ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第659回
ISSCC 2022で明らかになったZen 3コアと3D V-Cacheの詳細 AMD CPUロードマップ
2022年03月21日 12時00分更新
追加の64MBをどのように接続しているか?
32MBのダイを2つ重ねていると考えるのが妥当
ところで、ここまでの資料でもAMDは「どういうふうに追加の64MBを接続しているのか?」を説明していない。ただヒントはあって、例えば前ページの最初の画像(6つ前の画像)で、TSVをまたぐ通信も32Bytes/サイクルの双方向が、しかも8本あることが示されてる。それと2ページ前の最後の画像(7つ前の画像)で、なぜこれだけの構成にわざわざスイッチとリピーターを噛ます必要があるのか? を考えると、なんとなく答えがわかった気がする。
ここからは筆者の推定である。おそらくであるが、SW0/SW1というスイッチは、もう2本の入出力が可能である。現在SW0/SW1は以下があると説明されている。
- 上方向のスライスへの接続(RPT0経由で上方向へ)
- 下方向のスライスへの接続(下からの矢印)
- 横方向のスライスへの接続(バッファ経由で横方向の矢印)
- SRAMとの接続(7つ前の画像からは省かれている)
これに加えて以下があると考えられる。
- Upper(上に載せたダイへの接続)
- Lower(下にあるダイへの接続)
いずれのリンクも32Bytes/サイクルである。そしてUpper/LowerはTSVに接続される形になっている。もちろんベース・ダイにはLowerはないから、ベース・ダイのLower側は未使用だし、逆にトップ・ダイのUpperも未使用になっているとは思うが。
これを横から見たのが、下図である。
ここでトップ/ミドルの2つのダイが載っている理由は連載618回で説明した通りだ。だいたいベース・ダイが41mm2のエリアサイズで32MBの容量のSRAMなのに、トップ・ダイが同じ41mm2で64MB容量のSRAMを構築するのは、普通に考えたら無理である。となると、32MBのダイを2つ重ねていると考えるのが妥当だろう。
ちなみにこのトップ・ダイ/ミドル・ダイでもリングバッファを構成しているかどうかは不明である。案外トップ/ミドル・ダイではUpper/Lowerのリンクだけが生きている可能性もある。
こういう構成ならシームレスに容量を増やしやすいし、また第618回の最後で触れたように、開発段階で1/2/4スタックの構成があったとしても不思議ではない。筆者の推定が正しいかどうかは現時点では判断できないが、少なくともこの方式は現在AMDが3D V-Cacheの特徴として示している諸々の項目に合致していると考えられる。
現時点で1つ考えられるこの方式の弱点は、モノリシック構成のダイに比べて熱的に弱そうなことだ。Ryzen 7 5800X3Dの発表記事でも触れているが、Ryzen 7 5800X3Dは倍率ロックになることを示唆しており、しかも動作周波数はやや下がっている。
倍率アンロックでオーバークロック動作をすると当然発熱が増えるが、現時点で3Dスタッキングを利用したチップがどの程度熱に強いか(別の言い方をすれば、どの程度の熱に起因するパッケージの歪に、3Dスタッキングは耐えられるのか)は量産チップでは未知数である。
ただ普通に考えると、ベース・ダイはそれなりに発熱が大きい(なにせCPUコアがある)のに対し、トップ・ダイ/ミドル・ダイはSRAMだけなので発熱は最小である。TSV経由で熱はベース・ダイ→トップ・ダイに移動するから長期間で見れば同じ温度になるだろうが、短期的にはトップ・ダイとベース・ダイで温度が完全に一致しない時間の方が多いだろう。
こうした状況では熱膨張率が同じであっても温度の差により寸法が変わってしまうことになる。C4 Bumpなどでは接触面積も大きいので多少の歪みはカバーできるのだが、Hybrid Bumpではなにしろ9μm間隔で接続面が並ぶわけで、歪みの影響は当然大きくなる。
動作周波数をやや下げるとともに、倍率ロックをかけたというのは、フル駆動にすると熱的に耐えられなくなり、接続部が外れてしまう可能性があるからではないか? と筆者は考える。

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