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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第602回

デジタル信号処理の市場で生き残ったCEVA AIプロセッサーの昨今

2021年02月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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畳み込みニューラルネットワーク向けの
アクセラレーター「NeuPro」を開発

 このあたりからCEVAでは明確にAI/MLがCEVAの将来の市場として有望という感触をつかんだようで、ここから畳み込みニューラルネットワーク向けのアクセラレーターの開発を始めている。もともとCEVA-XM6の説明のプレゼンテーションの中に、CDNNに特化したアクセラレーターを開発するという話が出てきていた。

このアクセラレーター、当時は「将来CEVA-XM6用のコプロセッサー的な形で発表され、オプションとして利用可能になる」といったニュアンスで説明されたと記憶している

 実際この連載でも説明してきたが、畳み込みニューラルネットワークにしてもすべてのデータがフルに入っている状態というのは少なく、しばしば疎のデータが来る場合がある。これはデータに依存する話なので、事前にネットワークを最適化したところで避けられるわけではない。

 これをバカ正直に処理すると無駄に時間と電力を喰うので、それこそデータフローのような仕組みを入れて疎のデータを動的に弾いてしまうことで効率を上げようと考えるわけだが、この仕組みをDSP全体に入れてしまうのは大変である。

 そこでこうした部分は専用のアクセラレーターを利用することで、MACユニットの効率を引き上げ、性能を改善しようというわけだ。これは最終的に2018年1月にNeuProとしてリリースされる。

NeuPro VPUの方はCEVA-XMベースのDSPをそのまま流用する格好で、NeuPro Engineの方がメイン

 要するに疎のデータを弾くといった機能を追加し、さらに活性化やプーリングまで含まれた、畳み込み演算に特化したアクセラレーターを核にしたものだ。このNeuProエンジンはNP500/NP1000/NP2000/NP4000の4つの構成があり、それぞれ1サイクルあたりに512/1024/2048/4096MAC演算を可能としている。

 ちなみにこの数字は8bit×8bit演算の場合だが、混合精度もサポートしており、例えば8bit×16bit演算なども可能である(その場合性能はやや落ちるが)。このNeuProは16FF+プロセスを利用した場合1.53GHzで動作し、ピーク性能は6267GMAC/秒に達するとしていた。これは当時の競合製品に比べて1.5~5倍程度高い数字である。

 このNeuProをさらに進化させたのが、2019年に発表されたNeuPro-Sである。NeuProエンジンそのものにも拡張がいくつか施された他、マルチコアに対応。さらにカスタムAIエンジン(これは顧客が構築するもの)を追加することも可能になった。

大幅にスケーラビリティー、つまり要望に応じてコアを増やしたり拡張したりする余地を増やしたのが最大の特徴である。どこまで増やすかはコスト(=ダイサイズ)や消費電力との相談になるわけだが

 個々のNeuPro-Sエンジンのピーク性能そのものはNeuProエンジンと変わりないが、1コアで最大12.5TOPS、マルチコア構成では最大100TOPS以上の性能も実現可能となった。こうなってくるとターゲットはさらにシビアな用途も視野に入るわけで、実際NeuPro-Sを利用してLevel 4~5の自動運転も可能とCEVAは説明している。

 CEVAはその後、AIを利用しつつもIoT向けなどに多数のセンサーをつなげて、これを処理するセンサーハブ向けのCEVA SensPro2や、5G基地局に向けたCEVA-PentaG、5Gモデム向けのCEVA-XCシリーズといった特定用途向けDSPに加え、汎用のCEVA-BX2や省電力向けのCEVA-X1など、多数のバリエーションを展開しており、オーディオ/ビデオ向けといったもともとの用途に加えて非常に広範な市場をサポートしている。

 AI/ML向けアクセラレーターと異なり、NeuPro-Sですら(使おうと思えば)「汎用DSPとしても使える」あたりが同社の強みになっているのは間違いない。AI推論向けの市場で、特にエンドデバイスではこのCEVAのシェアが割と少なくない。

 もともと別の用途向けにCEVAのDSPを入れてあるデバイスのファームウェアを書き換えるだけでAI対応ができるようになる、というのは最終製品の付加価値を後追いでも追加したいベンダーにとっては非常に都合の良いシナリオであり、こうした市場をうまくつかんでビジネスにつなげているのがCEVAというわけだ。

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