リニューアルした「G-Masger Hydro」シリーズは職人技のかたまり!
GeForce RTX 3080 Tiの過熱問題はサイコム独自の銅プレートで解決! 開発秘話を聞いてみた
2021年08月27日 11時00分更新
ビデオカードの改造は、世代が変われば方法も変わってくる
実はサイコムの改造水冷ビデオカードは、水冷と空冷を両方合わせたハイブリッド型。これは、最大の熱源であるGPU部分を水冷、それ以外のメモリーや電源部などは空冷とすることで、冷却効率を向上させている方式だ。水冷/空冷の片方だけとするよりもよく冷えるだけでなく、ファン回転数も低くできるため、騒音をさらに抑えられるというメリットがある。
GPUの世代が変わるとビデオカードのデザインが大きく変更されるため、世代が変わるたび、改造方法は変化している。それでも、基本的な方針は大きく変わらず、最適化する必要はあるものの、GeForce RTX 20シリーズまでは今まで通りの改造方法が通用していた。
この状況が大きく変わったのが、GeForce RTX 30シリーズからだ。
「従来のブロワーファンを使ったモデルであれば、GPUのヒートシンクが独立していたため、これを取り外して水冷ヘッドへと換装する、という改造が可能でした。しかし、3連のトップフローファンへと変更になったGeForce RTX 30シリーズでは、ヒートシンクがカード全体を覆うような、1つの巨大なものへと変更されてしまいました。これを外してしまうとメモリーやVRMなどのヒートシンクもなくなってしまうため、今まで通りの改造ができません」(山田氏)
そこでサイコムは、この巨大なヒートシンクを独自に加工。GPU周辺だけをカットして水冷ヘッドを取り付けられるようにし、それ以外の部分はヒートシンクとファンによる冷却が行えるようにしたのだ。
もちろん、どのビデオカードでも改造できるというわけではなく、ヒートシンクの形や配置などで、改造できないものもある。何台ものビデオカードを取り寄せて試し、最も改造しやすいものを探したそうだ。
さらに、水冷クーラーも強化。従来は120mmのラジエーターを使っていたが、GeForce RTX 30シリーズではTDPが大きく増加していたため、240mmラジエーターへと変更している。
これらによってGeForce RTX 3090/3080の水冷化に成功。搭載PCを発売したところ、数か月はもつと思われた在庫がみるみる減っていき、1週間も経たずに完売となるほどの人気となった。
販売は好調だったのだが、半導体不足やマイニング人気の加速などが重なり、そもそもビデオカードの調達が難しくなるというトラブルが発生。こうなるともうどうしようもなく、しばらく販売を見合わせるしかなくなってしまったそうだ。
とはいえ、1つも入ってこないというわけではないので、少数であれば売ることもできただろう。しかし、あえて受注を止め、1つの懸念事項の解決に取り組んでいた。それは、GDDR6Xメモリーの温度が上昇しやすいという点だ。
この温度上昇は水冷化改造による弊害というより、もっと根本的な部分の話。例えばASCII.jpに「高発熱なGeForce RTX 3080 Tiのサーマルパッドを交換したら約10度も温度が低下!」という記事があるように、GeForce RTX 30シリーズのハイエンドモデルは、そもそもメモリーの温度が高い。
「単純な原因は、GDDR6Xメモリーが発熱しやすいということだと思いますが、それ以外にも原因は考えられます。ブロアーファンからトップフローファンに変わり、メモリーが冷却されにくくなったというのもあるでしょう。また、温度センサーでメモリーの温度が取得できるようになったので、余計にメモリーの温度が気になるようになった、という感覚的なものもあると思います」(山田氏)
メモリーが高温のままでも動作は問題ない。しかし、高温になると知ってしまえば見過ごすことはできず、なにか対策をしたいと考えるあたりが、クラフトマンシップを重視するサイコムらしさといえるだろう。
この問題に取り組んだのが、エンジニアの小野信介氏だ。
特殊なパーツを自作し、メモリーの温度問題を解決へ
「水冷化しても、ヘッドが当たるのはGPUだけ。周囲のメモリーは水冷クーラーでは冷やせません。ではメモリーは何で冷やすかといえば、元からあったヒートシンクです。この冷却効率を上げようと、メモリーにサーマルパッドを載せてヒートシンクとの接触面積を増やしてみたのですが……これではダメでした。もっと効率的に熱を伝える手段が必要です」(小野氏)
そこで小野氏が考えたのが、熱伝導率の高い銅プレートでメモリーの熱を集め、より広い面積でヒートシンクへと熱を逃がす方法だ。
しかし、ただの銅プレートを挟むだけではGPUも銅プレートを挟むことになり、GPUの冷却性能が落ちてしまう。GPU部分をくり抜き、GPUは水冷クーラーで冷やしながらもメモリーの熱を効率よく伝える……そんな形状が求められる。
色々な製品を参考に試行錯誤し、この理想の銅プレートを設計するまで、2週間ほどの時間がかかったそうだ。
ちなみにこの銅プレートの加工は、PCパーツ加工に長けた長尾製作所に依頼。以前から、オリジナルのSSD用ヒートシンクなども長尾製作所で製造している。
銅プレートができたからといって、開発終了……というわけではない。実際に装着して温度を測り、どのくらい温度が下がるのかを確かめる必要がある。
「銅プレートとメモリーの間にはサーマルパッドを挟むのですが、種類やサイズなどで大きく効果が変わってきます。パーツによって最適なものが変わるので、SSDでは冷えたけどメモリーでは冷えない……というものもあります。なるべく冷却性能が高いものを選び、5種類くらい試したでしょうか。その中から最も冷えたものを採用しました」(小野氏)
銅プレートを挟んで水冷クーラーのヘッドを取り付けると、銅プレートの一部がはみ出して見える。このはみ出した部分にヒートシンクが接触し、さらにメモリーが冷やされるという仕組みだ。
なお、現在は銅価格が高騰しており、1年前と比べ1.5倍前後になっている。単純にコスト高となってしまうのだが、それでも採用を見送らず、メモリーの温度対策を行ってくれているというのがありがたい。