京都大学の研究グループは、脳内で炎症が発生したときに神経活動が低下する仕組みを解明した。多くの精神疾患では発症時に脳内で神経活動の異常が発生するが、その詳細な仕組みは明らかになっていなかった。
京都大学の研究グループは、脳内で炎症が発生したときに神経活動が低下する仕組みを解明した。多くの精神疾患では発症時に脳内で神経活動の異常が発生するが、その詳細な仕組みは明らかになっていなかった。 研究グループは、ラットの脳スライスを標本に、神経細胞が活動する際に流れる微量な電流や電圧を計測する「パッチクランプ法」を用いて神経細胞の活動を観察した。具体的には、大脳皮質前頭前野のスライスにグラム陰性菌の外膜構成成分であるLPS(リポ多糖)を添加して脳内の免疫細胞であるミクログリアを活性化させ、前頭前野錐体細胞の神経活動への影響を調べた。 前頭前野に存在する5層錐体細胞、2/3層錐体細胞、介在神経細胞でミクログリアを活性化したときの活動電位の発火頻度を見たところ、5層錐体細胞、2/3層錐体細胞で発火頻度が低下し、介在神経細胞では変化がなかった。続いて、薬剤を添加して5層錐体細胞で発火頻度を観察すると、神経細胞応答に関与するSK1チャネルが神経細胞膜上で機能を亢進させており、ミクログリアが放出する炎症性物質TNF-αを介した、脱リン酸化酵素であるPP2Bの活性化によるものだと分かった。抑制性神経細胞のシナプス伝達の自発発火頻度の低下も確認でき、錐体細胞における発火頻度の低下によって前頭前野内での神経活動が低下することが示された。以上の発見から、ミクログリアが前頭前野錐体細胞の可塑性(神経細胞が刺激によって機能的、構造的な変化を起こすこと。記憶や学習、その他脳機能のすべてに関与している)を誘導して神経活動を低下させることが明らかになった。 研究からは、ストレスや感染症から前頭前野に炎症が発生したとき、ミクログリアの過剰な活性化を制御することが、神経活動保護に効果的だと言える。グループは、うつ病などの精神疾患において、ミクログリアを標的とした新しい治療法や予防法を開発できる可能性があるとしている。研究成果は、「カレント・リサーチ・イン・ニューロバイオロジー(Current Research in Neurobiology)」誌にオンライン掲載された。(笹田)