このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

音楽なのに耳を塞いで「ヤなことそっとミュート」する新感覚のスペシャルMVが楽しい

2020年12月07日 15時00分更新

文● 荒井敏郎 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

耳を塞いでヤなことを消そう
新しいミュージックビデオの開発秘話

 「ヤなことだらけの日常をそっとミュートしても何も解決しないんだけど、とりあえずロックサウンドに切ないメロディを乗せて歌ってみる事にする」をコンセプトに活動する、4人組アーティスト「ヤなことそっとミュート」。1度聞いたら忘れられないグループ名と美しい歌声で、今、着実に人気を集めているこのグループが、10月28日に発売したメジャー2ndシングル「フィラメント」に合わせて、新感覚のスペシャルMVを公開した(特設サイト)。

ヤなことそっとミュート

 本MVは、事前にファンから募集した「ヤなこと」(愚痴)でMVを埋めてしまうというもの。普通に再生すると、メンバーの音声とテキストで「ヤなこと」が流れており、フィラメントのMVを聴くことも見ることもできない。しかし、PCのカメラの前でそっと耳をふさぐと、「ヤなこと」がスーッと消えてMVがきちんと再生されるのだ(下記はノーマルのMV)。

 まさにグループ名を表現したかのような仕組みのスペシャルMV。今回、制作に至った経緯などについて、企画立案からシステムの構築までを担当した宮川 涼氏(monopo)を中心に、ヤなことそっとミュートプロデューサーの慎 秀範氏、制作を担当する北田 大氏を含め、話を聞いた。

フィラメントのMVの企画立案、システム構築などを担当した宮川 涼氏(monopo Creative Director/Front-End Engineer)

 また、ヤなことそっとミュートのメンバーにもインタビューを実施。スペシャルMVについて、新曲・フィラメントについて、4人に語ってもらった。

グループ名を打ち出す プロモーションとして始動

──まずは、今回のスペシャルMVを制作することになった経緯を教えてください。

北田 ヤなことそっとミュートは、その名前やコンセプト自体がロックの本質をついていると感じているんです。なので「こういう音楽をやっているので聴いてください」という音楽プロモーションよりも、「ヤなことそっとミュート」という名前自体で、なんとなく嗅覚が鋭い人は引っかかってくれるんじゃないかなというイメージがありまして、まずは世の中に名前自体を拡散させる戦略を考えたいなと。そこでインタラクティブな企画・制作をやられている宮川さんに相談した……というところからスタートしてます。

宮川 今回、ヤなことそっとミュートさんとのお仕事は初めてだったんですけど、今みたいな「お題」を北田さんからいただきまして、それを踏まえつつ、どんなことをしたらファンが楽しんでくれて音楽を広められるかと考えた結果、「ヤなことをそっとミュート」してMVが見られたら面白いというアイデアで固まった感じです。私は普段、デベロッパーもやっているので、開発者目線というかテクノロジーベースで企画を考えることが多いんですけど、メンバーのアーティスト写真などにある、手で耳をふさいでいる「ミュートポーズ」からヒントを得て、物理的に耳をふさぐことによって何かアクションが起きると面白い──となりました。技術検証から始めて、実現できそうだったので、今回のようなかたちに最終的に落ち着きました。

──開発にあたって、耳をふさぐポーズの認識などは難しくなかったですか?

宮川 フェイストラッキングをしつつ、手のトラッキングもできないと耳をふさぐポーズとして認識できないのですが、探してみた結果、実現できそうなライブラリを見つけました。すごく細かいんですけど、耳基準の目と反対側の点を中心に、耳と目の距離の1.5倍の円形エリアを作って、そのエリアに手首のポイントが入ったらミュートポーズと認識するという設定になりました。

特設サイトでMVを見る場合、ブラウザーにカメラの権限を付与する必要がある。カメラを起動させると画面左上に自分の状態が映る

──「手」ではなくて「手首」なんですね。

宮川 そうなんですよ。トラッキングできるのが手首なんです。手首だとミュートポーズをした時に耳よりちょっと下になるので、しきい値を作って調整して──という作業も必要でした。ただ、厳密にうまく認識できなくてちょっと難しくなっても、それ自体にゲーム性があって楽しいかなと考えました。Twitterとかでエゴサしてみると「難しい」っていう書き込みが結構あったんです。手を耳に近づけすぎると耳とかぶってしまって手首を認識しなくなってしまうんですよね。だからポイントは、耳を押さえつけるのではなく、優しくそっと手を添えるようにミュートすることです。

なでしこ

──細かいチューニングなど、テストに時間がかかりそうですね。

宮川 1秒間に何フレーム処理を走らせるのかという設定があるんですけど、細かくするとすぐに認識判定が外れてミュートしたりしなかったりの繰り返しになっちゃうので、すごく気持ち悪くなるんです。だから、その判定の頻度を下げたりとか、判定が外れてもすぐに戻ったらセーフにするとか、そういう微妙なパラメータを調整して、なるべくストレスなく体験できるようにはしています。パソコンの環境によると思うんですけど、動作が重くてうまく体験できないというのはもったいないので、そういった負荷の部分に関しても細かく検証しました。ただ、技術的にはシンプルで、手と耳が近づいたら邪魔な「ヤなこと」の音声と文字の弾幕が消えるというものです。そして、この流す「ヤなこと」も事前に「#ヤなことそっとミュートしたい」っていうハッシュタグでファンの方から集めたものになっています。ファンとのコミュニケーションという部分でも、きれいにまとめられたと思います。

手を耳につけないと音楽が小さくなり、弾幕(流れる文字)が増えてくる

──弾幕のように流れる音声と文字ですが、どのくらいの頻度になっているんですか?

宮川 細かくいうと、メンバーひとりずつ20個の言葉をしゃべってもらっていて、20個×4人なので80個は固定のタイミングで流れるんですけど、そのほかの言葉に関しては、サイズや出現場所など全部ランダムで流れてくるイメージです。トータルで200個くらいの言葉が出現します。

──プラットフォームの違いでの問題点はありましたか?

宮川 MacとWindowsといったOSやPCの違いによる問題はなかったんですけど、スマホが画角的に難しく……。トラッキングの認識機能は問題なく動作するんですが、自撮りしたときに手までうまく入らないんですよ。なので、推奨環境はPCに限定しています。ただ、テストはしていなかったんですけど、iPadは画角が広いので動作するそうです。ハード的にインカメラがついていて、ブラウザーが動けば大丈夫というイメージですね。Google Chromeが優秀なので推奨していますが、それ以外のブラウザーでも一応体験はできるような状態です。ただ、自分のうしろにもうひとり人がいると、そっちの人にもトラッキングが入ってしまってうまくいかないことはあります。あと、カメラの画角は正面を意識しているので、たとえばサブディスプレーを使っていて、カメラ位置が横からとかになると正面に移動してもらう必要はあるかなと思います。

1分20秒を完走できるか!? ちゃんとミュートポーズが認識されていれば音楽が聴けるが、認識されないと文字がどんどん増えてきて見えなくなる

──メンバーさんやファンの方の反応はいかがでしょうか?

宮川 こういう企画を出したときは、ずっとSNSでエゴサをするんです。ファンが喜んでいる書き込みとか、うまくできた・できてないとかを見るのがとても好きなんですけど、今回でいうと「自分が投稿した言葉が使われていた」って喜んでくれているものがありましたね。あと、メンバーが楽屋でスペシャルMVを見ている映像があって、間宮まにさんが実際にミュートポーズをやってくれているんですけど「うまくできない」ってめっちゃ言ってて……。そこうまくできている感じにしてくれよと(笑)。個人的にこういった企画のときのゲーム性とかマルチエンディングみたいなものが割と好きで、今回は1分20秒間で1度もミュートできなかったら違うエンディングが見られるようになっているんです。めちゃくちゃ弾幕が載っていて、ちゃんと見ることができないアー写が表示されます。エゴサでも、そこに言及しているつぶやきがあんまりなかったので、つっこんでほしかったなとは思いました。

間宮まに

──開発者目線での「ここを見てほしい」といったポイントはありますか?

宮川 今回、画面の左上に開発画面っぽいカメラトラッキングが表示されて、目とか手首がトラッキングされている状態の画像を出しているんです。あえてそのまま出したっていうのが、個人的にはポイントになっています。判定して認識したときに色が変わるので、それで「今合ってる」とか「今合ってない」とかがわかりますし、そういったテクノロジーっぽいところも触れてもらいたかったので、あえて残しています。あと、最後ギリギリに入れたのがプログレスバーです。画面のいちばん上に青いラインが出て時間経過を表しているんですけど、1分20秒で端までいくようになっています。この体験がいつ終わるのか、もうちょっと明示的にあったほうがいいなと思ったので最終的に入れて体験をよりわかりやすくしました。

──プレイするユーザーというか、ファンの方がどうしたら楽しめるかという目的が随所に現れているなと思います。

宮川 まさにそれを意識しています。実際、ファンが悲しむ企画ってたまにあるんですよね。ぼくもアイドルファンだったりとか、バンドが好きだったりするので「このアイドルがこのコンテンツでこんな企画になっちゃったんだ……」というものが結構散見されていて悲しかったりします。ファンが喜ぶというか「この運営推せる」と思ってもらえるというか、そういうのは意識しています。

南 一花

──運営側からとしてはいかがですか?

北田 ミュージックビデオを見るために、ヤなことそっとミュートのメンバーと同じミュートポーズをしてもらう、というところがグッときますよね。いまのこのコロナ情勢で、ライブなどファンと一緒に共有体験を創出することが難しいタイミングでも、こうやって企画次第でファンと一緒に想いを共有できる時間を生み出すことができる、そんなことをあらためて感じさせてくれた企画だったと思っています。新曲・フィラメントのジャケットデザインにおいても同じで、アートディレクターのquia松田さんから「もし、人が入ることができるくらいの大きな電球を作ることができたら……」という夢のような企画をいただいたんです。当然、僕らは「本当にそんなことできるのかな?」って、その瞬間は半信半疑なのですけども。そんな夢のようなアイデアを、提案して実現できるテクニックって、このようなご時世において本当に必要なクリエイティブだと思いますし、そういう誰もが心躍らされる夢をファンに向けて打ち出していくことって、いつの時代もですがエンターテイナーにとって非常に重要な活動なんだろうなと、あらためて感じています。今回の企画もそうです。まさか自分自身のミュートポーズという行動が、MVを観れる要素になるなんて思わないですよね?(笑)

──音楽のミュージックビデオなのに、耳をふさぐっていうのは本当に斬新ですよね。

宮川 音も聴かせないし映像も見せないし、聴こうとすると耳をふさぐっていうのはいろんな矛盾があったんですけど、ヤなことそっとミュートのコンセプトの「そっとミュートしても何も解決しない」みたいな、何かはらんでいる匂いみたいなものが合いそうだなと思い、いろんな矛盾を無視して提案しました。

凛 つかさ

北田 ミュートポーズをすることで、なんだかメンバーと繋がれる気持ちになるという……。

宮川 まさにですね。なかなか日常でこのポーズはしないですからね。アー写で目にしたりグループ名であったりと、ファンの方は目にしているものではありますから「実際にやってみようよ」「その動作してみようよ」というのは提案できたのかなと。また、適当な言葉を弾幕にして流してもよかったんですけど、Twitterで事前にみんなから集めたことで、ライブができない中でも双方向のものが作れたのもよかったですね。

──ありがとうございました。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン