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「INNOVATION LEAGUE」DEMO DAY レポート

AIシューズがコーチになる 先端テック×スポーツ表彰9選

2021年03月08日 09時00分更新

文● 中田ボンベ@dcp 編集● ASCII STARTUP 撮影●平原克彦

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 2021年2月26日、幕張メッセにて「INNOVATION LEAGUE DEMO DAY(イノベーションリーグ デモデイ)」が開催された。「INNOVATION LEAGUE」はスポーツ協会や団体が持つアセットに、テクノロジーを掛け合わせることで、新しいアイデアの創出やスポーツビジネスの拡張を目指すことを目的にスポーツ庁が展開している。

 スポーツビジネスの拡張を目標とする「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」、スポーツの可能性を広げる活動を表彰する「INNOVATION LEAGUE コンテスト」という2つのプログラムで構成されている。今回のデモデイは、厳しい審査の末に選ばれた各プログラムの選出企業の「授賞式」と「成果発表」が行なわれた。

 スポーツ庁の室伏広治長官による開会の挨拶では、新型コロナの影響でスポーツとの関わり方が大きく変化した今、「INNOVATION LEAGUE」がスポーツの可能性、新たな楽しみ方の創出のきっかけになると述べた。

スポーツ庁 室伏広治長官

スポーツの楽しみ方を変える可能性を秘めた5つの取り組み

 INNOVATION LEAGUE アクセラレーションは、応募企業の中から選ばれた企業が、「日本バレーボール協会」および、3人制バスケットボールのプロリーグである「3×3. EXE PREMIER」と連携し、テクノロジーやビジネスアイデアの実証を行なうものだ。

 採択された企業は、アイ・オー・データ機器、AMATELUS、THECOO、ジャングルX、SpoLive Interactiveの5社。それぞれの企業の代表、担当者が登壇し、5分間プレゼンした。

 「オーディオ・プラットフォーマー」という形で選ばれた、アイ・オー・データ機器は、同社営業本部市場開拓部の小川元大副部長が登壇。「PlatCast」という、インターネットを利用した音声配信サービスをプレゼンした。

アイ・オー・データ機器 小川元大氏(右)

 「PlatCast」は、スポーツに特化した現地観戦者用の音声配信サービス。URLベースのキットを採用しており、アプリのダウンロードや会員登録なしに利用できる。通信量も1時間の聴取で40MBと少ないのも魅力のひとつとしている。

 小川氏は、「今回の取り組みの中で改めてスポーツ団体が求めるニーズやオフシーズン企画の重要性を再認識した」と話し、今後は「PlatCast」の機能追加や用途開拓、また同社の他商品との連携ソリューションにも注力したいと語った。

 2社目は「ビューワー・エクスペリエンス・パートナー」のAMATELUS。下城伸也代表取締役CEOが登壇し、自由視点映像システム「SwipeVideo」についてのプレゼンを行なった。

AMATELUS 下城伸也代表取締役CEO(右)

 「SwipeVideo」は、これまで難しいとされていた自由視点映像やマルチアングル映像をクラウド配信できるシステムだ。配信側だけでなく、視聴者側で自由に視点を切り替えられ、まるで映画「マトリックス」のワンシーンのような迫力ある視点でスポーツが楽しめる。視聴者側でも自由に視点を切り替える技術は国際特許を取得している。

 「SwipeVideo」はスポーツやイベントでの「世界初の360度の映像体験」できることで注目を集めており、すでに日本バレーボール協会とはリーグ試合の「SwipeVideo」化を実現。今後は3×3. EXE PREMIERの試合の生配信も予定している。

 3社目はTHECOOの佐藤陽介氏が登壇。同社は「ファンコミュニティ・プラットフォーマー」としての選出となった。

THECOO 佐藤陽介氏(右)

 佐藤氏がコミュニティー型ファンクラブアプリ「Fanicon」のプレゼンを実施。アーティストやタレントがファンとコミュニケーションできるプラットフォームだ。2017年のローンチ以降、現在までに2000以上のコミュニティーを開設し、最近では乃木坂46のコミュニティーもオープンしたとのこと。

 従来のファンクラブにSNSなどコミュニティー要素を加えた本システムだが、コミュニティーだけでなく、ECやチケッティングといった部分も網羅している。佐藤氏は「今回の取り組みで、スポーツファンが求めるコンテンツや課題を学ぶことができた」と語っており、今後さらにファンとの距離を近づけるエンターテインメントの創出が期待される。

 次は「データビジネス・パートナー」のジャングルX。直江文忠代表取締役が登壇し、次世代型スポーツ観戦プラットフォームについてのプレゼンを実施。

ジャングルX 直江文忠代表取締役(右)

 新型コロナの影響で「売り物」である試合に大きな制限が掛かっている中、同社は「試合の前後」に新しい機会を創出し、試合をより盛り上がようとする。たとえば、選手の背景にある物語などだ。これを音声で伝えることで、通常の観戦以上の没入感と熱狂を生み出そうとしている。

 今回の取り組みでは3×3. EXE PREMIERと連携し、選手や関係者のストーリーをポッドキャストで配信。試合が見られない時間に選手の背景や試合の見方が変わる解説を聞くことで、世界観の醸成に成功したとのこと。2021年3月14日には、単なる音声配信ではなく、インプレー(没入)できる新しいスポーツ観戦コンテンツを配信するとしている。

 5社目は「ブロードキャスト・プラットフォーマー」に選ばれたSpoLive Interactive。岩田裕平代表取締役CEOが登壇し、次世代バーチャル観戦プラットフォーム「SpoLive」をプレゼンした。

 「SpoLive」は配信するチーム側に極力負担をかけずに、映像、チームコンテンツ、スタッツ(プレーの成績をまとめたデータ)などを総合的に発信できるサービス。「チーム自身が情報発信することでファンとの距離感を縮められる」とのこと。ほかにも、応援コンテンツを購入して「スーパー応援」をすることでより一体感のある応援が楽しめるとしている。

SpoLive Interactive 岩田裕平代表取締役CEO(右)

 同社は3×3. EXE PREMIERと連携し、「SpoLive」を用いた観戦体験のエンタメ化に挑戦。その結果、システムレベルで運営を効率化しつつ、ライトファンでも楽しめるエンタメ要素の創出の可能性を見いだせたとのこと。

 採択企業5社は、今後もコラボレーションパートナーと共にスポーツとテクノロジーが融合した、新しいスポーツの楽しみ方を模索していくとのこと。競技運営や事業構造のあり方も変えてくれるのではと期待されている。

スポーツビジネスを変える新しい取り組みを讃える

 続いて「INNOVATION LEAGUE コンテスト」の受賞企業・団体を表彰した。日本各地で新しいスポーツビジネスが誕生している中で、特に魅力的なチャレンジを表彰するコンテストだ。

 表彰はメインとなる「イノベーションリーグ大賞」のほか、「ソーシャル・インパクト賞」、「アクティベーション賞」、「パイオニア賞」の計4部門。

 スポーツを社会課題の解決に活用している取り組みが対象となる「ソーシャル・インパクト賞」は、シンクが取り組んでいる「防災スポーツ ~スポーツで災害に強くなる防災プログラム」が受賞した。

シンク 篠田大輔代表取締役社長(右)

 「楽しんで、競い合って、身体で覚えること」をテーマに、スポーツの持つ遊戯性や運動性を活用し、もしもの時に生き抜く力を育むという内容。同社の篠田大輔氏によると、「自身の阪神淡路大震災の経験が根幹にあり、スポーツを活用すれば災害などの困難を乗り越えられるのでは」と考えたという。

 スポーツで楽しみながら防災を学ぶプログラムを企業会員、一般イベントや各地域で実施しており、「スポーツを用いて地域の防災力向上に寄与した」ことが受賞の要因となった。篠田氏は「今後はスタジアムなどの防災拠点から地域の防災力を高めたい」と話した。

 続いて、スポンサーシップの先進的取り組みを表彰する「アクティベーション賞」の発表が行なわれ、ookamiの「【Player!】コロナ禍におけるスポーツエンターテイメント3.0」が選ばれた。

ookami 尾形太陽代表取締役(中央)

 「Player!」は、チーム自身や現地にいるスタッフが配信することで、従来以上の熱狂とエンターテインメントを提供できるオンライン観戦プラットフォーム。特にテレビでは放送されないようなマイナースポーツの活性化に貢献しており、ローンチから7年で多くの配信パートナーを得ている。

 今回、新型コロナの影響で「オンライン観戦」もアップデートが求められ、同社は「チームの新たな収益モデル」と「大会広報のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を考案。前者ではファンが選手やチームを金銭的に直接支援できる「Player!サポート」を開発し、すでにJリーグのクラブにもシステムを導入している。

 今回の受賞について尾形氏は「社員や信じてくれているパートナーの皆さんのおかげです」とコメント。今後も日本中のスポーツを可視化し、マイナースポーツの発展に寄与したいと語った。

 スポーツ界が直面する困難に挑み、乗り越えようとする取り組みを表彰する「パイオニア賞」は、一般社団法人スポーツを止めるなによる「スポーツを止めるな」が受賞した。

一般社団法人スポーツを止めるなの廣瀬俊朗共同代表理事(中央)、最上紘太共同代表理事(右)

 新型コロナの影響でプレー機会を失った学生アスリートを支援するという内容。安全なクローズドの環境で、自身のプレー動画を発信できるプレーアピールシステム「HANDS UP」の開発(2021年1月に提供開始)や、コロナの影響で引退した選手の支援、トップアスリートによる教育プログラムなどを提供している。

 授賞式には元ラグビー日本代表であり、同法人の共同代表理事である廣瀬俊朗氏、同じく共同代表理事である最上紘太氏が登壇。コロナ渦におけるアスリートの現状を訴えると共に、同取り組みによって、競技の垣根を越えた活動ができていると話した。

 グローバルな面でも注目を集めており、今後大きく活動が広がる可能性がある。廣瀬氏は「興味を持ってくれたアスリートと一緒に活動を広げていきたい」と話している。

 スポーツビジネスに変革を示す取り組みを表彰する「イノベーションリーグ大賞」は、no new folk studio(nnf)とアシックスが共同開発した「EVORIDE ORPHE(エボライド オルフェ)」が選ばれた。

 EVORIDE ORPHEは、nnfが開発した「ORPHE CORE 2.0」を搭載したスマートシューズだ。加速度センサーとジャイロセンサーによって取得したデータを基に、ランナーの足の動きやメカニズムを分析。可視化したデータをベースに、AIを通じたパーソナルコーチングを提供するという仕組みだ。

アシックス 猪股貴志氏(中央)、no new folk studio 菊川裕也 CEO and Founder(右)

 登壇したアシックスの猪股貴志氏が「コーチになるシューズ」と語ったように、靴とアプリさえあればどこでもコーチングが受けられるという、指導受ける時間がないランナーにとっては魅力的なアイテムだといえる。

 nnfの効率的にスマートシューズを構築するプラットフォームを活用すれば、例えばランニング用以外の靴のスマート化も可能になるとしており、菊川裕也氏は「今後はスポーツ分野だけでなく、健康や医療の分野での活用を目指している」とコメント。スポーツだけでなく幅広い分野での貢献が期待される。

 デモデイのラストに再び室伏スポーツ庁長官が登壇。「素晴らしい取り組みばかりで勇気をもらった。コロナ渦においてもスポーツの価値はあるんだということを改めて実感した。ただ、ここがゴールではなくスタート。皆さんと協力して一緒に素晴らしいスポーツ界にしたい」と話し、閉会の挨拶を締めくくった。

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