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山根博士の海外モバイル通信 第537回

シャオミがサービスを終了した「MiTalk」、Clubhouseみたいなアプリで再出発

2021年03月04日 12時00分更新

文● 山根康宏 編集●ASCII

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シャオミのメッセンジャーサービス「MiTalk」

 スマートフォンだけではなくIoT機器も展開し、グローバル企業の仲間入りをはたしたシャオミ(Xiaomi)。実は中国でメッセンジャーアプリも提供していました。しかし、2021年2月19日にサービス終了を発表。ところがすぐに新たなサービスとして再出発を図ると発表しました。いったいどんなサービスで、なぜ一度廃止したサービスを再開しようとしているのでしょうか?

 シャオミはスマートフォンメーカーですが、会社をスタートさせた2010年当時はソフトウェアを開発していました。シャオミのスマートフォンが搭載するMIUIは、元々はカスタムROMとしてHTCやサムスンのスマートフォン向けに開発されたものだったのです。その後、自社でスマートフォンを開発し、2011年8月に「Mi 1」を発表。いきなり大人気になったのはスマートフォンの歴史の中の1ページに残されるべき偉業です。

 ちなみにシャオミの躍進を今でも「アップルの真似をした」と簡単に片づける声が聞かれますが、シャオミはアップルの真逆の戦略で成功したのです。スマートフォンのパッケージはクラフト紙のそっけないシンプルな物でしたし、店舗販売はせずオンラインで限定販売を行ないました。またシャオミの店舗「小米之家」も当初はビルの上層階、家賃の安いところに展開し、店舗の主な業務はカスタマーサポートでした。「Apple Storeみたい」と言われる美しい店舗展開になったのは、成長に急ブレーキがかったのち、ビジネス戦略を変えた2018年以降のことです。

2016年に訪れた上海の小米之家。オフィスビルの9階にありアップルストアのような華やかさはない

 さてMi 1が登場した時代は、世界的にSNSの利用者が急増したころと被ります。グーグルは2011年に「Google+」を発表し、TwitterやFacebookに対抗しようとしました。この動きは中国も同様で、シャオミはMi 1よりも先にメッセンジャーアプリ「MiTalk」(中国語では「米聊」)をリリースしていたのです。

 MiTalkは2010年12月にクロスプラットフォームアプリとしてリリースされ、翌年Mi 1がリリースされるとプリインストールアプリとなり、シャオミユーザーの標準的なメッセンジャーとなりました。シャオミのスマートフォンは新機種が出るたびに事前予約のための登録コードが必要でしたが、そのコードもMiTalkで配布するなど、MiTalkはシャオミのスマートフォンビジネスになくてはならないものとして展開されていったのです。

MiTalkは昔のシャオミのスマホにはプリインストール。最近のモデルは自分で入れる必要があった

 しかし、今では中国でメッセンジャーサービスというと誰もが「WeChat」(微信)の名前を思い浮かべるように、MiTalkの直後に出てきたWeChatはあっという間にユーザーを増やし、中国の国民的メッセンジャーサービスとなりました。その背景には、中国ではメッセンジャーブーム以前からWeChatの開発元のテンセントが展開する「QQ」というメッセージサービスが1999年から展開されており、当時スマートフォンを買うと誰もがQQを真っ先にインストールしたのです。WeChatはQQのIDで登録できたことから、サービス開始と同時に爆発的に利用者を増やしていきました。

 一方、MiTalkはシャオミユーザーはすぐに使い始められるものの、WeChatが出てきてしまうと他社のスマートフォンユーザーにとってはあえてインストールするメリットのないサービスとなってしまいました。WeChatユーザー数が1億を突破したころ、MiTalkユーザー数は2000万人に達していなかったといいます。

 そのMiTalkがつい最近までサービスを続けていたというのも驚きでしたが、サービスを停止するという話を聞いて、中国では「そんなサービスがあったのか?」と若い人は思ったでしょう。古くからのシャオミユーザーの中には「そういえば使ったことがあったな」と思い出した人もいたかもしれません。いずれにせよシャオミのハードウェア以外のビジネスの柱となるMiTalkは終了となりました。

MiTalk再開をアナウンスするオフィシャルウェブサイト

 ところが2月26日、サービス終了からわずか1週間でシャオミは「MiTalk」の復活をアナウンスしました。現在すでに新サービスが始まっていますが、今のところ招待制で一部のユーザーのみが利用できるとのこと。新しいサービスはClubhouseのような音声を使ったSNSとなり、海外のClubhouse人気をいち早く追いかけようとしているようです。

 Clubhouseは中国でも今年に入ってから急激に人気が高まったようですが、2月8日に中国政府の規制が入り、中国国内からの利用はできなくなりました。しかしVPNを使って利用するユーザーもいるなど、音声SNSという新しいサービスは中国でもウケています。シャオミは当初、Clubhouseのことなど気にもしていなかったでしょうが、国内で同等のサービスがまだ立ち上がっていないことから、MiTalkを類似のサービスとして再出発させたようです。

中国では利用できなくなったClubhouse

 新しいMiTalkははたしてClubhouseのような音声SNSを提供するのか、スマートフォンメーカーらしくシャオミの製品となんらかの連携をするのか、などなどサービス内容が気になります。しばらくは中国向けのサービスになるでしょうが、利用者が増えて将来はグローバル向けのシャオミ端末にもプリインストールされる、なんてことになるかもしれませんね。筆者も招待を受けたら(まずは中国語だけだと思います)使ってみようと思っています。

山根博士のオフィシャルサイト

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