鈴木社長が横断的に取り組む「3つのテーマ」や2023年に向けた中期変革プログラムなどを紹介
「RISE with SAP」でコアERPのクラウド化推進、SAPジャパン2021年戦略
2021年02月18日 07時00分更新
SAPジャパンは2021年2月17日、代表取締役社長の鈴木洋史氏が出席して2021年の国内事業戦略説明会を開催した。鈴木氏は、SAPジャパンとして掲げてきた5つの重点エリアに加えて、領域横断的に取り組む「3つのテーマ」を新たに示した。「クラウドカンパニーとしての深化」というテーマでは、2月にグローバルで発表された「RISE with SAP」を紹介し、その中で、既存顧客が有するコアERPのクラウド移行を強力に推進していく方針だと述べた。
2020年のSAP、クラウドビジネスは18%成長と堅調
説明会冒頭、鈴木氏は昨年のビジネスについて総括した。
グローバルの2020年業績は、総売上が前年比1%増とほぼ横ばいの結果だった。ただし、SaaS/PaaSによるクラウド売上は18%増を記録しており、コロナ禍による企業出張の激減で苦戦したコンカー(インテリジェントスペンド分野)を除外すれば27%増と、クラウドビジネスへの移行と成長が見られる。クラウド分野では、今後1年間の売上指標となるクラウドバックログも前年比14%増となっている。
また、SAPジャパン単体の売上は13億ユーロ(約1650億円)で、前年比11%増の成長を達成している。「SAPジャパンは、すべての売上項目でグローバルの伸び率を上回ることができた」(鈴木氏)。
SAPジャパンでは昨年、「ナショナルアジェンダ」「デジタルエコシステム」「日本型インダストリー4.0」「クラウド」「エクスペリエンスマネジメント(XM)」という5つの重点事業エリアを掲げ、取り組みを進めてきた。
昨年、2020年には具体的なアクションを多数展開している。たとえば、ナショナルアジェンダでは特別定額給付金問い合わせWebサービスの自治体向け提供、会津若松市における小中学生向けIT教育拠点「寺子屋Hana」の開設、また日本型インダストリー4.0では「Industry 4.Now Hub Tokyo」の開設、クラウドでは「SAP Success Factors」とクアルトリクスの組み合わせによる新人事ソリューション「HXM(Human eXperience Management)」の提供開始などだ。
「デジタルエコシステム分野では、DX(デジタルトランスフォーメーション)のドライブを追い風として、当初目標を大幅に上回る前年比24%増の3536名を新たにSAP認定コンサルタントとして認定できた。認定コンサルタントの総数は現在1万8000名超と、2018年の約9000名から倍増している」(鈴木氏)
RISE with SAPで「コアERPのクラウド化」を強力に推進
続いて鈴木氏は、2021年のビジネス戦略について説明した。
2021年は、昨年示した5つの重点エリアに引き続き注力しつつ、これら全体を横断する形で「3つのテーマ」を新たに掲げ、ビジネスを進めるという。「クラウドカンパニーとしてのさらなる深化」「顧客の成功にとってなくてはならない存在になる」「顧客そして社員から選ばれる会社になる」という3つだ。
1つめのテーマ「クラウドカンパニーとしての深化」について、2月にグローバルで発表した新たなサービスパッケージ「RISE with SAP」を大きく取り上げた。
RISE with SAPでは、顧客企業における包括的なDXの実現に向けて(1)ビジネスプロセスの再設計、(2)テクニカルマイグレーション、(3)インテリジェントエンタープライズの実現という3段階のジャーニーを定義し、各段階で顧客の業界や企業規模に応じたサービスや技術を提供していく。
RISE with SAPを提供する背景について、鈴木氏は、世界の不確実性がビジネスに大きな影響を与える状況下で、多くの企業が根本的な課題解決に向けてビジネス変革を目指していることを指摘する。SAPが提唱する「インテリジェントエンタープライズ」の実現により、顧客企業の効率性や迅速性、イノベーションのスピードと頻度を高めることを目指すと述べる。
「RISE with SAPは、あらゆる業種、あらゆる規模の企業を対象に、その課題解決をサポートする『DXの実現に最適なコンシェルジュサービス』だ」(鈴木氏)
鈴木氏は、RISE with SAPを通じて特に「コアERPソリューションのクラウド化」を本格的に推進していきたいと説明する。クラウド型コアERPである「S/4 HANA Cloud」の提供開始から約2年が経過したものの、その大半は新規導入顧客であり、これまで複雑なカスタマイズを加えてコアERPを運用してきた既存顧客への浸透は遅れている。「カスタマイズされている既存のコアERPに対するクラウド移行支援が最重要だと認識している」(鈴木氏)。
そのためRISE with SAPには、S/4 HANA Cloudだけでなく、既存のコアERPがどのように使われているか、またどこに改善要素があるのかを可視化するレポートサービス、S/4 HANAへの確実な移行を実行する各種ツール、現行カスタムコードの修正を支援するサービスなども含まれる。
また、S/4 HANAと連携した形で各業種に特化した機能を盛り込み、同じ業種の企業が共通で使えるクラウドサービス「Industry Cloud」の提供も加速させると述べた。
鈴木氏は、RISE with SAPの本格展開を目指してSAPジャパン内に専門チームを立ち上げた一方で、広範な業界と企業規模にわたる展開にはパートナーの協力も必要だと説明。再販パートナーやサービスパートナーといった既存パートナーとも協力して市場展開を進めていく姿勢を強調した。
社員の約7割が“カスタマーサクセス部門”所属、顧客と伴走する姿勢
2つめのテーマである「顧客の成功にとってなくてはならない存在になる」については、「SAPソリューションの採用から導入、活用、拡張まですべての過程において、顧客の成功を実現するベストパートナーとして伴走することを目指す」と語る。この取り組みに関与する社員をすべて「カスタマーサクセス部門所属」としており、現在のSAPジャパンでは全社員1600名のうち、およそ1100名が同部門の所属だと説明した。今後も人材強化を図る方針だという。
3つめの「顧客そして社員から選ばれる会社になる」については、すべての基本となるのが「働きがいのある会社」になることだと説明する。
その取り組みのひとつとして、「アフターコロナの柔軟な働き方を実現するために」(鈴木氏)、今年4月以降に本社オフィスを東京・大手町の三井物産ビルに移転し、コンカーオフィスも統合する。同社ではすでにリモートワークが浸透しており、社員アンケートでも「週に1~3回の出社」希望が50%、「フルリモート(週0日の出社)」希望が42%を占めたことから、新本社を「社員の就業スペース」ではなく「コラボレーションの場」と位置づけたという。
また、2023年に向けた中期変革プログラム「SAP Japan 2023 Beyond」を新たに策定したことも紹介した。これは、2012年に策定した20カ年計画「SAP Japan Vision 2032」を目指し、直近3カ年の行動計画を示すもの。プログラムの策定にはSAPジャパンの全社組織を横断する100名以上の社員が参画し、「日本発、世界にさらなる躍動を。」というスローガンを掲げて、製品やサービスの提供に止まらない多面的な取り組みを進めると説明した。
ワクチン接種支援システム「VCH」を国内でも提供開始
なお説明会の中で鈴木氏は、SAPジャパンによるナショナルアジェンダへの取り組みの一環として、SAPがグローバルで展開する新型コロナウイルスワクチン接種の展開支援システム「Vaccine Collaboration Hub(VCH)」を日本国内でも提供開始したことを明らかにした。すでにいくつかの自治体からの問い合わせを受けていると述べた。
VCHはワクチン供給におけるバリューチェーンの可視化、サプライチェーン計画、そして住民へのワクチン接種を実施するためのミッションコントロールという3階層のサービスで構成されるが、鈴木氏は、SAPジャパンでは特にミッションコントロールの部分に注力すると述べた。具体的には、自治体における住民の接種状況の管理、リアルタイムの可視化が行えるという。
また住民に対しては、クアルトリクスの持つエクスペリエンスマネジメント(XM)ソリューションも用いて、Webからの接種予約のほか、接種後の副作用に関する教育やフォロー、2回目の接種案内といったサービスを提供し、エクスペリエンスの向上につなげるという。