上司と部下の負担を減らしつつ、対話から組織の質を高める「カケアイ」
1on1ミーティングで社員の悩みとスキルアップを支援する
コロナ禍を経て働き方が大きく変わるなか、企業における人間関係やキャリアパス構築に難しさを感じる人が多くなっている。そんな中注目を集めているのが上司と部下が1対1で行なう「1on1」のミーティングだ。成果評価の面談と異なり、対話型コミュニケーションをベースに部下の考えや気付きをすくい上げ、成長を促進することが主な目的となる。
株式会社KAKEAIは、そのような1on1にフォーカスしたコミュニケーションプラットフォーム「カケアイ」の開発・販売を行なっている。今回、代表取締役CEOの本田 英貴氏にオンラインインタビューを行ない、カケアイの特徴やサービス内容について話を伺った。
従来の業務ミーティングと違う1on1ミーティング
人事面談などのミーティングでは、マネージャーが議事をリードして業務上の指示や判断を伝えることが目的となる。指示や判断の権限はマネージャー側にあるので、マネージャーが上、メンバーが下という関係になり、メンバー側にマネージャーと異なる考えや言いたいことがあったとしても、それとは関係なく議事が進行することが少なくない。
緊急度や重要度が高いことも相まって、なかなかメンバーの考えをマネージャーが知る場にはなりえない。直接会う機会すら減ってきている現状では、メンバーの考えや悩み、希望を聞くことなく日々の業務が進んでしまう。結果としてメンバーのモチベーションや帰属意識の毀損につながるのだという。
「マネージャー主導による指示や命令、判断、教えるということではなく、メンバー主体でたとえばキャリアの話や、次のステップにいけるような話など、メンバー主体の時間というような意味合いで我々は1on1をとらえている」(本田氏)
1on1を効果的に実施するためのツール"カケアイ"
カケアイはマネージャー・メンバー双方の負担を減らしながら、1on1での対話の質を高めるためのフレームワークを提供する。事前準備から要約まで全体をサポートするツールとなっており、手順に従って進めていけば充実した1on1が期待できる。
メンバーはまず1on1でマネージャーと話をしたいトピックを設定する。用意されているトピックは「業務の進捗や進め方」「人間関係」「心身の状態」「今後のキャリア」「スキルや力の向上」「プライベート」「会社や部署の方針」の7つだが、自分で追加することも可能だ。そのうえで各トピックに関してマネージャーにどう対応してほしいかを設定するが、これには「具体的なアドバイスがほしい」「一緒に考えてほしい」「話をきいてほしい」「意見を聞きたい」「報告したい」「その他」の6種類が用意されている。
設定されたトピックおよび対応は、マネージャーにもシェアされるので、マネージャー側でも事前に情報収集や心の準備ができる。加えて重要なのが、他社のマネージャーがアップした当該トピック&対応に関するTipsが閲覧できる。1on1に不慣れなマネージャーには非常に参考になるだろう。
「カケアイを使っている各社の管理職のみなさんが、たとえば人間関係の話を聞いてほしいというときに自分が意識して取り組んでいることをカケアイに入れてくれたコメントです。そこからこのマネージャーにぜひ見てほしいというものをレコメンドしている。これは当社の特許になっている」(本田氏)
コロナ禍ではリモートワーク環境で1on1を実施することも多いだろう。カケアイにはビデオ通話機能が実装されているため、別途ZoomやGoogle Meetなどを立ち上げる必要はない。
1on1をやっている最中に気になったことがあれば、トピックごとにカケアイにメモとして残しておくことができる。このメモはマネージャーとメンバーの間で共有されており、ホワイトボード的にお互いが編集できる。次回の1on1に向けた準備としても使える。
1on1終了後、メンバーには「すっきり度合いを教えてください」という画面が表示される。これはマネージャーとの対話によってどのくらい悩みが解決したか、あるいはスキル向上へのめどが立ったか、といった手ごたえを入力するものだ。
従業員間の忖度など、「部下から見た上司の評価」は正直な情報が集まりにくいものだが、カケアイではこの情報がそのまま上司や人事に送られることはない。このデータは月に1度集められ、個人名なしのサーベイデータとしてマネージャーに送付される。自分が得意・不得意とするトピックおよび対応を見ることができ、マネージャー自身の成長に活用できる。
「メンバーがすっきりしたかどうかのデータ、それから世の中全体の管理職の方々の得意なこと苦手なこと、この辺から総合的に示唆として出している。ダイレクトに部下がこれが良かった悪かったと言ってくるのは上司としてはなかなか受け止めがたい。自分自身の感覚と照らしてもらいながら、受け止めやすい形で自分の行動を変える材料として提供している。
またメンバーには、月に1回『先月振り返って成長の実感どうですか』という簡単なサーベイを行なっている。みなさん自分のことを答えてますから、上司はその状態を見て感覚とずれてるところもわかるようになる。たとえば自己評価が低いメンバーがいれば、ミーティングや日常会話のなかで『ここできるようになったね』といった話が足りてないことを上司側は認識ができ、メンバーの成長が促せる。こういう仕組みが1on1です」(本田氏)
カケアイは2020年3月のリリース以来、すでに国内外で数万人の利用実績がある。結果、「対話の質の向上」や「1on1の内容が蓄積され、後に活かされるようになった」などの評価が上がってきている。さらにカスタマーサクセスの一環として、1on1を上手くできている上司部下にインタビューを行い、そこから得られるノウハウを公開している。
「生産性を上げていきたいとか離職を下げていきたいという声がある。カケアイを使っていただいた組織と使ってない組織の営業を比較すると、改善は目に見えている。以前から上司の影響は生産性や離職といったエンゲージメントへの影響が大きいということは言われてきたが、実際サービスを使うと変わってくる」(本田氏)
また、カケアイをツールとして提供するだけでなく、カケアイを通じて蓄積されてきたデータをもとに、企業研修を行なう事業者と連携してワークショップなどを開催している。「話をきいてほしい」が苦手な上司向けには「傾聴」に関する研修、「一緒に考えて欲しい」が苦手なら「コーチング」に関する研修など、ファクトを反映したものになっている。
さらに海外展開もすでに始まっている。海外事業所を持つ国内大手企業からは、国内で行なわれているHR活動と同じレベルの対応を海外でも実施したいという希望があり、1on1のサポート機能を英語化し、海外での現地採用者との間でもカケアイを使った1on1が実施できるようにした。
「働いている人ひとりひとり、たまたま入った会社で自分自身の人生が大きく変わるということは当然ある。ただ人からの関わられ方によって、人生が棄損されることがない社会を作っていきたい。これは特別国内だけの話ではなく、世界中どこでも同じこと。人事制度にも業種業態にも依らない、どこにでもある問題。そのとき、上司と部下による1対1のコミュニケーションにおいて必ず使われる、情報のスピードや量などもセットにした、コミュニケーションの質を担保していくインフラになっていきたい」(本田氏)
コロナ禍によって、従業員1人ひとりのスキルアップや帰属意識の向上は、企業の安定的成長に欠かすことができない課題であることが明らかになった中、上司と部下のピープルマネジメントサービスがどのように発展するのか、注視していきたい。