にパネルがあって、そこに可愛らしい目玉が描かれている。ボディは上が白、下が黒の2色に塗り分けられている。中は上半分が配送用の荷物を収納するスペースとなっており、上体の白い部分がフタのように開け閉めできるようになっている。80サイズの段ボールを6~7個、最大30kgほどを搭載できる。

自動走行ロボット「FORRO」の上半分は開閉式で、内部に最大30kgの荷物を載せることができる

狭い歩道をゆっくりと、そして確実に移動

 今回のプレ実験では、「自動走行に必要な精細な3Dデータの取得」と「実際の道を自動走行ロボットが走れるのかを確認する」ことが目的だ。「自動運転」であること、「歩行空間ネットワークデータの活用」は、本実験に譲り、今回は行われない。3Dデータの取得は、自動走行ロボットの上部にあるLiDARによって行われる。

「FORRO」のメインセンサーとなるのはレーザーを使うLiDAR

走行しながらLiDARで周囲を計測、詳細な3Dマップを作るのがプレ実験の目的

 走行ルートは本実験と同じとなるが、ロボットの操作や監視体制、エレベーターの利用方法は別となる。今回ロボットは、すぐ後ろを歩くティアフォーのスタッフによって操作・監視されており、前後に一人ずつ誘導員がつく。

プレ実験ではエレベーターの操作は誘導員が実施。本実験では自動を予定しているという

 スタート地点となるのは、赤羽駅から、ほんの数百メートル先にあるコンビニエンスストア前の歩道だ。普通に歩行者や自転車に乗る人が行きかう中でプレ実験はスタートした。

 歩道の凹凸はそれほどひどくなく、ロボットはスルスルと移動してゆく。移動スピードは、普通の歩行者とほとんど同じだ。ただし、電柱や花壇などが歩道に張り出しているところで一旦停止して、ロボットとの間隔を、誘導員がメジャーを使って測ってゆく。そのため、少し走っては、停まるを繰り返す。

 歩道を規制しているわけではないので、歩行者や自転車に乗る人とすれ違ったり、追い越されてゆく。そのときもロボットは停止して、安全を確保する。また、ルート上には、赤羽駅前の大手スーパーの入口があり、人が頻繁に出入りする中を突っ切るときは、人波が途切れるのを辛抱強く待つシーンもあった。

歩行者や自転車が近づいたときは一旦停止してやり過ごし、安全を確保した後に動き出す。

移動ルートは、歩道や横断歩道など、歩行者と同じ場所を利用する。

 走行ルートには、歩道だけでなく、横断歩道も含まれる。しかしロボットは、歩道と道路の段差を難なくクリア。一旦停止を繰り返すため、移動スピードは遅いけれど、その足取りはしっかりとしたもので、不安を感じさせる場面はほとんどなかった。

 また、エレベーターに関しては、今回は、誘導員が操作を担当。団地住民の利用を優先で乗車を見送ったため、やはり時間はかかったが、同じように問題は発生しなかった。

 駅前のコンビニエンスストアを出発し、歩道を使って団地に向かい、エレベーターで丘の上の団地エリアへ移動。団地の中をほぼ一周した、団地の裏のような場所がゴールとなった。移動距離は約1㎞。普通に人が歩けば15分ほどの距離だろう。ロボットは45分ほどをかけて移動した。

街ゆく人の注目度は非常に高かった

 今回のプレ実験は、前後に誘導員がいて、しかも、すぐ後ろに操縦者がいた。言ってみればリモコンの台車のようなものだ。実験室ではなく、リアルワールドで走り切ったという点では、大きな一歩ではないだろうか。

 また、地元の住民によるプレ実験への注目度も高く、「これは配達ロボットなのか?」という問いかけが何度もあった。コロナ禍の下での生活で、宅配需要が高まっていることも影響しているのだろう。自動走行ロボットへの関心の高さが感じられたのだ。

 次回更新の記事では、このプレ実証実験の狙いや秋に行われる本番の実証実験に向けた取り組み、また自動走行ロボットのソフトウェアについてなど、ティアフォーに詳しくお話をお聞きするのでそちらもあわせてお読みいただきたい。

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