休業を経て復活した名店、これまでの歩みと新しい一杯の魅力 柳麺 呉田(埼玉県・さいたま市)【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第19回
2022年01月04日 10時00分更新
神戸「もっこす」、「柳麺ちゃぶ屋」など名店で修業を積んできた、ラーメン一筋の中野店主。2015年の独立後すぐ、ラーメンWalkerグランプリで埼玉新人賞ランキング金賞など数々の賞を獲得した華々しいデビューから4年後、突然の休業。一年半の休業期間を経て2020年10月に営業を再開し、初日には心待ちにしていた地元の常連客、遠方からも呉田ファンが大勢駆けつけた。私も遅ればせながら、再開後の呉田を訪れ、「お帰りなさい!」とともに改めてこれまでのラーメン人生と新生呉田について伺った。
―皆さんご存知「ちゃぶ屋」出身ですが、修業は他のラーメン店でも?
「地元の神戸で、高校の時にラーメン店でアルバイトしたのがきっかけで、ラーメン作りにハマって。高校卒業と同時に、そのラーメン店に入社しました。神戸で有名な『もっこす』っていう、とんこつ醤油の店です。初めは『もっこす』の暖簾分けが欲しかったんですけど、5年くらい働いているうちに自分の店で勝負したくなって」
―それで上京したんですか。
「当時、関西では関東のラーメンはレベルが低いって言われていたんです。それが東京に来る機会があって、実際にラーメンを食べたら関東のほうが技術的にもレベルが高くて! 驚きましたね。関西に帰った後すごくモヤモヤしちゃって、関東に行きたいってなったんですよ。それで上京して、最初は食べ歩きから始めたんですね。2年くらい食べ歩きをしているうちに『ちゃぶ屋』を発見して、たまたま従業員を募集してたんです。もうこれだ!と思って」
―運命ですね!
「本当に。『ちゃぶ屋』が荒川から移転した後、護国寺の本店と近くに塩専門店の2店舗だけの頃でした。本店でずっと仕込みをしてましたね。結局、5年くらいいたのかな。店を辞めて独立するのに資金を何とかしようと考えていたら、『六角家』の社長からうち来ないかと誘っていただいたんです。ちゃぶ屋の味噌専門が御徒町にある時、近くに『六角家』があって、その時からご飯に連れていってもらったりお世話になっていましたね。3年くらいお世話になって、後は仕事を辞めて物件を探しながら、また食べ歩きをしながら、独立の準備も入れると2年くらいかかりました」
―ちゃぶ屋出身の「麺屋Hulu-lu」でも働いていたんですよね。その頃ですか?
「そうですね。Hulu-lu店主の古川さんは、ちゃぶ屋の荒川時代から森住さんの右腕的な存在で、直属の上司だったんです。僕が独立するまでの準備期間にHulu-luでお手伝いさせてもらったり、とてもお世話になりました。『創作麺工房 鳴龍』の齋藤さんとも、ちゃぶ屋では一緒でないのですが、Hulu-luで知り合ってお店にも食べに行ったり、意気投合して。実は北浦和って齋藤さんの地元で、呉田をオープンする時に宣伝してくれたり、齋藤さんにも本当によくしてもらってます」
―それで呉田をオープンしてラーメン関連の新人賞を受賞し、埼玉屈指の人気店だったのが突然の休業宣言! あの時は驚きました。
「地元の祭りで大ケガをして1ヵ月入院したのがきっかけですね。さらに退院してから実家で静養していた時に、いろいろ家庭問題が発覚したんです。今まで散々、我儘をして親には迷惑をかけてきたので、この機会に親孝行をしようと休業を決めました」
―再開が2020年10月だから約1年半、休業していたことになりますね。
「1年の休業予定が、思いのほか長くなってしまって。休業中に店舗を貸すことも考えたんですけど、そのまま借りっぱなしで、蓄えを家賃でほぼ使い果たしました(苦笑)。ただ、再開するのは決めていたんですが、不安でした。お客さんが戻ってくれるかなと。それが再開するって告知したら、初日なんて大行列してくれたんですよ! 常連さんも戻ってきてくれて、『すごく楽しみにしてた』って言ってくれるお客さんもいたり、本当にありがたいです」
―私も「呉田に行ってきた」ってSNSに上げると、すぐ「いいね」がつく、そんな呉田マニアが身近にいます(笑)。
―再開するにあたって何か変わったことはありますか?
「一番大きな変更はスープの食材ですね。再開前に以前のレシピで一回作ってみたんですけど、あんまりしっくり来なくて。地鶏を川俣シャモと吉備どりに変えたんです。以前から限定で使っていたんですが、この機会に変えました。カエシも材料は同じですけど、分量や作り方を変更したり、マイナーチェンジしてます」
―麺も変わったとか。
「麺は休業前とほぼ変えてなかったんですけど、半年ぐらい前に小麦粉を見直しました。5種類の小麦粉から塩・醤油らーめん、つけ麺、油そば、特別営業の味噌など、それぞれ組み合わせを変えて。塩は春よ恋ブレンドとハナマンテン、醤油は春よ恋ブレンドと萌特、つけ麺はゆめちから特と萌特とかですね。それぞれのスープに合わせたい麺が自分の中にあって、香りを重視する麺にするか、喉越しを重視する麺か、食感を大事にする麺なのか。それによって小麦粉の配合を変えたり、小麦粉の種類を変えたりしてます」
―麺の色が全粒粉っぽく見えるけど、いま伺った中に全粒粉はないですね。
「それ、よく言われるんですけど、全粒粉は入れてないんです。全粒粉っぽく見えるのは小麦の持つ色ですね。油そばの麺も茶色く発色してますが、胚芽ローストを少し加えてます。小麦の胚芽の芽が出るところだけをとって、ローストしたものなんですけど、それが茶色なんです。全粒粉を入れたように茶色っぽく粒々があるように見えるんですね」
―今回、麺がすごい主張しますね。「この麺を食べさせたい!」っていうのがひしひしと伝わってくる(笑)。だから一杯を考える時、麺を先に決めるんだと思ってたんですが……
「スープが先ですね。そこから麺を考えます。ただ、僕も麺のほうが特徴的かなと思います。バランス的には麺とスープどちらも食べてもらいたいけど、たぶん僕の知識が麺のほうが勝ってるんですよね」
―麺へのこだわりは、修業先譲りですか?
「ちゃぶ屋の時は、ぶっちゃけ麺をあんまり触ってなかったんですよ。だから麺は独学って言ったほうがいいのかな。ひたすら本を読んだりして得た知識と、あと小さい頃からパンを作ったり、もともと小麦が好きだったんですね。そういった思い入れがあって、ずっとこの麺を広めたいと思ってたんです」
―「中華蕎麦 瑞山」でも、呉田麺を使ってますよね。
「以前から『中華蕎麦 瑞山』の初谷さんには、よく食べに来てもらってて、たまたま『よかったら、うちの店で使う麺を買うよ』ってお声をかけてもらったんです。まだ、他にはアプローチしてないんですけど、もっとこの麺を広めたい。もっと言うと、麺と一緒にこの国産小麦を広めたいんですよ。小麦粉を卸してもらっている前田食品さんは同じ埼玉県にある会社で、僕は前田食品さんの粉が大好きなんです! 独立して製粉会社を探していた時に営業の方に来てもらって色々話してるうちにすごい話が合って、そこからの付き合いで。前田食品の粉で麺を作ってて一番しっくりくるというか、もう前田食品一択ですね」
―色々あると思いますが、これから新生呉田はまだまだ変わっていくのでしょうか?
「自分で納得するところに、まだまだ行かない感じですね。一番変えていこうと思っているのはスープ。麺に負けないように、もう少しスープを強くしたい。ただ、今は原価との戦いというか、本当に厳しいんですよ。全てが高騰して、特に肉が高くなって。それでもラーメンの値段を上げずになんとか頑張ってます」
―コロナ禍で大変なこともありますし、店を閉めるとか、神戸で再開という選択はなかった?
「最初にお話した通り、高校の時にラーメンにハマってから、僕はラーメンしか知らない。休業する時も、すごく悩んだけど、やっぱり自分にはラーメンしかなかった。神戸に凱旋もゆくゆくは夢としてあるんですけど、まだまだ北浦和でやりきれてないことがたくさんあります。ここで自分が納得できるラーメンを作って、お客さんに満足してもらいたい。いま、ラーメンが作れることがすごく嬉しいです。もう僕の人生、一生ラーメンですね!」
柳麺 呉田(goden)
住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤9-16-7
営業:火~金 11時~14時30分、17時30分~22時
土 11時~15時 18時~22時
日・祝 11時~16時
定休:月曜休(12月~4月は隔週で「味噌呉田Life」営業あり)
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式ツイッター(https://twitter.com/godenken)をご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna