ファッションから金融まで「倫理的な考え方」が次のキーワードに
知ってた?「エシカルな行動」が地球の未来を変える
今「倫理的に考えること」が重要な理由
エシカルという言葉を聞いたことがあるだろうか? エシカル(ethical)とは、「倫理的な」という意味を持つ形容詞であり、法律などの縛りがなくても、多くの人が正しいと思っていることを示す。
近年、英語圏を中心に倫理的な活動を「エシカル●●」と表現するようになっており、日本でもエシカル消費やエシカル金融などの言葉を耳にすることが増えてきた。エシカルという考え方は、SDGs(持続可能な開発目標)と通じる部分も多く、これからの社会を考える際、重要な要素となることは間違いない。
そこで今回は、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏、そして同協会理事兼オウルズコンサルティンググループの大久保明日奈氏、そしてエシカルな行動促進のためのTech社会実装を研究している鈴木淳一氏(電通グループ)のお三方に、日本におけるエシカルの現状や課題、エシカル協会が目指すことなどについて詳しく伺った。
キリマンジャロの氷河を目撃して人生が変わってしまった
―― エシカルとの出会い、そしてエシカル協会を作った経緯について教えてください。
末吉 私は以前、「世界ふしぎ発見!」というテレビ番組のレポーターを務めていたこともあり、プライベートを含めて世界80ヵ国くらいを旅しました。いわゆる秘境といわれるような国が多かったのですが、一握りの人たちの権力や利益のために、美しい自然や立場の弱い人たちが犠牲になっていると自分なりに思いました。なかでも人生のターニングポイントになったのが、タンザニアでアフリカ最高峰のキリマンジャロに登頂したときのことです。
キリマンジャロの頂上には氷河が横たわっているのですが、その氷河は2010年から2020年の間に地球温暖化で完全に溶けてしまうだろうという科学者による発表があったので、「どのくらい溶けているのか、上まで登って見に行こう」という取材でした。
私が登ったのは2004年ですが、標高1900m地点で暮らす子どもたちが通う小学校を訪ねたら、小さな子どもたちが木を植えていたんです。しかも、「どうか氷河がまた大きくなりますように」と祈っているんです。というのも、彼らは氷河の雪解け水の一部を生活用水として使っているから。
―― 氷河の消失は彼らにとって死活問題なんですね。
末吉 「私たちはあんなに高い山登れないから、お姉ちゃん代わりに行って、現状を見てきて」と背中を押されて上まで登ったら、そこで目の当たりにした光景がものすごくショックで。資料で見たかつての氷河と比べると大きく減退していて、残されていた氷河はすでに1割から2割程度だったんです。
私はそれを見て決心しました。『ライフワークとして、こういうことが世界で起きているということを、日本の人たちにただ伝えるだけじゃなく、解決するような活動を始めよう』と。ですが日本に戻って活動を始めたものの、私一人のちっぽけな力で続けても解決にはほど遠いのではとモヤモヤした時期がありました。そのときに出会ったのがフェアトレードです。
エシカルは最初、ファッション用語として日本に上陸した
―― フェアトレードとは?
末吉 「途上国で生産しているものを先進国の人たちが適正な価格で購入することで、途上国の生産者の生活を向上させる力になれる」というものです。つまり、日本にいながら買い物という日常生活を通じて世界が抱えている問題を解決できる。これは素晴らしいなと。
そこで2010年に、フェアトレードの案内人を全国各地に生みたいという想いから「フェアトレード・コンシェルジュ講座」を自分で始めました。この講座を開催するなかで、多くの人たちが私と同じようにフェアトレードに興味を持ち、実践する様子を目の当たりにしました。
一方、2008年頃にフェアトレードも含む、幅の広い消費のあり方として「エシカル」という言葉が日本に上陸しました。ちなみに最初は「エシカルファッション」という、ファッション用語として上陸したんです。
私は『日本にもっと広く浸透させるために、フェアトレードも含むエシカル消費を普及していきたい』と思い、フェアトレード・コンシェルジュ講座の第1期生2人とエシカル協会を2015年に立ち上げました。
―― キリマンジャロの氷河目撃から11年目にして、想いが形になったのですね。
末吉 エシカル協会の使命は「エシカルの本質について自ら考え、行動し、変化を起こす人々を育む。そうした人々と共に、エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界を実現する」であり、変化を起こす人々というのは、まさにコンシェルジュたちのことでもあります。エシカル協会を立ち上げてからは、エシカル・コンシェルジュ講座という名前に変えて、協会の主な事業として続けています。
大久保 私の「エシカル」への興味は「人権」からスタートしました。昔から途上国や開発経済に関心があり、社会人になって数年働いた後にロンドンの大学院で都市開発経済学――先進国・途上国問わない、都市における経済発展とそれに伴って生じる貧困、人種や国籍に関わる課題の潮流と解決の方向性を考える学問――を専攻しました。
たとえば、過去は貧しい地域であったイースト・ロンドンでは再開発が進み、金融機関のオフィスや新しいレストランが開店するなど、地域としては経済的に潤っています。一方、家賃の高騰により昔から住んでいた貧しい人たちはその地域から引っ越さざるを得ず、残った人々にとっても大事なコミュニティーがなくなってしまうといったことが起きています。また、ペルーのアマゾン川流域の町に1ヵ月滞在し、一見するとポジティブな地域経済の発展によってもたらされる教育や就業機会の格差、伝統的な文化の消失などを目の当たりにしました。
この2つの経験は、経済成長が善だと考えていた自分にとっては大きな衝撃で、豊かな生活の陰に隠れてしまっている貧困や格差などに思いを馳せるようになりました。帰国後、ビジネスコンサルタントとして働くなか、仕事上のご縁でエシカル協会に出会い、協会の活動に強く共感し、本業と並行する形でコンサルタントとして関わるようになりました。消費者・企業人として自分の行動がもたらす影響を考える、というエシカルの理念が、自分が留学中に感じた衝撃とリンクしたのだと思います。
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