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国際宇宙ステーションを放送局に!「KIBO宇宙放送局」実現に至った共創背景を聞く

JAXA 新事業促進部J-SPARCプロデューサー 高田真一氏×バスキュール 代表取締役社長 朴正義氏

連載
JOIC オープンイノベーション名鑑

この記事は、民間事業者の「オープンイノベーション」の取り組みを推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)(外部リンク)との連動企画です。

 2020年大晦日の夜、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の宇宙スタジオから新しい1年の幕開けを宇宙で迎える体験を共有する年越しLIVE番組が配信された。このISSと地上をつないだ双方向ライブ配信番組「KIBO宇宙放送局」は、2020年8月に続いて2回目の試みとなった。共同実証活動を行なう、株式会社バスキュールの代表取締役社長 朴正義氏と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 新事業促進部 J-SPARCプロデューサー・高田真一氏の対談の模様をお届けする。(以下、文中敬称略)

概要:宇宙開発における民間事業アイデアによる新産業創出

実施内容の要約 国際宇宙ステーション(ISS)に開設した、宇宙と地上を双方向でつなぐ世界唯一の宇宙放送局の実現
関わり方や提供物 企画全体のプロデュース・事業継続に関連する資金提供や募集(バスキュール)
宇宙関連のリソースや通信ネットワーク協力、安全評価や運用作業(JAXA)
求める成果・ゴール 宇宙空間をプラットフォームとした宇宙エンターテインメント(バスキュール)
事業化に向けた双方のコミットメントを得て共同での事業検討、「きぼう」の通信ネットワークの向上などの出口志向の技術開発・「きぼう」の保有する機能拡大(JAXA)
将来 宇宙放送局の実現のためプロジェクトを継続的に実施(バスキュール)
国主体で進める宇宙探査ミッション等とは異なり、民間の事業アイデアに基づき、事業創出を進め、「きぼう」を含む地球近傍の宇宙空間において意欲のある民間事業構想の実現・民間活動の拡大(JAXA)

株式会社バスキュール 代表取締役社長 / KIBO宇宙放送局 主催 朴正義(ぼく・まさよし)氏
データ×テクノロジー×デザインで未来体験を実装するプロジェクトデザインスタジオ「バスキュール」代表。2000年の創業時より、広告/メディア/プロダクト/イベント/スポーツ/教育/アート/都市開発など、さまざまな領域のプレイヤーと共創活動を続けている。2019年、JAXAとともに「KIBO宇宙放送局」を始動し、宇宙を舞台にした世界初の双方向ライブ配信を実現。現在、3回目のトライに向けて鋭意企画準備中。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 新事業促進部 J-SPARCプロデューサー、一般社団法人 スペースポートジャパン (SPJ) 共同創業者兼理事 高田真一(たかた・しんいち)氏
修士号(航空宇宙工学)取得後、2001年にJAXA入社。ロケットエンジン開発、宇宙船「こうのとり」開発・運用、米国ヒューストン駐在員事務所にてNASA等との国際調整業務を経て、現在は、宇宙旅行時代を見据え、民間事業者等との新たな事業共創活動を複数進めている。兵庫県姫路市出身。主な担当は有人宇宙サービス/宇宙輸送サービス事業など。

宇宙開発も民間との共創の時代に

──「KIBO宇宙放送局」事業が行なわれることとなったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

朴:もともと当社はインターネットの普及を背景に生まれたクリエイティブの会社であり、これまでつながっていなかったもの同士をつなげることで、新たな価値を生み出すことを事業のポリシーとしています。これまでも“ネット×教育”などいろいろな事業を手掛けてきましたが、なかでも宇宙に関しては、いつかやりたいなとずっと考えていたんです。

高田:私はもともとロケットの開発エンジニアで、宇宙ステーションへの無人物資補給機「こうのとり」のエンジニアをずっと担ってきました。その後、2014から2017年まで米国ヒューストン(NASAジョンソン宇宙センター)に滞在する中で、米国の宇宙分野におけるさまざまな官民連携の事業に立ち会うこととなって、こうした取り組みを日本でもやるべきだと企画を出し続け、新規事業創出の部署に配属されたのです。今回のバスキュールさんとの「KIBO宇宙放送局」をはじめ、いろいろな事業アイデアを持った企業とパートナーシップを立ち上げて、事業創出を推進しています。

朴:本事業からだいぶ以前、2011年7月に、スマホの広告キャンペーンで、スペースバルーンと呼ばれる気象観測用の風船を使って高度3万メートルの成層圏にスマホを打ち上げてメッセージを配信するプロジェクトを博報堂と一緒に手掛けました。上空ではSNSから受け付けた投稿メッセージを画面に表示させて、その様子を地上へ向けてライブ中継したのですが、3日間で延べおよそ38万人の人が視聴しました。これだけ多くの人々が「宇宙」を軸につながったというのは私にとってもとても感動的な体験で、次は成層圏ではなく“本当の宇宙”まで行って何かできたらと常々思っていたんです。そうしたなか、2018年JAXAに「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」というプロジェクトが立ち上がったと知って、ぜひやってみたいとアプローチしました。

高田:アポロ計画に代表される宇宙開発というのは、国家が中心となって牽引していく垂直統合型のプロジェクトでした。しかし最近ではNASAの果たす役割も変化が見られ、民間が自ら事業を創出するなかで、その民間のチームにNASAが保有する技術を活用してもらうという共創活動を活発に行なうようになっています。そうしたなか、JAXAでも、国内のより多くの企業・大学等がJAXAのもつ宇宙航空の技術等を活かした新事業創出を目指す研究を促進するため「宇宙オープンラボ」事業を2004年度に募集を開始しました。そしてさらに、出口志向の技術開発・実証等を進め、新たな事業化までをスコープとした民間事業者等とのパートナーシップ型の新しい研究開発プログラムとしてJ-SPARCを立ち上げたのです。

宇宙でエンタメ番組を実施する通信・技術でのハードル

 KIBO宇宙放送局では、「きぼう」船内からの双方向ライブ配信やARによる映像配信を実施。「きぼう」の丸窓から見える地球の映像と、地上からリンクされたディスプレイ上の映像を同時に映し出し、また、リアルタイムに地上に配信可能なKIBO宇宙スタジオを活用し、ISSと地上間の双方向ライブ番組を行なった。

──「KIBO宇宙放送局」の取り組みの中で特に苦労したのはどのような点でしたか。

朴:たくさんの苦労がありましたが、一番最初は、通信がなかなか成立しなかったのが最もストレスでしたね。国際宇宙ステーションのなかでは、世界中から集まったお金で多くのプロジェクトが動いています。その合間を縫って通信回線や操作環境を外部の我々に使わせてもらうわけで、単に通信がつながるかテストをするだけでも、なかなか気軽にトライできません。さらに、失敗した際にその原因にまでたどり着くのにも改めて申請が必要で何ヵ月も収穫のない期間があり、本当に焦りました。

高田:例えば運用管制を行なっている筑波宇宙センター側のスタッフの作業を予約したりしなければならず、どうしても試験をするためのハードルが高くなってしまい、なかなか試行錯誤し辛いというのは宇宙開発事業ならではの困難な点でしょうね。宇宙ステーションでは、いろいろな実験のスケジュールが詰まっていますので、その計画調整というのはある種の高度なパズルのようなものとも言えます。そうしたなか、限られた時間枠、通信回線の中で高い映像品質を実証・実現するという高い目標を達成できたのは、バスキュールさんの努力の賜物ではないでしょうか。

──そうした困難をどのようにして乗り越えることができたのでしょうか。

朴:宇宙では、自分ではコントロールできないことにしばしば遭遇するので、なぜやるのかというビジョンをしっかりもってないと、心が折れてしまう人も多いのではないかと思います。逆に言えば、我々にはビジョンがあったからこそ、なんとか形にすることができたのだと自負しています。難しいからこそトライする価値があるんだ、単に目新しいだけではなく、今後数百年続くような宇宙の恒例行事をつくるんだ、という視座の高い目標が、我々の心をつないでくれました。

 あわせて、JAXAの中のみなさんががんばってくれました。官であっても、あらゆるやり取りのフィードバックは速く、宇宙にかかわる人は働き者ばかりで、困難を前にしても、有耶無耶にせず、次の手を打とうと考えを止めない人ばかりでした。そうした方々とパートナーシップを組めたことはすごく心強かったです。一方で、JAXAを組織としてみると、やはり公的機関ということで非常に慎重で、前例のないことを通すという点ではかなりの難敵です(笑)。もちろんその背景には、人が滞在する宇宙ステーションにおける挑戦的な取り組みをするための評価やセキュリティー要求、安全審査がとても高いレベルで求められる事情もあります。

高田:朴氏はJAXAに何度も足を運んでくれてプレゼンテーションをしてくれたりとさまざまなスタッフに働きかけてくれたり、Twitter Japan株式会社など新たなパートナーを巻き込んで新たな企画にチャレンジしたりしてくれました。我々としても、そうしてどんどん仲間が増えていくことは、大きなモチベーションにつながります。そして何よりも、エンターテインメントという、これまで宇宙産業では馴染みがなかった世界の要素を持ち込んでくれたことも革新的であると思います。

 また、Twitter Japanからの提案によるTwitterを使った企画では、いいね数に応じてJAXAへの寄付金額が決まるというものでしたが、トータル1250万ものいいねをいただくなど非常に大きな反響があり、目標金額も突破しました。このように外部パートナーと組んで新しい外部資金を得るという試みには、JAXA内部でも非常に高く評価されています。

サステナブルな事業実現を目指して

朴:当社としては、KIBO宇宙放送局は、打ち上げ花火ではなく、今後も継続的な事業としてやっていかなければいけません。そのための議論をJAXAとも重ねています。KIBO宇宙放送局は、JAXAほかの協力はあるものの、基本的には、当社が全リスクを背負った事業です。おかげさまで、過去2回のトライの成功を受けて、今年の秋、3回目の「KIBO宇宙放送局」をある企業と組んで実施予定です。ここまでのKIBO宇宙放送局はB2Bのスポンサーモデルでビジネス展開していますが、今後は、一般の人々がもっと番組に関与することで、対価を支払っていただけるようなB2C展開を構想中です。

 宇宙は、国・性別・年齢・文化を問わず、誰もが空を見上げるだけで想いをはせることができるロマンチックなテーマです。そんな魅力あふれる宇宙を舞台に、地球に暮らす人々がひとつにつながりながら未来を語り合う。それが世界の恒例行事になる。そんな地球規模のイベントをつくることを目標に、本事業を進めていきたいと思っています。

高田:J-SPARCとしても、「KIBO宇宙放送局」をサステナブルな事業にしてもらいたいので、どんどん新しいチャレンジをして発展させていただければと思います。バスキュールさんは、常にコンセプトが定まっていて、非常にスピード感があるので、ここまでしっかりやっているのでしょう。官民の共創というのは、ロングエンゲージメントでやってこその取り組みですので、バスキュールさんの強い意思の力は本当に大きいですね。

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