GH100はA100世代からFP32とFP64の数が倍増
学習精度を1%犠牲にするだけで性能が2倍に上がる
ここからもう少し詳細を説明しよう。まずはGH100そのものについてである。GH100の内部構造が下の画像だ。全体で144のSM(Streaming Multiprocessor)が8つのGPC(GPU Processing Clusters)に分かれて実装されている。
つまりGPCあたり18SM構成になる計算だ。前世代のA100が128SMを8GPCまとめており、つまりGCPあたり16SMだったので、2SMほど増えている計算になる。
ちなみに上の画像にもあるように、全体では144SMながら実際に有効なのはこのうち132SMで、12SMほど減っているのは冗長コアを意識しているためだろう。さすがに800mm2で欠陥0、というダイの歩留まりは相当低いと考えられるためだ。
またSM自身も猛烈に強化された。GH100のSMが下の画像だ。A100世代がその下の画像であるが、以下のようになる。
- INT32の数は同じながら、FP32の数が倍増した
- FP64の数も倍増した
- Tensor Coreが第4世代になった
- 1次キャッシュと共有メモリーが、A100世代の192KBから256KBに増加した
- DPX命令セットを新たに搭載
- Thread Block Cluster、Tensor Memory Acceleratorを新規に搭載
この結果として、FP32やFP64では、同じ動作周波数でGA100とGH100を比較すると2.44倍の演算性能となり、加えてTSMC 4Nプロセスの採用で動作周波数を引き上げたことでほぼ3倍の性能になる、とされている。
A100がベース1095MHz/ブースト1410MHzとなっており、ここから考えるとGH100(というより、H100 SMX5)はベースは不明だがブーストで1730MHz程度で動作するものと考えられる。
第4世代のTensor Coreの説明が下の画像だ。ざっくり言えばすべての演算型で2倍のスループットを実現しており、加えて新しくFP8をサポートしたのがその違いである。
そのFP8であるが、E5M2(仮数部2bit、指数部5bit)とE4M3(仮数部3bit、指数部4bit)の2種類のフォーマットである。
こんなに少なくて大丈夫か? という話もあるが、実際Int 1/2/4のネットワークは実際に広く使われ始めており、それなりに精度が維持できていることを考えると、万能ではないにしてもこれでさらに高速化が図れるネットワークは実際に存在するだろう。
こちらではFP16の2倍の速度で演算できるため、データ精度が落ちてもその分演算速度を引き上げることで最終的な演算精度を落とさずにカバーできる。このFP8は別にNVIDIAの発明というわけではなく、2019年にIBM Researchが発表しており、ほとんどFP32と同じ演算精度を保てていることを示している。
このFP8を、既存のネットワークで後追いで使えるようにするのが、Transformer Engineである。これは既存のネットワーク向けにTensor Coreに対して作用し、これまでFP16やFP32などで処理されていたデータについてRange Analyzerというユニットでその値の範囲を分析、E5M2とE4M3のどちらのフォーマットを使うかを自動的に決定してFP8で処理するという仕組みである。
これはTransparent、つまり既存のネットワークそのままで実施できる仕組みになっており、ユーザーはこのTransformer EngineをOn/Offするだけの操作である。このFP8を使った場合の精度をBF16と比較したのが下の画像だ。
これは自然言語解析モデルのGPT-3を利用しての場合の数字で、実線がBF16、破線がFP8である。学習件数別に当然誤認識率は変わる(1.26億件程度ではあまり精度が向上しないが、13億件以降は明確に下がる。もっともそれを220億件やっても、すさまじく賢くなるわけでもない)が、これはGPT-3そのものの問題である。
ここで言いたいのは、BF16(実線)とFP8(破線)が学習件数別にみてもほぼ傾向が同じ(精度の差は1%程度)で、精度を1%犠牲にするだけで性能が2倍に上がるということだ。しかもFP8で学習をさせるにあたり、量子化のやり直しやファインチューニングが一切要らない、というのが大きなメリットであるとする。
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