必要なツール/サービスをすべてパッケージ、「インテリジェントエンタープライズに至る道筋を定義」
SAP、ビジネス変革加速を丸ごと支援する「RISE with SAP」発表
2021年02月02日 10時00分更新
SAPは2021年1月28日、企業のビジネス変革を加速させる新パッケージ「RISE with SAP」を発表した。ビジネスプロセスの再設計から既存アプリケーションの技術移行、そして“インテリジェントエンタープライズ”実現まで、一連の取り組みに必要な技術とサポートをひとまとめに提供する。オンライン発表会で同社CEO、クリスチャン・クライン氏は、RISE with SAPを「ビジネストランスフォーメーション・アズ・ア・サービス」だと紹介した。
なおこの包括的なパッケージには、コラボレーションツールとして「Microsoft Teams」も組み込まれる。発表会にはMicrosoft CEOのサティア・ナデラ氏もゲスト出席し、両社の提携についてコメントした。
ビジネス変革に向けた3つのステップを定義、必要な要素をすべて提供
RISE with SAPは、ビジネス変革に必要なSAPの技術とサポートを1つのパッケージとして提供するもの。SAPの製品は多様で、その料金体系はわかりにくい。SaaSベンダーと対抗するにあたって、このようなシンプルなソリューションは不可欠と言えるものだ。また、クライン氏がCEO着任以来強調してきた、インテリジェントエンタープライズビジョンの具現化を支援するという点でも重要な製品となる。
「包括的なビジネス変革を加速させ、顧客企業が期待する成果を得るまでのジャーニーで必要なものがすべて揃っている」(クライン氏)
RISE with SAPでは、ビジネス変革に向かう顧客の“ジャーニー”を、(1)ビジネスプロセスの再設計、(2)テクニカルマイグレーション、(3)インテリジェントエンタープライズの実現、という3つのステップで定義している。
まず、(1)ビジネスプロセスの再設計では、業界のベストプラクティスとSAPが蓄積してきた大量のデータベースを土台に、顧客企業のビジネスプロセスを変革する。このステップについては、ドイツのビジネスプロセスインテリジェンス(BPI)スタートアップであるシグナビオ(Signavio)を買収することで合意したと発表した。これにより、ビジネスプロセスの最適化をエンドツーエンドで行うことができるという。
「2万社以上のERP顧客から得られたベストプラクティスとデータを利用できる。独自のインサイトに基づき、業務プロセスをエンドツーエンドで把握/分析したり、業界基準に対するベンチマークを行ったりすることができる」(クライン氏)
さらに、ビジネスプロセスを自動化/省力化するRPAやAIサービスにも直接結びつけることができるという。
(2)テクニカルマイグレーションは、SAPが再構築するモジュラー型の標準ソリューションへの移行を図る。SAPおよびパートナーが提供するソリューションを利用することで、移行に際しての「モディフィケーションやカスタムコードは不要」(クライン氏)だという。
クライン氏が特に強調したのは「単一のセマンティックなデータレイヤー」だ。このデータレイヤーが提供されることで、顧客企業はビジネスを単一のデータソースに基づき運営できると、そのメリットを説明する。
「インテリジェント・エンタープライズに至る最適な道筋を明確化した」
(3)インテリジェントエンタープライズの実現は、インフラ、プラットフォーム、ビジネスネットワーク、アプリケーションという4つの領域で変革を進める。
まずインフラは、SAPによるホスティングあるいはパブリッククラウドを選択して、その上で「SAP S/4 HANA Cloud」を実装する。クライン氏は「SAPのデータセンターまたはクラウド事業者の上でワークロードを動かすことで、TCOを20%削減することも可能だ」と述べ、どのインフラを選んでもSAPに窓口を一本化できる点を強調した。
2つめのプラットフォームは、昨年の自社イベント「SAPPHIRE Now」で打ち出した「SAP Business Technology Platform」を指す。「SAPアプリを使い統合された単一のビジネスプロセス、単一のセマンティックデータモデル、単一の認証サービス、単一のUXを共有する」(クライン氏)。API Business Hubで提供する2100以上のAPIを使って、オンプレミスシステムやSAP以外のシステムとの統合ができる。
ここでセマンティックなデータレイヤーがもたらすのは、単なる統合メリットだけではない。SAPアプリの共通アナリティクスレイヤーと組み合わせることで、単一データソースに基づくリアルタイムの経営判断ができると説明する。
ビジネスネットワークでは、「SAP Business Network Starter Pack」をバンドルしており、SAP Aribaの購買/調達ネットワークにアクセスできる。「新型コロナでサプライチェーンは大きな変革を迫られた。SAPのBusiness Networkには200以上の国から500万以上の企業が参加しており、条件を満たすパートナーを探し、市場の変化に迅速に対応できる」(クライン氏)。
アプリケーション部分を担うSAP S/4 HANA Cloudについては、AI、RPA、高度なアナリティクスなどを組み込み、プロセスの標準化や簡素化を実現できる。
以上で説明した(1)~(3)のジャーニー全体を通して、SAPのアーキテクトが支援を行う。すでにシーメンス(Siemens)のような大手企業からベンチャー企業まで複数社がRISE with SAPを利用開始しており、中にはトランザクション処理を最大90%自動化できた事例もあるという。
さらにクライン氏は、RISE with SAPには顧客体験の向上やCO2排出削減といった機能も含まれると説明した。まず顧客体験では、2021年中にクアルトリクス(Qualtrics)の技術を30以上のソリューションに組み込むとも述べた。またクライン氏のCEO就任後、「Climate 21」として打ち出している地球気候変動への対策についても、「バリューチェーンを通じてCO2排出量を測定できる。最もCO2排出が多い10の産業だけでも、15%の削減が可能だ」と述べた。
こうした特徴に加わるのがコラボレーションの機能だ。ここではMicrosoftと提携し、Microsoft TeamsをS/4 HANAなどのソリューション、およびセールス、人事などのフロントソリューションに組み込む。
ゲスト出席したMicrosoft CEOのナデラ氏は、「両社は2019年からS/4 HANAとAzureで協業してきた。医療、小売、製造など、現在はあらゆる業界で変革が起きている。企業内のデータをつなげ、ワークフローで活用できる業務ソフトウェアが重要になる。Teamsの統合によって、さらなるイノベーションが生まれる」とコメントした。
クライン氏は、RISE with SAPについて「単なるサービスや機能の寄せ集めではない。SAPが単一の窓口となり、単一の契約、単一の価格で提供する」と説明し、一連のサービスを「ビジネストランスフォーメーション・アズ・ア・サービス」だと形容した。
「これまで、インテリジェントエンタープライズに至る道筋は明確に定義されていなかった。あらゆる企業のニーズに対して最適な道筋を示し、SAPが伴走する。あらゆる課題を一緒に乗り越え、ビジネスの再構築をともに行う。これにより(SAPのミッションである)世界をより良い場所に、人々の生活を豊かにできる」(クライン氏)