サンデン・リテールシステムとN-Sports tracking Labが事例を披露
物流やスポーツ分野に広がるIoT ソラコムのサービスを位置情報や動態管理で活用
高精度IoTをスポーツのトレーニング効率化、観戦の臨場感アップに生かす
続いて、N-Sports tracking Lab(ニュースポーツトラッキングラボ)代表の横井愼也氏が、ウィンドサーフィンのデータ分析にIoTを利用している事例を紹介した。
同社は横須賀市に本社を構え、スポーツパフォーマンス分析事業と、スポーツエンターテインメント事業を行なっている。横須賀市は、毎年ウィンドサーフィンのワールドカップが開催される地として知られる。横井氏自身も現役のアマチュア選手だという。
「風という見えないエネルギーを使うスポーツであるため、どうすれば速く走れるようになるのか疑問を持ち、そこを分析してみようと思ってスポーツパフォーマンス分析事業を立ち上げた」
また、マリンスポーツは海上で行なわれるため、陸上から肉眼で観戦することができない。そこで、選手の位置情報をリアルタイムでデータ化することで、観客がより楽しめるように、スポーツエンターテインメント事業を行なっている。
セーリング競技は、風に対するヨットの角度によって、進むスピードがまったく異なる。そのため、自分のパフォーマンスを正確に把握することが難しい。また、競技は風下から風上に向かってジグザグに進んでいくが、ヨットの向きを変えるタイミングは、経験と勘に頼る部分が大きかった。横井氏は、それらを正確にデータ化すれば、選手のパフォーマンスを上げることができると考えた。
そこで横井氏は自分のセーリングのデータを収集し、風の方向が360度のどこで一番パフォーマンスがいいのかを可視化することを試みた。「競技に特化したパフォーマンス分析ツールを作ることで、プロの選手と比べてどこが弱点かがわかり、自分の競技の改善ポイントがわかる」(横井氏)
また、ヨットの速度だけでなく、ブイとの距離を測ることで、より実践的なコース攻略のヒントが得られるようになる。さらに、同社のパフォーマンス分析ツールを使えば、選手が会場でトレーニングしているデータを、コーチは自宅にいながらリアルタイムでチェックすることができる。これはコロナ禍でのトレーニングに大いに役立っているという。
IoTを活用すればデータをリアルタイムにチェックできる
最近はセーリング以外の競技にも展開しており、たとえば8人乗りのボート競技の長距離種目「ローイング」では、2000mという長いコースのどこでパフォーマンスが落ちたのかを分析することができる。「自転車やマラソンなどにも応用可能だ」(横井氏)
従来、こうしたスポーツ分析には「ロガー」といわれる端末側にデータをいったん貯めて、後から転送するシステムが使われてきた。これだと、練習中にデータを見ることはできない。「それに対してIoTを活用すれば、データをリアルタイムに見ながら、コーチがその場で指導することができる。トレーニングが大幅に効率化でき、指示も的確になる」(横井氏)
横井氏は、もう1つの事業であるスポーツエンターテインメント分野でのIoT活用について説明した。「ここでも、リアルタイム性が重要になる。従来の選手の位置情報は速くても1分単位でデータを送る仕組みだったが、当社のシステムは、スポーツ用にカスタマイズしたデバイスを用いて、秒単位で位置情報を更新することができる。秒単位で選手の位置を更新できれば、画面上にレースの状況そのものを表示することができる。ここが、私が一番こだわった部分だ」(横井氏)
リアルタイム性のみならず、位置情報の精度も、当然重要になる。同社では日本版GPSともいわれる準天頂衛星「みちびき」のデータを利用することで、通常のGPSよりもはるかに精度が高いcm単位の測位を実現している。「みちびきのもう1つの特徴は、地震や津波、気象情報を衛星からダイレクトにデバイスに送り込むことができることだ。特にマリンスポーツの場合、気象の情報共有ができることは安心・安全につながる」(横井氏)
同社では、スポーツ用に秒単位で位置測位できるデバイスを、京セラから特注品を受けている。そのデバイスにソラコムのSIMを入れ、SORACOM Beamによってクラウド上で暗号化している。「このデバイスの通信プロトコルはUDPだが、当社が従来運用していたクラウドは、UDPに対応していなかった。しかしSORACOM Beamを使ってプロトコルの変換ができたので、わずか1日で実装が完了した」(横井氏)
また、デバイスのグループ化によって、試合当日に選手の登録人数が増減しても、即座に変更できるので、運用の柔軟性が高いところにもメリットを感じている。IoTによるリアルタイムデータによって、スポーツのトレーニング、観戦スタイルは大きく変わっていきそうだ。