このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

最新パーツ性能チェック 第355回

RDNA 2世代のプロ向けGPU「Radeon PRO W6600」を試す

2021年09月22日 11時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

検証環境は?

 今回はPRO W6600の性能を検証するために1世代前の同格GPU(PRO W5500)を準備。さらにPRO W6600の姉妹モデルであるRX 6600 XTも準備した。ドライバーは検証時点(9月上旬)での最新バージョンを利用している。

【検証環境】
CPU AMD「Ryzen 9 5950X」
(16コア/32スレッド、最大4.9GHz)
CPUクーラー Corsair「iCUE H115i RGB PRO XT」
(簡易水冷、280mmラジエーター)
マザーボード GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」
(AMD X570、BIOS F33)
メモリー G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」
(DDR4-3200、16GB×2)×2
ビデオカード AMD「Radeon PRO W6600」、AMD「Radeon PRO W5500」、ASRock「Radeon RX 6600 XT Phantom Gaming D 8GB OC」
ストレージ Corsair「CSSD-F1000GBMP600」
(NVMe M.2 SSD、1TB)
電源ユニット Super Flower「SF-1000F14HT」
(80PLUS TITANIUM、1000W)
OS Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」
(May 2021 Update)

DirectX環境での描画性能は?

 まずは「3DMark」で普通のビデオカードとして使った場合の描画性能を確認しておこう。3DMarkが計測できるのはPCゲームにおけるパフォーマンスであり、これはRadeon PROが想定している使い方(主にOpenGL)ではない。だがGPUとしての性能を確認しておくのは決して無駄ではない。

 今回はざっくりと“Fire Strike”および“Time Spy”のみで比較することにした。

「3DMark」のスコアー

 GPUの設計が1世代古いPRO W5500に対しては60〜70%の大幅なスコアーアップを達成したのに対し、同世代かつ若干スペックの高いRX 6600 XTに対しては13%程度下のスコアーを示している。この13%という数字はCU数がRX 6600 XTから減らされた比率(32基→28基で12.5%ダウン)に近いことが確認できた。

「SPECviewperf」でも同傾向が確認

 ワークステーション向けGPUの性能評価を3DMarkで片付けてしまう訳にもいかない。そこでOpenGLを利用するプロ向けアプリケーションでの描画パフォーマンスを見る「SPECviewperf 2020 v2.0」も回してみよう。ディスプレーの解像度は4K(96dpi)としている。

「SPECviewperf 2020 v2.0」のスコアー

 まず新旧対決という観点ではPRO W5500に対し最大で66%という伸びをみせている。ここの部分だけを見れば3DMarkのスコアーの出方とほぼ合致しているが、MayaやCreoなど一部のワークロードにおいては伸び幅が30%台にとどまっている。

 ただPRO W6600対RX 6600 XTについては、3DMarkと同程度のスコアー比になっているワークロードもあるが、CATIAやCreoのベンチ結果(またはスコアー)は、CU数の少ないPRO W6600がRX 6600 XTを僅かに上回っているもの、Siemens NX(グラフではsnx-04)のように2.5倍近いスコアーを出しているものもある。プロ向けOpenGLアプリケーションにおいては、PRO W6600のパフォーマンスはコンシューマー向けRadeonとは別格な「ものもある」といえるだろう。

 SPECviewperfと内容が若干被るが「SPECworkstation v3.1」でも比較してみよう。CPUのパフォーマンスも計測できるベンチだが、今回はGPUを使うワークロードだけを選択した。こちらもディスプレーの解像度は4Kとしている。

「SPECworkstation v3.1」のスコアー

 こちらでもPRO W6600がRX 6600 XTに僅差で負けるものもあれば、大差をつけて勝つものまで様々だ。ゲームではGPUのスペックが高い方が勝つのは当たり前だが、ことプロ向けアプリケーションにおいては、GPUとGPUドライバー、そしてアプリケーションとのかみ合わせがしっかりしていないと性能も信頼性も確保できないということが分かるだろう。

「blender」のレンダリング時間でも検証

 先のSPECviewperfは3DCGアプリケーションでのビューポート(視点)操作レスポンスを見るベンチだが、GPUパワーを最終レンダリングに使った場合のパフォーマンスも見ておこう。まずは「blender」で検証する。

 今回はblender公式からダウンロードできる「Classroom」と「Ember Forest」の2つのシーンを使用した。ClassroomについてはAMDが提供している「Radeon ProRender for blender」を組み込み、サンプル数は256に設定し1フレームのみをレンダリングする。一方Ember Forestについては高速なEeveeレンダラーを使用し、350フレームのアニメーションをレンダリングする時間を計測した。

「blender」によるレンダリング時間

 レイトレーシングを併用したClassroomではPRO W6600がW5500に対し30%以上のスピードアップを果たしたが、ラスタライズで済ませるEeveeレンダラーを使うEmber Forestでは差が縮まっている点に注目。より負荷の高い状況において、RDNA 2ベースのPRO W6600はより高いパフォーマンスを期待できる。ただスペックの高いRX 6600 XTにはPRO W6600は敵わないようだ。

 ついでに「LuxMark v3.1」ではOpenCLを利用したCGレンダリング処理のパフォーマンスを見てみよう。シーンは一番重い「Hotel Lobby」を使用した。

「LuxMark v3.1」のスコアー。blenderと異なり長い方が高速

 ここでもRX 6600 XTにPRO W6600が一歩及ばずといった感じだが、差はせいぜい10%程度にとどまる。

動画エンコードへの影響は?

「Premiere Pro 2021」や「Media Encoder 2021」では、動画のデコード処理(Mercury Playback Engine)にOpenCLを利用する。この時PRO W6600はどの程度の性能を出せるのか検証してみよう。まずは「Premiere Pro 2021」で約3分の4K動画を編集し、これを「Media Encoder 2021」にキューを出し普通にCPUでエンコードする(50Mbps/VBR/1パス)。だがMercury Playback EngineでGPUを使うので、GPUの性能の善し悪しがエンコード時間に影響するか見てみたい。

「Media Encoder 2021」のエンコード時間

 GPUを変えただけでもエンコード時間に多いに影響することが分かるはずだ。Mercury Playback EngineをCPU処理にすると処理時間が激増(1時間以上)するので、Premiere ProやMedia Encoderのエンコードを高速化したければ、より高速なGPUが必須なのだ。今回の検証ではPRO W6600はRX 6600 XTとPro W5500のちょうど中間に着地した。

熱と消費電力は?

 ここまでの結果を総合すると、いくつかのOpenGLベースの描画性能においてはPRO W6600はRX 6600 XTを上回る性能を見せたものの、基本的にはRX 6600 XTにやや劣るという傾向を見せた。ただ今回使ったRX 6600 XTは巨大なクーラーを備えたファクトリーOCモデル、片やPRO W6600は1スロット仕様のコンパクトなカードなので、スペースに対するパフォーマンスという点ではPRO W6600の方が優勢という見方もできる。

 だが本当に1スロットのクーラーで大丈夫なのだろうか? そこでblenderベンチのレンダリング作業(Classroom)をしている間のGPU温度やクロックを「HWiNFO64 Pro」で追跡してみた。

PRO W6600でレンダリング作業中のGPU温度

PRO W6600でレンダリング作業中のGPUクロック

 レンダリング自体は5分程度で終わるが、その短い間でもGPU温度は80℃に到達。今回はバラック組みのベンチマーク用リグでの検証だが、実際に運用するならしっかりとケースファンの風を当てて強制冷却するような工夫が必要になるだろう。熱的にはかなり不利な一方でクロックは若干脈動するものの2600MHzあたりで安定しているあたりは、AMD(TSMC)の7nmプロセスの優位性がよく分かる。

 最後にレンダリング作業中のTBP(Total Board Power:カード単体の消費電力)も追跡してみた。計測にはNVIDIAの「PCAT」を利用している。ここではPRO W5500やRX 6600 XTも比較に加えた。

レンダリング作業中のTBPの推移(1秒の移動平均をプロット)

 先に示したGPUクロックの推移で分かる通り、PRO W6600はかなりの高クロック動作だが、これは消費電力にも現れている。同じ7nmプロセスのPRO W5500よりも20W程度TBPが上昇している。その一方でRX 6600 XTとPRO W6600はほぼ同じ消費電力であるが、レンダリング時間はRX 6600 XTの方が1分程度短いため、純粋なワットパフォーマンスではRX 6600 XTにやや負けるといったことが読み取れる。

CG作成でRDNA 2の力を利用できる

 以上でRadeon PRO W6600の検証は終了だ。コンシューマー向けのRX 6600 XTよりもやや下という結果はGPUのスペックを考えれば順当といえるが、OpenGLベースの描画性能においては、RX 6600 XTを遙かに上回るものを見せた。PRO W5500等の旧世代のRadeonを業務に使っている人、もしくは業務用グラフィックス製品の購入を検討している人なら、作業効率アップを目的に今回のPRO W6600の購入してみてはどうだろうか。

●関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事