オンライン診療をはじめとしたデジタルツールの活用が医療現場で進み、新たに生まれた薬や治療法の承認に必要な臨床試験である「治験」にも導入されようとしている。治験の遠隔化とデジタル化により被験者中心の治験を実現するDCT(Decentralized Clinical Trials)は、欧米を中心に浸透しており、日本でも導入を進める動きがここ数年で見られる。
しかし欧米に比べると実績は非常に少ないため、HealthTech企業の株式会社MICINは治験実施医療機関や製薬企業らとともに、DCTの導入を支援する産学連携の取り組みである「DCT産学勉強会」(以下、勉強会)を2021年初期より実施。DCTを導入する医療機関の負担軽減と制度の課題を解決するため、導入サポートツール作成や規制当局側の制度策定支援などを行い、日本におけるDCT普及の土壌づくりを推進している。
世界で最新の薬を当たり前に使えるようにするにはDCTは不可欠
具体的には、DCT導入検討や体制構築をサポートするツール作成とその普及により、導入や実施ノウハウ蓄積を目指している。その1つ目の成果物、医療機関向けDCTスターターキットを紹介するメディア向け説明会が4月20日に開催された。
DCTはウェアラブルデバイスやePRO(electronic Patient Reported Outcome:スマホやタブレットで回答を集める患者視点の評価結果)、オンライン診療等のデジタルツールを活用することで、医療機関への通院頻度を減らしたり、自宅や近隣医療機関で治験の全てかもしくは一部を実施したり、治験に参加する患者の負担を軽減できる。また、医療機関に遠いため参加が難しい患者が必要な薬剤の開発に参加できる可能性が高まり、実施側にとってもコスト削減やデータの質の向上など、さまざまな効果が期待される。
スターターキットはそうしたDCTの認知度を高めるうえでも有効であり、IT環境の整備とリテラシーの向上、新たなオペレーションの導入や体制整備にもつながる。DCT導入では日本特有の治験オペレーションを背景として知っておく必要があることから、開発はMICINのほか、治験を運用する医療機関と製薬企業の3者で協力して行われた。
スターターキットには、全体像を把握する導入/運用プロセスマップ、手順を定めた資料のSOPテンプレート、必要なタスクや流れを俯瞰できる導入タスクリスト、院内啓蒙やトレーニングに使用できる院内教育用資料の4種類が用意されている。
MICINのオンライン医療事業部 DCT ユニット ユニットマネージャーの草間亮一氏は「世界で最新の薬を当たり前に使えるようにするにはDCTは不可欠であり、導入が広がればコスト削減のメリットも見えてくる」とコメントする。遠隔同意システムの使用によって、治験参加患者の組み入れ期間が1年以上かかっていたのが半減した海外事例もあるという。