このページの本文へ

オンラインで3週間に渡って開催されたAWS Summit Onlineの基調講演

「今こそ学び、作るとき」 AWSボーガスCTOがビルダーに向けてメッセージ

2020年10月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

こんな時代からこそ基礎的な設計とスキルが重要

 続いてはAmazon 最高技術責任者 (CTO)のヴァーナー・ボーガス (Werner Vogels) 氏がアムステルダムにある自宅スタジオで録画した講演が披露された。ボーガス氏は、パンデミックで世界中が大きな変化を遂げる中で、ヒントとなるトピックをいくつか披露した。

Amazon 最高技術責任者 (CTO) ヴァーナー・ボーガス氏

 1つめは変化する時代だからこその設計の重要さだ。近年、AWSは開発者やエンジニアを「ビルダー」と総称しているが、ボーガス氏は、システムにおいても建築と同じく強固な基盤が必要であり、安定・安全・効率的なシステムを作るためには最初から正しいアーキテクチャで設計することが重要だと説く。

 こうした正しい設計のためにAWSが過去14年間培ってきたノウハウをフレームワーク化したのが「Well-Architected Framework」になる。洗練された運用、セキュリティ、耐障害性、パフォーマンス・効率性、コストの最適化という5つの柱から構成されるWell-Architected Frameworkを使うことで、ユーザーは実証済みのアプローチを使いつつ、独自のサービスを構築できる。

 Well-Architected Frameworkは詳細なホワイトペーパーが提供されているほか、最近ではHPC、サーバーレス、IoTなど特定のテクノロジーに焦点を当てたガイダンスとベストプラクティスからなる「レンズ」という概念が導入されている。また、時系列でユーザーのアーキテクチャを比較できるAWS Well-Architected Toolや記事や動画で構成されたAWS Bulders's Libraryなども用意されている。ボーガス氏は、企業はサブシステムを刷新するチャンスであり、個人が学習の機会だと主張する。「ぜひ基本に立ち返るために、これらを活用してほしい」と語る。

 2つめのトピックはストリーミングサービスというテーマだ。コロナ渦の中、全世界でストリーミングサービスの需要が激増しており、調査会社によると2020年には世界中で40%増加したと言われている。また、米国ではストリーミングのトラフィックが昨年に比べて倍増し、3月30日の週には1614億分が視聴され、昨年には700億分増加したという。AWSは多くのプロバイダーにおいて、これらのストリーミングコンテンツの配信を支えている。

米国ではストリーミングサービスの需要が急増

 ここで重要になるのは、リクエストに応じてスケールアウトやスケールダウンを可能にする「AutoScaling」のような基本的な技術だ。「ニーズの急増に対応しながら、不要なときは実行しないで済むため、コストの最適化が実現する」とボーガス氏は語る。最近では、既存のトラフィックデータを機械学習で分析し、将来のトラフィックを予測する機能が実装されており、今も進化は止まらない。こうしたAutoScalingを活用することで、ユーザーは必要なタイミングでロードバランサーを介して、インスタンスを増減できる。また、DNSサービスのRoute53やCDNサービスのCloudFront、Amazon S3を用いて、ユーザーにもっとも近いリージョンにコンテンツを配したり、アプリケーションの負荷を分散することが可能だ。

 AWSが提供する機能としては、もはや「古典的」とも言えるAutoScalingの話をボーガス氏が改めてしたのは、やはり基本的な概念とスキルが設計の重要さを理解してもらうため。「どんなお客さまでもスケーリング機能があるなら、ビジネスのコストとスケールを管理できるようになる。こうした基礎的な技術が信頼できるシステムや優れたテクノロジーを生み出す助けとなる」とボーガス氏は語る。

 ボーガス氏は、ストリーミング配信されるコンテンツの製作にも目を向ける。われわれがストリーミングで楽しんでいる映画やTV番組は平均で18ヶ月のサイクルで製作され、その間で膨大なデータがやりとりされる。30秒のCMでも扱うのは10TB近くになり、映画やドラマになると数ペタバイトにおよぶこともある。コンテンツ製作の現場では、これら膨大なデータを転送、処理、活用し、しかも知財としてのセキュリティを確保する必要がある。

 そして、これらコンテンツ製作のワークフローにおける課題は、他の業界でも共通に見られるとボーガス氏は指摘する。コンテンツ製作には数多くの製作スタジオが関わっているが、従来は物理オフィスにしばられていたため、コンテンツを別のスタジオに転送したり、郵送しなければならなかった。この課題は、単にコミュニケーションや共同編集ツールだけでは解決できず、共通のアセットを誰もが適切にアクセスできなければならない。「どの業界でも、企業内だけでなく、他の団体や組織とも連携できる真のビジネスコラボレーションが必要」とボーガス氏は語る。

 さらにコンテンツ製作は、ソフトウェア開発にも類似性が見られるとボーガス氏は指摘する。企画、プリ・ポストプロダクション、品質管理、ローカライズ、マスタリング、デリバリなどのステップを踏みながら、編集とフィニッシングのパイプラインが同時進行され、全体がメディアアセット資産として管理される。これらをソースコード管理やCI/CDに見立てると、コンテンツ製作とソフトウェア開発のパイプラインは非常に類似しており、ポストプロダクションのワークフローもAWSにおけるソフトウェア開発に近いボーガス氏は語る。

コンテンツ製作はソフトウェア開発と似ている

 さまざまな組織や人がアクセスする共通アセットプールは、コンテンツ業界では「コンテンツレイク」と呼ばれ、ソフトウェア業界の「データレイク」に近い。AWSであれば、Amazon S3にコンテンツを溜め、ローカルストレージにAWS Snowballを使用し、コンテンツを迅速に共有するといった使い方になるだろう。両者とも必要に応じてスケールし、ユーザーやコンテンツの種別、時間帯ごとに適切にアクセスコントロールされなければならない点も同じ。コロナ渦の中、多くの関係者がリモートで効率よく共同作業するためには、こうしたセキュアでスケール可能なデジタルアセット管理が必要になるというわけだ。

 実際に、コンテンツ製作のワークフローとデジタルアセットの管理をすべてAWSで実現したのが新興のデジタルスタジオであるUntold Studiosだ。ビデオに登壇した担当者は「明日、大型案件が来ても、その場でストレージをスケールできる。スケール完了までのスピードは驚異的だ。すべてクラウドのおかげ」と語る。

 スタートアップやエンタープライズ企業であれ、すでにAWSを用いている企業であれ、どの業界でも人とプロセス、ワークロードが相互依存している。また、クラウドにおける成功とは、テクノロジーのみならず文化が重要で、共通の目的に向かったチームによってなしえる。これがボーガス氏のセッションの大きなテーマだという。「この数ヶ月でテクノロジーの新たな時代に突入したと確信している。根本的なものが変わろうとしている。テクノロジーそのものへの見方だけではなく、そのテクノロジーを利用する方法、そのテクノロジーを構築する方法が変わる。AWSが支えるのは、そのような変化」とボーガス氏は語る。

カテゴリートップへ