ひと口に「障害者支援」といっても、その形は様々。生活上の障壁を取り除くバリアフリーもあれば、医療支援、福祉、相談所、職業訓練、就労支援など、本人はもちろん、その取り巻く環境への支援も含め数多くある。
行政や公的機関によって行われている支援は、過去の実績と長い歴史があるため、どうしても少々古いものが多くなりがちだ。新しいことをするにも既存の延長線上に留まってしまい、完全な新規で始めるというのは難しい。
この障害者支援として「バリアフリーeスポーツ」をかかげ、新しい視点からの支援に取り組んでいるのがePARAだ。
eスポーツの持つ可能性を障害者支援に活かすユニークな試み
バリアフリーeスポーツというのは、「年齢・性別・時間・場所・障害の有無を問わず参加できる環境の下行われるeスポーツ」のこと。健常者だけの大会ではそもそもスタートラインに立てない、立たせてもらえない人達でも参加でき、競い合い、視聴者と一緒に楽しめるというものだ。
ePARAが一般的なeスポーツ団体と大きく違うのが、単なる興行としてeスポーツ大会の開催や、eスポーツチームの育成を行っているわけではないことだろう。ePARAが目的としているのは、eスポーツを通じ、個人の魅力や強さを引き出せる手伝いをすることだ。もちろん一般的なeスポーツ団体と同じような活動も行うが、主役となるのはあくまで障害を持つ参加者そのもので、eスポーツをそのための手段に選んでいることにある。
実際のスポーツでもパラリンピックのようにパフォーマンスを発揮できる場や大会が少なからずあるし、こういったスポーツの支援事業もあるだろう。しかし、大会に出るには少なくとも会場に行く必要があるし、障害の度合いによって参加できる競技も限られてしまう。
eスポーツのメリットは、オンラインでの参加が可能となること。場所に縛られないため遠征の負担が少なく、会場となる施設のバリアフリー対応を気にする必要もない。また、目が見えない、耳が聞こえない、歩けない、半身麻痺といった障害を持つ人でも気軽にチャレンジできるため、競技参加のハードルがとても低くなるというのもポイントだろう。
ePARAが最初に開催したイベントが、2019年11月に行われた「ePARA 2019」だ。
「この大会では「ぷよぷよeスポーツ」をプレイして貰ったのですが、ほぼ全盲と半身麻痺のご夫婦との対戦では、画面を見て声で指示する人と操作する人といったように、操作を分担・協力してプレイするというルールで行いました。このように工夫することで、コミュニケーションが取れる、対等にプレイできる、真剣に戦えるというeスポーツのよさが活かせたと思います」(加藤氏)
難易度を変える、スコアに下駄をはかせるといったハンデを設けただけでは、接待されているような気持ちが抜けきらない。その点、条件を対等にしたルールであれば、どちらも言い逃れができないガチの対決となる。それだけ真剣に戦えるわけだ。
ePARAが行っている事業はeスポーツだけでなく、メディア運営、Webマーケティング、就労支援などと手広い。
「障害者の方が私たちのコミュニティに入る際、Web記事を書いてもらうことがあります。これは、記事の執筆やインタビュー、編集過程を通じて、その人の強みや弱み、適性を把握するためのものです。それを踏まえ、次は動画撮影をしてくださいとか、イラストを描いてくださいとか、eスポーツの運営を手伝ってくださいといったように、業務として経験してもらっていきます。こういうことを通じて適正を見つけ、eスポーツから離れても仕事ができるような支援活動としています」(加藤氏)
また、今年の7月には、バリアフリーeスポーツ施設「Any%CAFE」をオープン。車いすの人でもそのまま入れ、しかも、リーズナブルな価格でeスポーツが楽しめる会場を目指したものだ。
コロナ禍がまだ続いていることもあり、本格始動はまだ先になってしまっているが、利用者参加型のイベント開催や、ゲームという同じ趣味を持つ仲間と集まれる居場所としての役割に期待がかかる。
サイコムとの出会いはストリーマーとの繋がりで
ePARAとサイコムが出会うキッカケとなったのが、以前からサイコムと付き合いのあるストリーマーのみみっち氏の紹介だ。
「バリアフリーeスポーツ施設「Any%CAFE」の準備時、みみっちさんに配信環境の相談をしていたのですが、そのとき、ゲーミングPCはどこのものを使っているのかと聞かれました。ゲーミングPCはとくに持っていないという話をしたところ、「それならサイコムさんのPCを絶対使ったほうがいいよ」と紹介していただいたのがキッカケです」(加藤氏)
「最初みみっちさんに繋いでいただいたのですが、その時点では、障害者eスポーツ団体があるのを知らなかったんです。それで興味をもって色々調べていったのですが、すごく面白い取り組みで。ただ、尖ったことをしているけれどあまり露出がなくて、もっと外に発信していかなきゃダメじゃないかって感じたんです。障害者支援でeスポーツっていうのは、これから伸ばしていきたい分野、伸びていかなきゃいけない分野ですよ。とはいえ、ウチはメディアじゃないですから、手伝えることといえばPCを提供することくらいです。それならスポンサードしようと、PCを出そうと決めました」(山田氏)
企業である以上、宣伝効果が分かりにくいところへの提供はためらわれるものだが、eスポーツの将来像として、障害者支援という分野は伸びていかなきゃいけないと感じるからこその判断なのだろう。大手とは違った、実にサイコムらしい判断だと感じた。