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日本で求められるのはオフィスとリモートワークの「ハイブリッド」

これだけ違う世界のリモートワークの現状と課題 アトラシアンが調査を披露

2020年10月26日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2020年10月22日、ソフトウェア開発やコラボレーションのツールを提供するアトラシアンは、日本を含む海外の主要5カ国においてリモートワークについての調査レポートを披露。各国で異なるリモートワークの現状と課題が浮き彫りになった。

アトラシアン ワークフューチャリスト ドミニク・プライス氏

調査で浮き上がる5カ国のリモートワークの現状と課題

 JIRA SoftwareやConfluence、Trelloなどのツールでおなじみのアトラシアン。登壇したドミニク・プライス氏は「ワークフューチャリスト」という役職で、全世界で5000人におよぶアトラシアンのメンバーの働き方を設計している。

 アトラシアンもコロナ禍を経て、一斉にリモートワークに移行したIT企業だが、以前から自宅から働くという選択肢もあったため、比較的スムーズに移行できたという。自社のツールはもちろん、SlackやZoomを活用し、効率的なチームワークを実現してきた。「5000人のメンバーは5000カ所から仕事することになったが、もともとチームワークにフォーカスしていたし、ワークプレイスの3位は自宅だった。チームメンバーに働く場所の選択肢を与えるのがポイントだ」とプライス氏は語る。

 今回発表されたリモートワークに関する調査レポート(「働くを再創造する『どこでも働ける勤務形態』を考える(Reworking Work: Understanding The Rise of Work Anywhere)」では、北米、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本の5カ国の企業に勤めている5000名以上で働き方を調べたもの。インタビューに加え、2週間の日記、そして定量調査という3つの手法で行なわれているという。

アトラシアンによるリモートワークに関する調査

 プライス氏曰く、リモートワークの経験は世帯の複雑さ(夫婦/子育てや介護の有無)、役割の複雑さ(チームワーク/個人仕事)、ネットワークの質(同僚との関係/社外やコミュニティとの付き合い)という3つの要素にマッピングされるという。リモートワーク全体像を理解するには、これら3つの要素を並べた上で確認することが重要になるという。

 調査ではリモートワークに関する従業員の意識や働く場所としての自宅、企業文化などが各国で大きく異なっていることが浮き彫りになっている。たとえば、ドイツは勤務時間の柔軟性があると答えた人が63%もおり、グローバルの47%より高い。また、フランスはリモートワークに問題がなかったと答える人は36%しかおらず、グローバルの53%よりも低い。さらに北米ではオフィスに戻るのに不安を抱える人が63%にのぼっており、戻りたいと答えた人は12%に過ぎないという(グローバルでは53%)。

リモートワークが苦手な日本ではハイブリッドなワークスタイルが重要

 日本のリモートワークは関しては課題が山積みだ。「リーダーシップ」「ワークライフバランス」「チームワーク」の満足度を調べてみると、5カ国の中でもっとも低い。回答者の44%が自宅で効率的に仕事するのは難しいと答えており、グローバル平均の27%よりもはるかに高い。また、リモートワークでのチーム作業が非効率になっていると答える人も23%にのぼっており、チームコラボレーションがうまく機能していると答えたのはわず17%しかいないという(グローバルは40%)。

 日本法人の代表取締役社長 スチュアート・ハリントン氏は、「日本はリモートワークをまったくやったことない状況から、リモートワークしかない状態にいきなり放り込まれた。企業も準備がなかったし、従業員も自宅でパフォーマンスを上げるのはとても困難だった」と指摘する。

アトラシアン 代表取締役社長 スチュアート・ハリントン氏

 ハリントン氏は、日本企業の課題として「紙や印鑑が多く、オペレーションの旧来のまま」「利用しているテクノロジーも時代遅れ」「出社が評価されるような古い企業文化」「リモートワークに向かない自宅の住環境」などを列挙。「テレワーク化することで、自宅での仕事がシャドーワークやサービス残業にすり替わっている。効率的に働いているように見せかけている例もあるようだ」と指摘する。

 リモートワークに満足度が低い日本では、回答者の56%がオフィスとリモートワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」がよいと考えているという。「これは49%がフルリモートワークを希望する北米よりも高い。日本では引き続きオフィスが重要な役割を果たす」とハリントン氏は語る。

 こうしたハイブリッドな働き方で重要になるのが、アトラシアンが展開するJIRA SoftwareやConfluence、Trelloなどのコラボレーションツールだ。ハリントン氏は、「まずはデジタル化を進め、その上でリモートワークを推進する。当社はチームの可能性を解き放つをミッションにチームのコラボレーションと生産性を向上を高めるソフトウェアを提供している」と語る。緊急事態宣言以降、エントリレベルを無償化したことで製品の導入は前年度比150%増で成長しているとのこと。ハリントン氏は、「チーム全体がコラボレーションするためにはITツールが役立つはず。ソフトウェアで組織の壁や天井が取り払える」とアピールする。

雑談は難しい その事実を受け入れ、次の働き方にわくわくする

 興味深いのは質疑応答だった。リモートワークでオフィスのような雑談を補えるのかという質問に対し、プライス氏は「今は雑談は難しい。まずは、この事実を受け入れる」と断言。その上で、「次の働き方に創意工夫を巡らせることに対して、わくわくすることが重要。従来のような雑談はできなくなるかもしれないけど、もっと新しい形で、世界中の仲間とつながる方法はないか、アトラシアンでも模索している」という。

 プライス氏は、「人間は社交性のある生き物。人とのつながりはこれからも重要」と語り、いろいろな施策を試す。先日はアトラシアンのエグゼクティブチームでは、Zoomのペインティング機能を使ったお絵かき飲み会を企画したが、「絵は下手くそ。ソフトウェアを作っているほうがずっとましなことがわかった(笑)」という。

 もう1つの質問は、今回の調査ではオーストラリアでのリモートワークの満足度が突出して高かった理由。前述した「リーダーシップ」「ワークライフバランス」「チームワーク」の満足度はオーストアリアは他国と比べても高い。これはなぜか?

リモートワークに関する満足度はオーストアリアが突出して高い

 プライス氏は、「統計を見ると、オーストリア人の75%は、在宅勤務ができないことに元々不満を抱えていた。しかも、あれだけ広大な国土に2200万人しか住んでいないので、もともと拠点が分散している」と指摘する。また、地理的にも北米や欧州、アジアと離れているため、リモートワーク慣れしており、リーダーシップもリモート前提で経験を抱えていた。「これからもっとリモートワークが得意になると思う」とプライス氏は語る。

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