ファッションから金融まで「倫理的な考え方」が次のキーワードに
知ってた?「エシカルな行動」が地球の未来を変える
エシカルと日本人は親和性が高い
―― エシカルについてのお話をお伺いしていると、「ていねいな暮らし」というムーブメント――無駄なものを減らしたり、使えるものは修繕して使おう――と近いところがあるように感じます。
末吉 そうですね。ていねいな暮らしのなかには、おたがいさま、思いやり、足るを知る、もったいない、お天道様が見てるとか、そういう考えが入ってると思います。
―― 日本人には昔から周りと共存することを大切に思う心があると思いますので、もしかしてエシカルとの親和性は高い?
末吉 はい。私たちエシカル協会は、日本人こそエシカルの価値観で世界をリードできる国民じゃないかと思っています。自分だけの暮らしをていねいにするのではなく、「見えないところで私たちの暮らしはどう地球や他の生き物、世界の人たちやとつながっているか」という想像力も持ってほしいです。私たちの協会では、エシカルのことを「エいきょうを シっかりと カんがえル」と伝えています。
「農薬使用の地産地消」と「無農薬だが配送でCO2大量放出」
どちらがよりエシカルなのか?
末吉 エシカル消費は、「環境への配慮」「人・社会への配慮」「地域への配慮」と多岐にわたるので、じつはさまざまな消費の形があります。
フェアトレードはエシカル消費の筆頭とも言えますが、農薬や化学肥料を使わずに作られるオーガニックの製品、再生可能エネルギー、動物に配慮した動物福祉の製品、また地産地消や伝統工芸もエシカル消費ですし、被災した地域の人が作ったものを、異なる地域の人たちが買い支える応援消費もエシカル消費の1つです。
―― 肩ひじ張らずにできそうなこともエシカル消費に含まれるのですね。
末吉 本当にさまざまで、皆さんそれぞれが思いつくエシカル消費の形があるはずなので、唯一の正解はありません。それどころか、1つのものを手にとったときに、一面から見るとエシカルだけど、別の一面ではそうでないものもあって、悩むかもしれません。
たとえば、農薬や化学肥料を使った地産地消の農作物と、無農薬だけれどもCO2を排出してフードマイレージがかかる農作物は、どちらがエシカルなんですか、と聞かれることもあります。
―― ああ、それは難しいですね!
末吉 ライフサイクル・アセスメントみたいな形で、その商品が生まれるところから消費者の手元に届くまでの環境負荷が定量的にわかれば、比べることができるかもしれません。ですが、今は難しいでしょう。ですから、それぞれが置かれた立場で最善だと思うものを選んでいくしかないのです。
テクノロジーが後押しするエシカル消費
―― 日本でも、ブロックチェーンを使って自然生態系配慮農法でどのように育てられたのかわかる仕組みを作り、農法に賛同する人たちが選んで買えるようにするという実証実験が行われたことがあります。エシカル消費に関してテクノロジーはどんなサポートできるのでしょうか?
大久保 エシカル消費が今後日本で拡大していくためには、テクノロジーの活用は非常に重要だと考えています。まず、消費者が購入する商品をエシカルにしていく、という観点ではテクノロジーが果たす役割は大きく、先進的な企業も増えています。たとえばウミトロンさんというスタートアップは、養殖の魚をより環境に配慮した方法で、しかも漁師さんに負担がかからないよう育てていくためにIoTを活用する試みを始めています。
これまでは漁師さんが自分たちの勘をもとに餌をあげるしかなかったので、不必要な分の撒き餌が海底に沈殿して環境負荷につながるという問題がありました。そこでウミトロンさんは、魚がどれくらい食べているのかモニタリングするスマート給餌機を開発し、魚が餌を欲しがっているときに必要な分だけあげることができる仕組みを作りました。結果、環境負荷を減らしつつ漁師さんの負荷も軽減でき、魚自体も今までより早く大きくなるので、付加価値を上げた形で出荷できるというメリットまで生じたとのことです。
―― 一次産業ではIoTが活躍できる部分が多いですね。ドローンを使って農薬散布や生育状況をモニタリングできるので、環境にも優しく早く育てることができると聞きます。
大久保 また、商品の背景がわからないことも課題の1つだと私たちは考えており、テクノロジーが活用されることで、今まで消費者が見えなかった背景が見える化されることを期待しています。最近では、消費者がエシカルだと思って買った物がじつはそうではなかった、というケースが問題となっています。
たとえば、私たちが使っているスマホや電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池にはコバルトが使われています。これらの製品を販売するグーグル、アップル、テスラなどが2019年にアメリカのNPO団体に訴えられました。これらの企業の製品に使用されていたコバルトが、アフリカのコンゴのコバルト鉱山における違法な児童労働由来のものだったことが判明したからです。
非常に示唆的なのは、それらの企業はまさに児童労働や強制労働をサプライチェーンから撤廃する動きを進めてるところだったことです。つまり、サプライチェーンが複雑になり過ぎてメーカーにも追いきれなかったのです。メーカーも把握できていないことは、もちろん消費者も把握できず、商品背景の見える化の重要性が増しています。ですので、先ほどお伝えしたように、ブロックチェーンを活用した見える化には可能性を感じます。
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