マートステーションのリモートロック、温度管理、動作監視もSORACOMで
続いて、IoT冷蔵庫にあたるマートステーションの開発にかかる。当初は一般向けの冷蔵庫を使っていたが、ユーザー以外の人が開けてしまうため、セキュリティや安全性の面で問題があった。そのため、最初に手がけたのは、商品を受け取るユーザーのみが解錠できる仕組みだった。具体的には、ラベルプリンターと同じくラズパイとSORACOMを組み合わせ、ユーザーに配布したアプリのQRコードを読み込ませることで、物理的にソレノイドが稼働し、鍵が開くというリモートロックを作った。
面白いのは、マートステーションでは、このリモートロックの機能のみ、オフラインでの利用も想定している点だ。通常、かざされたQRコードをインターネット経由で認証して、開錠するというフローになるシステムが多いが、マートステーションではQRコードの中に冷蔵庫の施錠情報(ユーザーや時間帯)を埋め込んでおき、さらに署名を付与しておくことで、通信がなくてもローカル認証できるようになっている。「先にラベルプリンターを展開していたので、通信は必ずしも常時使えるものではないという学びがありました。通信できない前提でIoTの弱点をカバーし、お客さまに迷惑をかけないようにするためにはどうしたらよいかを考えた末のチャレンジでした」と今井氏は語る。
次の課題は、生鮮食品を扱うマートステーションの温度管理だ。「たとえば夏の朝どれ野菜って、とても熱を持っているので、保冷ボックス(シッパー)内の温度が上がるんです。保冷剤を入れただけでは、いっしょに入っている魚が悪くなってしまいます」とのことで、温度管理は重要だった。当初は市販のIoTセンサーをシッパーに取り付けて、温度管理やトラッキングを行なっていたが、利用していたデバイスが壊れやすく、断線等も多かったため、選定し直したという。
このときに選定したのが、ソラコムの「GPSマルチユニット SORACOM Edition」だ。この京セラ製のGPSマルチユニットは、位置を特定するGPS、温度、湿度、加速度などのセンサー、充電式のバッテリー、そして省電力のLTE-M通信モジュールを搭載する。しかもSORACOM Editionは、文字通りSORACOMの利用を前提とした独自モデルとなっており、Webブラウザから簡単な設定をするたけで、SORACOMプラットフォームと連携して、データ取得や可視化を始めることができる。「SORACOMのいろいろなサービスと連携しやすかったし、デバイスも壊れにくいので、こちらに落ち着きました」(今井氏)
現在は、ジッパーのみならず、マートステーション自体の動作監視にもSORACOMを採用している。「冷蔵庫自体が壊れたり、プラグが抜かれたり、半ドアだったりすることがままあります。(SORACOMを使うことで)こうした事態をいち早く検知し、再発防止の手段を講じ、商品の品質にも影響を与える場合は、お客さまに対して返金措置もさせていただいています」とのことで、単なる死活監視のみならず、サービスの品質向上にも活かされているという。
今井氏の話を聞いていて、IoTシステム構築の教訓になると感じられたのは、とにかく現場での発見が重要ということ。「めちゃくちゃ現地行ってますね(笑)。マートステーションの設置やトラブルシューティングで出向くのですが、現場じゃないとわからないことがいっぱい。最近はメンバーが行くことも多いのですが、とにかく現地に行って自分の目で確認することが大事だと思っています」と今井氏は語る。
ほしいと思ったときにすぐ手に入る、すぐ使えるのが最大のメリット
サービスに必要なデバイスは、顧客や市場によって、どんどん要件が変わってくる。そのため、通信のみならず、ハードウェア、クラウドまで提供しているソラコムは魅力的だったという。今井氏は、「ほしいと思ったときにすぐ手に入るというのが、SORACOMで一番魅力的ですね。増えるデバイス数も商談によってバラバラだし、可能な限り生産リードタイムを短くしたいので、ハードウェアまで提供してくれるのは助かりました」と語る。
デバイスのみならず、ソラコムが展開しているクラウドサービスもやはり迅速な開発に貢献しているという。当初パブリッククラウドサービスの利用を前提としてきたソラコムだったが、近年のサービス拡充により、データの収集や可視化、監視などワンストップで担えるようになった。「温度収集のシステムも、ちゃんと作ろうとすると、連携するパブリッククラウドのサービスをきちんと理解する必要があります。でも、SORACOMのクラウドサービスを使うと、データをとりあえずデータを集めて監視したり、可視化するみたいなことが簡単にできます」と語る。
また、SORACOMにはデバイス側から見えるエンドポイントを統合化した「Unified Endpoint」という仕組みがあるため、コンソールやAPIを用いてユーザーのサーバーであればSORACOM Beamへ、クラウドサービスであればSORACOM Funnelへ、ダッシュボードを利用するならSORACOM Harvestへといった具合に、データの送信先を簡単に切り替えることができる。まずはHarvestとLagoonで可視化を検証してから、Funnel経由で本番システムのパブリッククラウドにデータを流し込むといったことが容易に行なえるわけだ。
IoTの事例は、通信、デバイス、クラウドなどさまざまなパートでトライ&エラーができる環境がとにかく必要。「先ほどのシャッター問題のような物理的な要因で、現地ではうまく動かないといったことがよくあります。でも、それを先んじて知ることができ、そもそも自力で解決できるのかを把握できるのはとても大きい。うまく動かなくても、大きく後戻りしないで済むのがソラコムの最大のメリットだと思います」(今井氏)。
安定性、コスト、品質向上に向けて、まじめにやりぬく
東京・神奈川・埼玉で展開してきたクックパッドマートだが、サービス開始から3年弱で、受け取り場所を500以上に拡大した。「マンション共用部やコンビニエンスストアでの設置が増えているだけでなく、鉄道会社が駅に導入する例も増えています。お客さまの近く、生活の導線に置くことが増えてきて、うれしいです」と今井氏は語る。販売店も農家、仲卸、商店など700店舗を超えており、販売店が商品の納品する先の共同集荷所も、50箇所にのぼる。個人的にクックパッドマートは初期からウォッチしているが、コロナ渦で変化した生活にうまく対応し、サービスとして着実に成長したという印象だ。
こうしたサービスの成長にあわせて、機能要件を満たしつつあるマートステーションが掲げる次の目標は安定性とコスト削減になるという。「ハードウェアって安定して動かすのが意外と難しい。これからなにが起こるかわからない」とのことで、従来はラズパイを元にしたハードウェアから、産業用IoTゲートウェイへのリプレースを進めている。また、現在は手動監視になっている共同集荷場側の業務用冷蔵庫の監視も、IoTの仕組みを用いていく予定だ。
安定性、コスト削減、そして品質の向上。課題に向き合った日々の改善活動は決して派手なものではではない。「昔、生鮮食品ECを取り上げていたTV番組で、コメンテーターが『まじめにやりぬいた会社が勝つ』と話されていたのですが、なんか間違ってないなと(笑)。確かに最初粗くても、どこまでクオリティを上げられるかが鍵。だから、まじめにやりぬきたいと思います」と今井氏は語る。
(提供:ソラコム)
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