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山谷剛史の「アジアIT小話」 第181回

中国産CPUやGPUが続々発表、中国政府も力を入れる脱米国は現実化するか?

2022年06月22日 15時00分更新

文● 山谷剛史 編集● ASCII

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 中国製パーツだけでPCが動く環境が徐々にだができつつある。つまり電源やケース、ファンだけでなく、SSDやメモリー、CPU、ビデオカードまで中国企業が開発・製造したパーツが登場しているというわけだ。

 以前にも本連載で、中国製パーツを組み立てて、Windowsのアプリまで動く様子について紹介している(「中国独自の命令セットのCPUとパーツを用いた「完全中国製PC」でWindowsアプリが動いたと話題に」)。その後、さらに新たに中国産パーツの新しい話題が出てきたので今回紹介していきたい。

中国メーカーMoore Threads(摩尓線程)が開発したGPU「蘇堤」搭載したビデオカード「MTT S60」

独自命令セットのCPUを開発する龍芯科技
政府からの補助金で徐々に製品を実現し、ついに上場か

 まず独自命令セットを採用したCPU、「龍芯」をリリースしている龍芯科技は、前回紹介した「3A5000」の後、6月に「3C5000L」を発表した。3A5000と3C5000Lの違いは、前者がコンシューマー向けで後者がサーバー向けというもので、演算速度は160GFlopsから560GFlopsへと向上している(サーバー向けで消費電力も大きく増えている)。

 160GFlopsというとPS4やSandy Bridge時代のCore i7レベル、560GFlopsでは第11世代のCore i9レベルとなるが、x86バイナリを動かす場合は、かつてのトランスメタ「Crusoe」のように「命令を変換して処理する」ことから160GFlopsの龍芯でも体感速度はPentium 4並と評されている。3C5000Lでもまだ現在のPCよりは体感的にかなり遅いのではないだろうか。

 とはいえ、龍芯科技は実際の製品を出し続けている。そんな同社はCPU開発の資金調達のために、中国のハイテク企業向け株式市場である「科創板(STAR Market)」での上場を目指し、目論見書を公開した(http://static.sse.com.cn/stock/information/c/202106/be44bdcd88954fb4a1af364112d0f59e.pdf)。

 この目論見書ではあらためて龍芯や各種の中国産CPUについて、国の政策が大きく関わっていることが明らかになっている。中国政府は、CPU関連企業に対する研究開発指導、資金援助、税制優遇措置、M&Aや国際協力などによる企業の大型化・強靭化への支援をするとし、実際に目論見書では毎年同社へ数千万元(1元=約20円)の政府補助金が出ていることが見て取れる。

性能的には10年前のレベルも独自開発のGPUも登場

 また中国産GPUの動きもこの数か月で何軒か出てきた。「兆芯」(https://www.zhaoxin.com/)という中国産CPUを聞いたことがあるかもしれない。上海兆芯集成電路という企業によるもので、台湾VIA Technologiesのライセンスを活用し、知っている人には懐かしいCentaur Technology/IDT「WinChip」(その後、VIA C3/C7)由来のCPUを開発する企業だ。この兆芯のビデオチップ情報が、Geekbenchのスコアに突如出てきたのだ。

 「Glenfly Arise 1020」と呼ばれるそれは、2GBメモリー搭載で608MHz動作の24コアGPUで、8コアの兆芯2.7GHz、メインメモリー8GBのシステムでGeekBench 5のOpenCLスコアは579だった。

兆芯の「Glenfly Arise 1020」。実際にビデオカードとして存在している

 このスコアは、2011年頃のAMDのAPU(AMD A4)に統合されたRadeon HD 6480Gや、モバイル向けでは2018年頃の「Mali-G52」や2016年頃の「Mali-T860」と同等のスコアで、現段階で実用的なものとは言いがたい。ちなみにGeekBench以外では、CPU-ZでもGlenfly Ariseに対応したことを発表している(https://www.cpuid.com/news/74-cpu-z-2-01-and-glenfly-arise-gt10c0-gpu.html)。2020年7月時点での同社のロードマップでは、2020年末から2021年にかけて発売される予定となっていたものだ。

「Glenfly Arise 1020」のチップ部分

 「Glenfly Arise」以外では、前回にも紹介した「景嘉微(JINGJIA MICRO)」(http://www.jingjiamicro.com/)製の28nmプロセスのGPU「JM7201」搭載ビデオカードが市場で存在している。こちらの性能はその記事ではカウンターストライクプレイ時に「無名の128MBのビデオカードでプレイしてるかのよう」と散々だったが、同社は5月に「JM9」シリーズという第2世代GPUの製品化が進められていると報道されている。

景嘉微のGPU。第2世代チップの開発が進められているようだ

 ほかにも中国産ビデオチップでは「Moore Threads(摩尓線程)」という企業が「蘇堤」というGPUを今春発表したが(https://www.mthreads.com/news/31)、6月にはその「蘇堤」を搭載したビデオカード「MTT 60」がPCメーカーに納品されたと報道された。

Moore Threads(摩尓線程)のGPU「蘇堤」

 「MTT 60」は12nmプロセスで、コア数は2048、8GBメモリーを搭可能。ピクセルフィルレートは192Gpixel/sとなっており、最大6TFlopsの演算速度があり、「中国産Linuxディストリビューションので動作するほか、Windows 10でも1080pの最高画質の設定でLeague of Legendsほか各種ゲームが滑らかに動作する」と主張している。まだ第三者によるベンチマークテストの結果が出ていないので鵜呑みにはできないが、カード単体や搭載パソコンが出て人柱レポートが出てくるのを期待したい。

 さらに昨年末には「芯動科技(INNOSILICON)」から「風華1号(Fantasy 1)」というGPUが発表されている(https://www.innosilicon.cn/home/Index/gpu.html)。これを搭載した「風華1号A型カード」は5T FLOPS、「風華1号B型カード」は10T FLOPSの処理能力があり、デスクトップからデータセンターまで使えるとしているが、製品に関する報道はまだない。

風華1号B型カードは実際の製品についての情報はまだ見られない

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