RIAA(全米レコード協会)の報告書によると、音楽CDの売り上げは前年よりも21%上昇したという。米国でCDの売り上げが前年よりも上昇するのは17年ぶりのことだ。
2001年にアップル「iPod」の販売が開始され、2003年には「iTunes Music Store」が立ち上がり、物理メディアに変わる新たな音楽コンテンツの購入方法としてダウンロード販売が登場した。その後、2004年にはすでにCDの売り上げは低下を始めている。CDを販売する店舗が次々と姿を消していき、2006年には大手の「Tower Records」まで経営破綻した。その影響はオーディオ機器にも及んだ。「LINN Products」は2009年にすべてのCDプレーヤーの生産を早々に終了し、話題となった。
日本ではそこまで顕著にならなかったが、米国でのCD売り上げ低下はまさに凋落と呼んで良いほどのものだったのだ。
そんなCD売り上げが上昇に転じたというのは興味深い出来事だ。
先のRIAAのレポートを見ると、まず音楽コンテンツ全体の売り上げが前年比で20%も向上している。これはコロナ禍のための巣ごもり需要があったからだろう。次に物理メディアの売り上げに目を転じてみると、たしかに2020年よりもCDの売り上げ(オレンジ色)が向上しているのがわかる。RIAAによると、2020年にコロナ禍が生じたときに店舗の休業やツアーの中止が多く発生したので、そのリバウンド現象であると分析している。
もう一つ分かるのは、物理メディア全体の売り上げが大幅に上がっていて、CDよりもむしろアナログレコードの伸びが大きいということだ。アナログレコードはいったんはCDにメディアの座を譲ったが、実は15年連続で前年よりも売り上げが向上している。2020年にはCD売り上げを上回っていたのだ。デジタルに振れ過ぎた音楽メディアに対して、アナログに戻る揺り戻しの流れが出てきたためと考えられる。そして2021年にはCDとアナログレコードの売上が両方とも前年より向上した。
ここから推測できることは、CDもアナログレコード同様にストリーミングの隆盛などに対する「揺り戻し」の動きが出てきたのではないかということだ。これは手軽に消費できるストリーミングに対して、所有感がある物理メディアや趣味的なオーディオ再生に回帰する流れが出てきているということなのかもしれない。CDの売り上げは引き続き回復していくのか、あるいは一時的なリバウンド現象なのか、来年のRIAAの報告を楽しみに持ちたいと思う。

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