もしも明日、江東区が浸水したら──。
今年3月、東京で大災害が発生したことを想定した社会実験「明日の危機 江東区防災ミュージアム」が開催され、江東区の住人など合計110人余りが参加した。
参加者は広域避難訓練として、大島と豊洲の団地やアパートをタクシーで移動。各施設の展示で災害についての知識を学び、災害の危険性を体感した。最後に都市型道の駅ミチノテラス豊洲「MiCHi Lab」で災害時を想定したまちづくりについて学び、自分たちが暮らす地域の防災意識をあらためるという内容になっていた。
社会実験の主催者は、清水建設を含む豊洲スマートシティ推進協議会と、東京大学次世代都市-交通デザイン研究体社会連携講座。
これまで東京大学と豊洲スマートシティ推進協議会は社会連携講座として、3年間にわたって臨海部における交通防災まちづくりのありかたを検討してきた。清水建設では臨海部「海の手線」構想を掲げる東京大学の羽藤英二教授とも防災について議論を重ねている。今回の社会実験はいわばその集大成というべきものだ。
実験ではどんなことがわかったのか。そして東大生が考えるこれからの防災まちづくりとはどんなものなのか。これまで清水建設およびミチノテラス豊洲の取材を重ねてきたアスキー総合研究所の遠藤諭が、実験に携わった関係者に話を聞いた。
語り:
東京大学 交通・都市・国土学研究室 特任助教 萩原拓也氏
東京大学 交通・都市・国土学研究室 増田慧樹氏
清水建設 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 溝口龍太部長
清水建設 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 大村珠太郎氏
(以下敬称略)
もし明日、江東区が浸水したら
── 「明日の危機」とはすごいタイトルですね。
大村 江東区にお住まいの方々が、自分たちの住んでいる場所は災害時に危険であるとあまり認識していなかったということがタイトルの背景にあります。
── 危機というのはいわゆる自然災害のことですか。
大村 想定災害は水害です。2019年、台風15号・19号では全国的に甚大な被害がありましたよね。
── 河川の氾濫があったり、電信柱が倒れて、電気も復旧しなかったりと大変でしたよね。
大村 そういった近年の巨大化・低速化する台風災害を想定しています。江東区の課題としては、城東地区や深川地区といわれる、亀戸や砂町、大島などは海抜ゼロメートル地帯、海より低いエリアに街ができているというのが大きいです。
荒川や江戸川が決壊したときには、荒川・江戸川周辺の7区の大半は浸水エリアとなっています。また、江東区のハザードマップを見ると、海抜ゼロメートル地帯では高潮があったとき2Fまで沈んでしまうことがわかります。
大村 一方、埋立地である臨海部である、豊洲6丁目は海抜6メートルあり、安心なエリアですが、それを住人が知らないということが大きな背景です。大雨が降ってきたとき自分のこととして考えてもらおうということで「明日の危機」という防災展示を企画しました。
── そういうレベルになると広域避難が必要になるということになるんですか。
大村 レベル1のゲリラ豪雨くらいであれば地域の避難所や、建物の上層階に避難する垂直避難でいいんです。ただ、レベル2の大型台風になると床下浸水をする人たちは高台を拠点に避難する必要が出てくる。さらにレベル3、荒川や江戸川が決壊するレベルになると域外避難が必要になるんじゃないかというストーリーが羽藤(英二)先生との議論で出てきました。
── 要は大型台風が来たときに江東区の城東・深川地区は浸水地域であると。それを想定して、いかに安全に避難するかを考えましたということですね。
大村 そうです。具体的には、まず大島四丁目団地に避難してもらって、防災展示を見てもらいました。次は豊洲四丁目アパートまでモビリティで避難。将来は大型バスを使ったピストン輸送を検討していますが、今回はタクシーで移動しました。そこで防災展示を見てもらい、最後にミチノテラス豊洲(MiCHi Lab)までふたたびタクシーで移動しています。
また、今回の実験ではコロナ禍ということもあり、不特定多数で移動する、BRTや船を活用した域外避難は断念しましたが、域外避難の考えは参加者に伝えることができました。
── 防災展示というのはどういうものですか?
大村 大島四丁目団地は「知るミュージアム」ということで、日本全国の水害をテーマにしています。国交省が監修した3Dマッピングの「PLATEAU(プラトー)」を使い、江戸川と荒川が決壊したら何時間で江東区に水が達するかということを時系列でパネル化して見せました。決壊後約3〜4時間で江東区には水が達して1日で浸水し、2週間ほど水が引かなくなってしまいます。つまり垂直避難をしてもそこから横に移動できなくなってしまうわけです。自宅に2週間分の食料や水の蓄えが必要になるということです。
── なるほど。
大村 豊洲四丁目アパートは「感じるミュージアム」ということで、光と音を使って災害の怖さを体験してもらいました。たとえば赤いレーザーで高さ1メートルの光を示しています。豊洲四丁目アパートでは洪水があったとき1メートルの浸水があることがわかっていますが、これが水だったら避難できますかと。奥には2019年、台風19号が来たときのツイートが壁一面に貼られており、住民の方が感じた不安・恐怖を体験してもらうようにしました。
大村 最後はミチノテラス豊洲。実際にホテル棟とオフィス棟がデッキでつながれて高台化された拠点に来てもらい、日々使っているところが避難拠点となっていることを知ってもらう。デュアルモードで平時も災害時も対応できるまちづくりを実際に歩きながら体験してもらいました。デッキ上でも海抜15メートルなので、大島四丁目団地と比べたら高いところにあるということを体感してもらっています。
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