スタートアップエコシステム創出に向けて関西の産学官金41機関が手を組んだ 26の大学発新事業構想
KSAC Demo Day2022レポート
提供: 大阪産業局 KSAC事務局
情報通信:2プロジェクト
■監視動画の解析による歩容認証を用いた施設の人物追跡、入退出監視システムの開発
大阪市立大学 大学院工学研究科 准教授 中島 重義
大阪市立大学 大学院 工学研究科 中島重義准教授は、人の歩き方「歩容」にもとづく個人認証技術を活用し、高齢者住宅などで利用できる入退室管理システムを開発し、その事業化を目指している。
高齢化が進む日本では、認知症高齢者が急速に増加しており、認知症による徘徊、行方不明者も増加してきている。一方でサービス付き高齢者向け住宅では人員不足などにより出入口での見守りも十分にできていないのが現状。本PJでは歩容認証に重心移動の情報を組み合わせることによって実現した高精度個人認証システム(AUC0.97)をシステム化し、販売することにしている。
まず全国8000棟のサ高住向けに販売し、そのメンテナンスを受託することによって持続的な事業として運営していく。
■AI導入による建築積算監理業務効率化のための革新的支援システム
大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科 教授 中島 智晴
建物の建築や道路などのインフラ整備の際には、工事の図面や必要となる材料およびその数量などを記載した建築積算書類を作成する必要がある。一定の期間を必要とすることの多い建築業務では設計図などが修正されることも多く、積算書類の適正記載を確認する積算監理業務には大きなコストがかかるとともに人為的ミスも少なくないのが現状となっていた。
この課題を解決するため、本PJではAIを用いた建築積算管理支援システムの開発を進めており、その事業化を目指している。
この建築積算監理システムでは、まず積算書のデータベース化を行うことにより、過去の工事案件を比較参照できるようにして、積算書類の作成と監理にかかる負担を軽減した。また設計図面が修正されたときに、修正箇所や修正後の設備シンボルの位置と数が正しいかどうか、積算書データとの整合性はとれているかどうかをAIによって自動的に検出しチェックする機能を実装した。
「現在このシステムによる効果検証を進めているところだが、1週間単位で日数のかかっていた管理業務が1日で完了するといったこともあった」(中島氏)
積算管理業務を行っている事業体としては自治体や建築系企業、設計事務所などがあるが、本PJではまず人口1万人以上の自治体約1300を対象に、システムの売り込みを進めていくことにしている。
「堺市と共同開発を進めており、そこで得られた知見は他の自治体にも適用可能だと思っている。国交省や企業からも問い合わせが来ており、十分事業ポテンシャルがある」(中島氏)
なかなかレガシーな業務形態から脱却できない建築業界だが、一部でもICTによる自動化が進めばその分創造的な作業に注力できるようになる。本PJの監理システムが業界全体に幅広く採用され、働き方改革や国際競争力の向上につながることを期待する。
社会課題:4プロジェクト
■心理統計にもとづく対象ごとの感性価値指標を活用した感性評価サービスの開発
関西学院大学 工学部・感性価値創造インスティテュート 研究特別任期制教授 渋田一夫
本PJは、商品の価値を測る新しい評価指標である「感性」を Web上で評価測定できる「感性メトリックバンク」というサービスの事業化に取り組んでいる。これは高機能、高信頼性、低価格だけではモノが売れなくなってきた時代に新たな科学的商品開発手法を社会実装するものとなっている。
本PJの感性評価指標は、モノの色や材質などの物理的な指標(物理量)と、好き嫌いや安心感、わくわく感などの人の内面的価値(価値)とを、柔らかいとかスマートなといった「印象」でつなぐことにより、どのような物理量(色や形)がどのような感性価値に結びついているのかを説明可能にするものだ。
事業化は、まず感性メトリックバンクを企業の商品開発やマーケティング担当者に利用してもらい、その利用料を徴収するモデルを想定している。さらに将来的には詳細な感性評価を受託する事業会社へのサービス提供も視野に入れている。
■個人・社会の Well-being 回復に向けた認知行動コンサルティング事業の確立
大阪大学 人間科学研究科 准教授 平井 啓
大阪大学 人間科学研究科 平井 啓准教授は、SDGsなどの社会的課題や収益性の向上や人材育成などの企業課題解決、およびストレスや生活習慣病などの個人的課題を解決するためのコンサルティングの基盤となるアルゴリズムを開発し、事業化を目指している。
人は正しい知識を与えれば正しい行動をとるとは限らない。人の合理性は限定的であり、合理的な行動へと導くためには個人的なバイアスや脳の機能の差を調整する仕組みが必要となる。本PJでは心理、認知、行動理論背景ベースのアルゴリズムと、学術、実践経験豊富な人材の両輪により、Well-being回復を実現するコンサルティングサービスを開発し提供する。
既に本手法を適用することによって乳がん検診受診率を3倍にするなどの実績もあり、まず企業の人事部門を対象にコンサルティング企業を設立する予定にしている。
■橋梁の構造健全性診断および生産設備の故障診断のための自立型振動センサの開発
関西大学 システム理工学部 教授 小金沢 新治
道路やトンネルなどの社会インフラの老朽化は大きな社会問題になっている。特に橋梁は10年後にはその半数以上が建築後50年経過となり、早急な保守点検、補修が必要となる。そこでセンサやIoT技術を適用したソリューションの開発が進められているが、機器が高価であったり大掛かりな電源配線工事が必要など、現場実態とは距離のあるものが多くなってしまっている。
本PJでは小型、安価、電源不要という現場ニーズに即した自立型センサを開発し、これを用いた橋梁健全性診断システムの開発を行っている。この自立型センサは、健全性を診断するための橋梁振動波形を採取するセンサ機能と、車両の通過などによる振動を電力に変える発電機の機能とを備えている。
発電機によってつくられた電力は二次電池に蓄えられてセンサに利用されるほか、その診断結果をサーバーに送信するためにも用いられる。また、このセンサは通過車両の車重や車速の計測も可能となっている。
「(センサの)回路は10年程度での基板交換が必要になるが、それ以外は20年、30年のロングスパンでの使用に耐える。診断精度を高めるため、橋桁ひとつにセンサを2個程度設置することになるが、1個数万円程度なので経済的な負担にはならないだろう」(小金沢氏)
現在、自律型センサの開発を進めているが、それと並行して健全性診断用AIの開発にも着手している。まずそれらを合わせた橋梁健全性システムの提供を軸とした事業をスタートし、その後は工作機械や建築物の診断と監視を行うシステムへの展開を視野に入れている。さらに実績を積んだ後には、自動運転システムと融合したビッグデータの分析や情報提供など、データビジネスへの参入を目指している。
■キャビテーションプラズマ殺菌水による植物病害菌防除技術の開発
兵庫県立大学 大学院工学研究科 准教授 岡 好浩
世界人口の増加に伴う食糧の安定供給ために化学農薬が多用されているが、環境負荷の増大は避けるべき課題であり、安心安全な持続的農業を実現するための技術開発が求められている。本PJでは独自開発したキャビテーションプラズマ(CBP)技術を用いて作製したCBP殺菌水を化学農薬と代替させることによって農業分野に貢献することを目的としている。
新しい水中プラズマ発生技術であるCBPで水を処理すると活性酸素種を豊富に含むCBP殺菌水を作ることができる。CBP殺菌水は高い殺菌効果だけでなく植物の成長促進効果も確認されている。水が原料であるため安心安全であり、環境への負荷も発生せず、農業従事者にとっても使用しやすいものである。
対象となるマーケットはまず約900億円の規模を持つ国内農薬殺菌剤市場だが、海外にも大きな市場が存在する。輸出農産物の洗浄などポストハーベストや畜産業における感染予防への活用も期待できる。さらには医療や環境などの分野での活用にも大きなポテンシャルがある。