脱炭素社会に向けた新たなエネルギーモデルとなるか

沖縄電力が太陽光+蓄電池無償設置サービス開始

文●ASCII

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 沖縄電力グループは、沖縄本島の一戸建て住宅住まいの一般客に対して、太陽光発電設備および蓄電池を無償で設置し、電気を供給する「かりーるーふ」サービスを4月1日からスタートする。顧客の屋根上で発電した電気を屋根下の顧客宅に販売する究極の地産地消サービスだ。太陽光発電の第三者所有モデル、いわゆるPPAモデルは工場や倉庫、商業施設の屋根などを利用して日本中で既に導入されているが、沖電の新事業は個人宅に蓄電池も含めて設置するという点で新しい試みであり、さらに大手電力会社が蓄電池を含むPPAモデルを手掛けるのは沖電が初となる。

「かりーるーふ」を試験導入した一般住宅。屋根に6.6kWの太陽光発電と、住宅の壁面にパワーコンディショナーおよび5.6kWhの蓄電池を設置">

今後10年間で2000棟に導入計画

 「かりーるーふ」は、パネル20枚(35平方メートル)・設置容量6.6kWの太陽光発電装置と設置容量5.6kWh・実行4.5kWhの蓄電池、およびコントロール機器を一般住宅に無償で設置、その代わりに同機器で発電した電気はすべて設置家庭で買い取りするモデル。昼間に消費しきれなかった電気は蓄電池に貯めて夜間に使用することができるため、太陽光で発電した電気で一戸建て住宅の1日の使用電力量をほぼ賄うことができる。ただ、雨天・曇天時に発電量が低かったり、住宅の使用電力量が多くて太陽光発電だけでは賄い切れない場合は、従来どおり沖縄電力から購入することになる。

「かりーるーふ」のイメージロゴ。屋根を「かりる」と英語の「roof」をかけ合わせて作った名称だが、沖縄方言で縁起が良い、福を招く言葉として使用される「かりー」にもかけている

「かりーるーふ」の概要

 台風など災害時に大規模停電となった場合、電力供給のための回路が遮断されるため、太陽光で発電した電気をそのまま使うことはできない。そのため、宅外に設置したパワーコンディショナーから非常用コンセント(1.5kW)を宅内に引き入れ、冷蔵庫やスマホの充電などに使用できるようにした。冷蔵庫やテレビの視聴、スマホの充電程度ならば約2日間は使用可能だとしている。通常時は太陽光で発電した電気は分電盤を通じて住宅内の全てのコンセントで使用できるが、停電時は非常用コンセント1つしか使えなくなるわけだが、冷蔵庫やスマホの充電ができるだけでもメリットは大きいだろう。

「かりーるーふ」の利用者メリット

 運用は沖縄電力100%子会社の沖縄新エネ開発が行うが、「かりーるーふ」設置家庭が同社に支払う利用料金(電気料金)は沖縄電力より若干低く設定されている。光熱費の試算では、電気+ガス併用時に比べて、「かりーるーふ」+オール電化は年間5万円ほどのランニンコスト削減になるという。「かりーるーふ」を使用しない場合のオール電化料金と比べても年間3000~5000円ほど安くなるとのことだ。

「かりーるーふ」導入時の光熱費試算。ガスとの併用に比べて年間5万円、単純なオール電化に比べても年間3000―5000円のランニンコスト削減になるという

 4月からサービスインに先立ち、沖電グループでは1月に限定50名の事前申込希望者を募ったが、応募が殺到したことで早々に募集を打ち切っている。沖電グループでは4月からの1年間で新たに200軒を募集する予定で、以降も毎年200軒ずつの募集を10年間続けていく計画でいる。

再エネ主力化目標の中で「かりーるーふ」が主役になる可能性

 「かりーるーふ」事業のそもそもの目的には、沖縄電力が掲げる「ゼロエミッションへの取り組み~2050 CO2 排出ネットゼロを目指して」がある。30年後にCO2排出ネットゼロを実現するために「再エネ主力化」を掲げており、「かりーるーふ」はその中心となる可能性が高い。

 従来の沖縄は、石炭・石油を燃料とする火力発電が主力だった。離島のため水力発電用のダムが建設できるほどの河川がなく、原子力発電もない。化石燃料への依存度が高くなるのはやむなしだが、とはいえ、地球温暖化対策への社会的要請が年々高まっていくなかで、離島であることを言い訳にして無策でいるわけにはいかない。

 そこで沖電では、石炭・石油よりCO2の排出が少ない液化天然ガス(LNG)を燃料とした火力発電所の建設や、メガ―ソーラー、風力発電といった再生可能エネルギーの導入を進めてきた。現在、LNG火力発電所は1カ所(出力251MW×2基)、LNG・灯油・バイオエタノールのマルチガスタービン発電所が1カ所(出力35MW)、風力発電所が1カ所(2000kW×2基、メガソーラー1カ所(1000kW)を稼働している。

 ただ、メガソーラーや風力発電は、環境に優しいものの、経営的な観点から見ると効率が良いとは言い難い。例えばメガ―ソーラーの場合、名護市の山間部の敷地面積約2万6730平方メートルに8748枚もの太陽電池モジュールを設置し、年間105万kWh程度を発電(想定発電電力量)しているが、これは300世帯分の電力量でしかない。広大な用地を取得した後に道路を整備し、土地をならして9000枚近くのパネルを設置したり管理棟を建てたり、そこまで電線を引いたりという、多大なコストと労力、時間をかけて建設しても300世帯分の電力をまかなうのが精々。しかも、天候の悪い時には発電量が落ち、夜間は発電できない。コスト面や土地取得の観点から見ても、メガソーラーは今後、拡大することは難しいのではないか。

名護市で稼働している沖縄電力の「安部メガソーラー」。2万6730平方メートルの敷地に8748枚のソーラーパネルを設置し、300世帯分の電力を供給している

 「かりーるーふ」は既存住宅の屋根を利用するので、メガソーラーのように新たな土地取得は必要なく、1つの屋根で1つの家庭を賄うので大規模なスペースも必要ない。幸いにして、沖縄は台風対策のために平屋根(陸屋根)が多く、ソーラーパネルの設置に適している。一般住宅なので電線も敷設済み。無償で太陽光発電システムを設置するスペースが手に入り、電気の購入者もすぐ屋根の下にいる。非常に効率の良い発電所といえよう。

沖縄から日本全国、世界に広げる新たなエネルギービジネス

 「かりーるーふ」を構成する機器や管理用マネージメントシステムの構築を担当したのがパナソニック・ライフソリューションズ社だ。「かりーるーふ」はいわば一軒一軒が独立した小さな発電所。利用者の生活に支障をきたさないためにもこれら全てを制御し、安定的な電力供給を行う必要がある。パナソニックでは、今後何百、何千と増えていく「かりーるーふ」をAI、通信といったデジタル技術を活用して群制御し、需給一体型のエネルギーマネジメントシステムを構築した。「かりーるーふ」の事例をもって新しいビジネスモデルの創造を目指すが、このモデルを日本だけではなく世界的に広げるためにも、オープンソースを使った普及しやすい技術の確率を目指す考えだ。

「かりーるーふ」事業におけるパナソニックの役割

「かりーるーふ」をモデルケースに、パナソニックは全世界でより普及しやすいシステムの構築を目指す

 地球温暖化対策としてのCO2削減のため、再生可能エネルギーの導入拡大は必須だが、自然環境保護・住環境保護や広大な土地取得コストなどの問題があり、大規模な再エネ発電所の建設は簡単ではない。沖縄電力グループの「かりーるーふ」は、現代のエネルギー事情が抱えるこれら課題に対する有力な解答の一つなのではないだろうか。

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