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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第60回

ヒラリー・ハーンの小曲集から、宇多田のシン・エヴァ主題歌まで≪ハイレゾ推薦音源≫

2021年04月18日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『パリ』
ヒラリー・ハーン
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、ミッコ・フランク

特選

 ヒラリー・ハーンの最新作。「パリ」にまつわる名曲集だ。長年、パリで共演し、2018-19年にアーティスト・イン・レジデンスを務めたフランス放送フィルハーモニー管弦楽団と共に録音した。1916年から17年にかけて作曲され、1923年パリで初演されたプロコフィエフの協奏曲第1番、パリ出身のショーソンによって書かれ、パリでイザイが初演したショーソン「詩曲」、そして本アルバムの指揮者、ミッコ・フランクの親しい友人であったフィンランドの作曲家ラウタヴァーラ(2016年に没)の2つのセレナード----という内容だ。

 ラウタヴァーラの「愛へのセレナード」のクールな耽美性、「人生へのセレナード」の叙情性……と、楽曲のコンセプトを明確にメッセージとして伝えてくれる。音場センターにヒラリー・ハーンがポジションし、そこからやや距離を置いた奥に、オーケストラが居る。個個の細かい楽器の音像より、全体としてのマッシブな響きを重視しているようだ。ヴァイオリンもオーケストラも過度にカラフルさを強調せず、しっとりとした音調で聴かせる。2019年2月、6月、パリにて録音。

FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Deutsche Grammmophone(DG)、e-onkyo music

『Road to the Sun』
Pat Metheny

特選

 ジャズを始め、ジャンルの枠組みを超え、30年以上活躍を続けるギタリスト、パット・メセニー。本アルバムでは作曲に徹し、自らの演奏は最小に留めている。素晴らしいのがジェイソン・VIEAUXのギターだ。レパートリーはルネサンス期から現代音楽にいたるまで幅広いアメリカのギタリスト。

 「1.Four Paths of Light, Pt. 1」は、ぶっといアコースティックギターのアルペジオで構成された作品。音像は同じだが、立つメロディの音色と伴奏の音が違うのである。一人では不可能だと思われるような演奏だ。

 「2.Four Paths of Light」はデュオかと見紛う(聴き紛う?)も、ソロ演奏だ。しっとりとした心に染みいる旋律。パット・メセニーは「11.Fur Alina (arr. by Pat Metheny for 42-string guitar)」での演奏のみ。42弦のピカソギターを弾く。音調はナチュラルで滑らか、剛性の高い、弾力性が高い音だ。
 

FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio:96kHz/24bit
Modern Recordings、e-onkyo music

『Reflections』
Pablo Ferrández、Denis Kozhukhin

特選

 「21世紀のカザルス」として今、世界的に注目されるスペインのチェリスト、パブロ・フェランデスが、ソニークラシカルからレーベル・デビュー。しっとり落ち着いた深い調べが胸を打ち、やさしく大胆なヴィブラートが胸をかきむしり、音の波が空気を震わせる……まさに、現代チェロの深い魅力に溢れたアルバムだ。男声の帯域と同じ周波数を発するチェロはヒューマンな音色にて、まるで優しく語りかけてくるような、親しい感情が聴ける。特にメランコリーな音楽を集めた本アルバムでは、そんな密やかな、そしてメッセージ性に溢れた音色の魅力が堪能できる。「10.Vocalise」は、タイトル名のとおり言葉はないけれど、人が言葉を発する感情の蠢き。チェロもピアノも安定的にセンターに位置し、音像サイズも適切だ。高品位なチェロサウンドが耳に馴染む。2020年8月24日~28日、ベルリン、テルデックス・スタジオで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『青い炎』
工藤静香

推薦

 工藤静香の中島みゆきカバーアルバム。2008年に発売された『MY PRECIOUS -Shizuka sings of Miyuki』以来、12年ぶりだ。中島みゆきの音楽は、さまざまな歌手によってカバーされているが、工藤静香はドスの効き方と、押し出し感、強調感……により、ワン・アンド・オンリーの工藤静香節になり、それは同時に中島みゆきの音楽の特質のひとつを具象している。「2.アザミ嬢のララバイ」では世捨て人のような諦観の迫力が、「10.地上の星」では、アクセントと力づよい切れ込みが、「5.時代」は、演歌的なこぶしが……独特な魅力を発揮。音はハイファイではなく、強調感の強い歌謡曲トーン。ヴォーカルがセンターにひじょうに大きな音像を描き、背後のオーケストラも音の粒子が太く、これまた押し出し感が満点だ。

FLAC:48kHz/24bit、WAV:48kHz/24bit
ポニーキャニオン、e-onkyo music

『Beethoven - Wagner - Verdi』
Lise Davidsen、London Philharmonic Orchestra、Mark Elder

推薦

 ソプラノのニュー・スターとして世界的に注目されているノルウェーのリーゼ・ダヴィドセンのセカンド・アルバム。2020年8月に、ロンドンはヘンリー・ウッド・ホール、10月にワトフォードのWatford colosseumで、ロックダウン中に録音されたアルバム。よくやったと誉めてあげたい。

 歌唱も録音も実に素晴らしい。透明度が高く、彩度感に満ちた、鋭角的でブリリアントなソプラノだ。マーク・エルダー指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団は単なる伴奏という域を超え、主役のソプラノと、言葉の本来の意味での「協演」を果たしている。ソプラノはセンターに確実に定位し、背後のオーケストラまでひじょうにクリヤーに高解像度にて収録されている。手前に弦、奥に木管、金管というレイアウトが、2チャンネルながら明確に聴き取れるのが最新録音ならではの音響の魅力だ。特に「5.Cherubini: Medea / Act 1 - Dei tuoi figli la madre (Ed. Testi)」のドラマティックな高域の伸びは素晴らしい。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

『777』
Ba-Nana

推薦

 ベーシスト、レコーディング・エンジニア、プロデューサーの塩田哲嗣氏が設立したレーベルSteelpan Recordsが2020年12月にリリースした、シンガーBa-Nana(ナナ)の初フル・アルバム。塩田氏は、本欄でも多く採り上げているDays of Delightレーベルでも、エンジニアとして傑作を多くものしている。本作品ではベースを演奏し、録音も担当。

 目の覚めるような鮮明で鮮烈な音だ。ヴォーカルの輪郭が強く、ボディ感も豊潤。粒立ちがパワフルで、一音一音がひじょうに明確だ。ヴォーカル音像はセンターに見事に安定的に定位し、ボディの形が見えるようなリアルなイメージ。まるでジャズクラブのステージの眼前で聴いているような錯覚も。生のステージなら、歌手はセンターでも音は左右のPAスピーカーから出てくるわけだが、きちんとミックスされた録音では、バーチャルな"画音一致が得られる。ピアノもベースもギターも実に明瞭。特にソロの音色感が鮮鋭。さすがは名人の音だ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Steelpan Records.、e-onkyo music

『Brahms: Piano Quartet No. 1、Symphony No. 3
- The Schoenberg Effect』

Notos Quartett

推薦

 2017年にソニー・クラシカルからCDデビューし、ヨーロッパで躍進中のファッショナブルなピアノ四重奏団、ノトス・カルテット(ギリシャ神話の“ノトス(南風)”の意)。2019年7月の初来日で、発見楽譜のバルトーク:ピアノ四重奏曲ハ短調と、本アルバムに収められた得意のブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調を演奏した。複雑な和声、ほの暗い旋律美、重奏的なサウンド……とブラームスの魅力に満ちあふれた名曲だ。ノトス・カルテットはそれを自己薬籠中にし、厚く、輝かしい響きの中に、ブラームスの青春のバッションを表現している。躍動感に溢れた第4楽章のジプシー風のチャルダッシュは格別の魅力。

 アンドレアス・N・タルクマン(1956年生まれのドイツの作曲家)の手になるブラームス:交響曲第3番のピアノ四重奏版。はじめて聴くが、オリジナルのオーケストラ版より、ブラームス的なエッセンスを抉りだしたような編曲翼だ。第3楽章の「恋人たち」のメロディの弦の旋律を、ピアノがオブリガード的な副旋律にてサポートする場面の溜めの音響感も、素敵だ。ピアノをステレオ音場の中核にして、3人の弦が左から高弦、中弦、低弦……とワイドに配置されている。2020年4月14-18日、ケルン、ドイッチュラントフンク室内楽ザールで録音。

FLAC:48kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Immigrants』
NITIN SAWHNEY

推薦

 資料によると、Nitin Sawhney(ニティン・ソーニー)は、ロンドン在住のミュージシャン/作曲家/DJ/プロデューサー/マルチ楽器奏者。インド系イギリス人の両親のもとに生まれ、幼少期よりピアノ、フラメンコ・ギター、シタール、タブラ等を学ぶ。アシッド・ジャズのジェームス・テイラーとの出会いを機にキャリアをスタートさせ、タブラ奏者のタルヴィン・シンとの共演を経て、1994年に初のソロ名義のアルバムとなる『Spirit Dance』を発売---と、ある。

 本アルバムのタイトルは『Immigrants』、つまり「移民」だ。インド的なエレクトロカとアンビエントが融合した音楽ドキュメンタリーという呈だ。「1.Down The Road (Album Version)はインドの要素が濃い。「2.Immigrants Interlude I」で、このアルバムは移民をテーマにしたと、高らかに宣言。「3.Movement - Variation II」はメロディック 、「4.Vai」はマイナーな美しい曲。これにはインドは感じなかったが、「5.Exile」でインドに戻った。「12.Differences」は男女歌手のデュエット。まさしくインド的だ。「15.Tokyo」は「2番線天王寺行き」というアナウンスが聞こえる。天王寺は大阪だ。「18.Movement - Variation I (Album Version)」はサラサーテ的なジプシーの哀愁のヴァイオリン。最後の「20.Dream」はバングラディッシュについてのインタビュー。いつ来て、いつ生まれたかのインタビューだ。

FLAC:44.1kHz/24bit
Masterworks、e-onkyo music

『KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND”』
木村カエラ

推薦

 2020年9月に新木場STUDIO COASTにて行われた、木村カエラ初のオンラインライブ「KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND”」の音源をハイレゾでリリース。オンライン配信は基本的に圧縮で届けるので、音はいまひとつという印象だが、実は生の録音は、現代の定番のシステム、機器を使うので、オリジナルはここまで明瞭でクリヤーであることが、本配信音源を聴くと分かる。48kHz/24bitだが、あえてハイパラメーターのハイレゾでなくローレゾを採用したのは、音の輪郭感、音の凝縮感の強さを求めとのことと思われる。ヴォーカルはもちろん、バックのバンドの各楽器の解像度も高く、特にベース、ドラムスが明瞭に収録されている。ヴォーカル音像はしっかりと屹立し、ボディ感もとてもリッチだ。

FLAC:48kHz/24bit、WAV:48kHz/24bit
ELA MUSIC、e-onkyo music

『One Last Kiss』
宇多田ヒカル

推薦

 宇多田ヒカルが映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に書下ろした新曲「One Last Kiss」を冒頭に、2007年に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に至るのテーマソングがすべて収録されている。バーバルな情報量がひじょうに多く、軽快なリズムと共にまさに宇多田ヒカルでなければ書けない類の楽曲だ。映画自体も大ヒットしているが、宇多田のプレゼンスもひじょうに大きいことが分かる。音効果的には、冒頭、プレーンな言葉のメッセージを明瞭に伝えるためにリバーブを少なくし、途中から音数が増え、同時にリバーブがひじょうを深くなり、響きの多彩感をメインにする音操作がハイレゾ的な聴きどころだ。テクスチャーは複雑だが、音の金属的な重層感が心地好い。ヴォーカル音像は明瞭。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

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