「ハブ避難所」が鍵になる
── そんな行動モデルを使った避難の最適化という話もあるわけですか。
萩原 それが東京大学 社会基盤学科の学部3年生を対象とした演習授業です。実際の現場を見ながらまちづくりを考えようという課題のもと、「大島・砂町から豊洲に避難するにはどうすればいいのか」を学生が考えてくれました。
── 具体的にはどんな手法でやっていたのかが気になるんですが。
増田 僕は授業のアシスタントとして関わっていましたが、人間の選択行動を予測する離散選択モデルというものを使い、避難するかどうかを予測していました。具体的には学部3年生がPythonでコードを書いて、実際に避難したときのデータに加えて、「こういう状況になったら避難しますか」というアンケートの結果を入れて、パラメーターを推定して、行動予測モデルを作っています。
── 今だと「教師データを使って深層学習」という話になりがちですが、そこは違うんですか。
増田 確かに深層学習をやった方が予測精度は上がると思うんですが、離散選択モデルを使っているのはパラメーターの解釈ができるからですね。
── 確かに深層学習だとなぜこうなったというのはわからないですからね。それで避難行動の予測モデルを作ったと。その後は?
増田 モデルにしたがって交通のシミュレーションをします。一人ひとりがどこからどこに行くかが予測モデルで出てくるので、それをすべて流しました。
── 結果的にはどう避難すれば効率がいいことになったんでしょうか。
萩原 「ハブ避難」と言っているんですが、避難の効率性というものもあるので、ハブになる避難所にどれくらいの人を集約して運べるかというのがキーでした。
── なるほど、個別にわらわら逃げてもうまくいかないからと。郵便配達とか宅配便とか、集配所に集めるような感じでしょうか?
萩原 マッチングをどう考えるかということに近いですね。
── ある種コンビニの出店計画ですね。理論化されてるじゃないですか。ああいう世界に近いですよね。どれくらいの人口に対して……という。
萩原 そうですね。普段からハブ避難所が使いやすいところになっている方が災害時にもスムーズに集まりやすいんじゃないかということもありました。日常的に使いやすいカフェが災害時は避難所になるとか。
── なるほど。そうなると学校とかスーパーとか?
萩原 そうですね。あとはたとえば比較的人が集まりやすい団地のような場所を拠点としたらいいのではないかということです。
── ちょっと意地悪なことを言うと、当たり前のような気もしてしまうんですが。
萩原 当たり前といえば当たり前かもしれないですが、災害時と平時のデュアルモードという形にするためには、災害時の利用も含めて考えられなければいけないんです。いまのスーパーや公民館がデュアルモードに耐えられるかというとそうではないと思うんですよね。日常的に使いやすいことと災害時にも使いやすいこと、たとえばヘリポートが設置されているといったことを両立させる必要がある。
── なるほど。避難所についてはどうやって決めているんですか?
増田 避難所の数を増やしたときに避難人数がどう変わるかを評価指標として自動的に考えています。ただ避難するだけではだめで、浸水継続時間が長いところから避難しないといけない。避難した人数と、救助にかかるコストを評価指標としてあげて、一番良いのは避難所が80個くらいの場合と算出してくれました。
── それ以上あるとコストばかりかかってしまう。
増田 たとえば作りすぎても近くの避難所に避難してしまい、そこが浸水すると、水が引くまでまた2週間孤立することになって、救助コストがかかってしまうんです。作りすぎても困るということが計算で導かれたわけです。
── 理論的にはそんな結果が出たわけですが、現状の避難所というのはそうはなっていないわけですよね。ただ学校や公民館が指定されていることが多いですから、サイエンスに導かれたものではないというか。
萩原 避難所が1ヵ所に固まってるところもあれば、場所によってはほとんど水没してしまう避難所もありますね。そこをどうやって民間が、学識と一緒になって行政に避難をはたらきかけていけるかというのが今回の大きなテーマでした。
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