評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
『John Williams in Vienna』
Anne-Sophie Mutter、Wiener Philharmoniker、John Williams
ジョン・ウィリアムズとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は初顔合わせ。あのウィーン・フィルがスター・ウォーズ!という意外性が愉しい。ムジークフェライン・ザールで、2020年1月に録音と、コロナ禍直前の滑り込みライブだった。
「スター・ウォーズ」は映画サウンドトラックのロンドン交響楽団バージョンが有名だが、さすがはウィーン・フィル。柔らかく、しなやかで、艶に満ちたサウンドだ。ハリウッド流の華やかさと、ヨーロッパの伝統が重なった音調。ウィーン・フィルの起用は、大いなる成功を収めている。ムジークフェライン・ザールの豊かなソノリティとウィーン・フィルのグロッシーさが相俟って、映画音楽に深い意味合いを与えている。「13.Raider's March」の冒頭のトランペットはマーラーやブルックナーなどの後期ロマン派の音がする。版元資料に面白い話があったので、そのまま紹介しよう。
リハーサル中にもう一つの嬉しい驚きがありました。ウィーン・フィルの金管楽器奏者たちが、スター・ウォーズの「帝国のマーチ」をプログラムに追加できないかと尋ねてきたのです。「正直言って、これまで聴いた“帝国のマーチ”の中で最高の演奏のひとつでしたよ」とウィリアムズは振り返った。「彼らは、まるで自分たちの作品を演奏するように演奏しました。プログラムの最後に演奏する機会を与えてくれたことにとても感謝しています」。2020年1月18~19日、ウィーン、ムジークフェライン・ザールで録音。
FLAC:96kHz/24bit、MQA96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music
e-onkyo musicに、Taylor Swiftレーベルから、事前予告なく突然送られてきた、サプライズリリース。コロナ禍期間にリモートで曲を作り、レコーディングも行った、テイラー・スウィフトの心からの「今」を思う叫びが、ストレートに伝わってくる、まさに自粛期間が生んだ名アルバムだ。音楽、歌詞もそうだが、オーディオ的にも大きな音像で、明解な音像を描き、歌詞の内容を明瞭な形で伝える音作りが、アルバムのコンセプトに合う。ボーカルは感情的だが、発音が微細な部分まで精確なので、この内容はぜひ伝えたいという心からのメッセージが聴ける、魅力的な音調だ。大きな音像だから、それが可能になったというミキシングの技にも注目したい。
FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Taylor Swift、e-onkyo music
『三善 晃:「唱歌の四季」、高田 三郎:「水のいのち」、上田 真樹:「夢の意味」、石井 歓:「風紋」』
飯森範親, 東京混声合唱団、東京交響楽団
「混声合唱とオーケストラ」で唱歌を歌うという贅沢なアルバムだ。そもそもオーケストラ用に書かれていない唱歌を、大合唱と大オーケストラで聴くという体験はなかなか貴重だ。ピアノ伴奏にて軽く歌われる唱歌が、ここまでシンフォニックに、そして大スケールに変わるかと驚かされる。高田三郎の編曲の技は鮮やか。合唱もオーケストラも音的にはクリヤーで、各声部が明瞭。「5. 夕焼小焼」での無伴奏で始まり、大合唱、大オーケストラに発展する編曲は素晴らしい。夕焼けの光景が目に浮かぶ。2012年3月28日、東京オペラシティ・コンサートホールにてDSD 2.8MHzでライブ収録。エンジニアは高名な江崎友淑氏。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music
『ヨハン・セバスティアン・バッハ:無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ(全6曲)』
ユリア・フィッシャー
実にみずみずしい音だ。直接的にも、間接的にもひじょうに音の情報量が多い。ユリア・フィッシャーの細かなアーティキュレーションや、指遣いがクリヤーに分かるだけでなく、会場の響きがいかに音楽を豊潤にしているかも体験できる。教会での録音であり響きの量、質ともにクオリティが高い。発せられた音の粒が、音場空間を豊かに飛翔するさまは、まさに音のドキュメンタリーのように聴ける。
音のキャラクターはPENTATONE調。粒立ちが細かく、ワイドレンジにして、しっとりとした味わいを持ち、音場情報が豊潤だ。潤いと暖かさが感じられ、緻密で音色感の豊かなサウンドだ。発音がひじょうに明晰なので、単一楽器での対位法が音の教科書のようにクリヤーにわかる。近接収録的な音像の明瞭さ、微視的な情報性、輪郭の確実さと、ソノリティの豊かさが高い次元でバランスしている。PENTATONEからCDデビューした同年の2004年12月、オランダのドープスヘヅィンデ教会で録音。
FLAC:96kHz/24bit、DSF:2.8MHz/1bit
PENTATONE、e-onkyo music
これまではインディーズからリリースされていたアフリカ系の女性サックス奏者/コンポーザー、ヌバイア・ガルシアが、名門コンコードと契約した。サウスロンドンのジャズコミュニティが注目する新世代のジャズミュージシャンだ。ウッドベースの偉容な低音と、煌めくピアノに導かれ、堂々たる脂っこいサックスが主役を張る。ひじょうにパワフルで、太く、剛性が強く、押し出しの効いたハードサウンドだ。音のクオリティもひじょうに高く、サックスの密度感、高音のカラフルな燦めき、地を這うような低音の量感……と、オーディオ的にも聴きどころは多い。サツクスの口から吹き出される空気の速度の速さにも驚く。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Concord Jazz、e-onkyo music
『メンデルスゾーン&ブラームス: ピアノ三重奏曲第1番』
椿三重奏団、高橋多佳子、礒絵里子、新倉瞳
深く、色彩的なメンデルスゾーンだ。ソノリティも豊かで、音色感情報も多い。音場は広いが音像的には、三つの楽器をセンター付近に配置している。個個の楽器の輪郭も明瞭だ。ブラームスでは渋く、音像もメンデルスゾーンほどは立てずに、楽器群の融合を狙っているようだ。「11.モンティ: チャルダーシュ」は各楽器のフューチャー感が強い。本作品を制作したアールアンフィニ(フランス語で「永遠の芸術」の意味)・レーベルは、ソニー・ミュージックにいた武藤敏樹氏が設立したクラシック専門レーベル。スイス・マージングテクノロジー社のDAW、PyramixにてDSD11.2MHz、DXDフォーマットで録音する。武藤氏の音楽への情熱、こだわりはソニー時代から識っていたから、彼のプロデュースには大いに注目している。本アルバムは演奏、音質共に傑作ハイレゾだ。
FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
ART INFINI、e-onkyo music
パットメセニーが「私が生涯見た中で、最高のギタリスト」と評するニューヨークで活躍中のイタリア系ギタリスト、パスカル・グラッソ。睥睨するように、音場のセンターに大きな音像が定位する。エレクトリックギターの音の艶やかさ、クリヤーに伸びた音調、旋律の中に和声も偲ばせるテクニックはソロギターの定番だが、高品位な録音により、旋律の流れだけでなく、そこにハーモニーを加えるテクニックの微細な部分まで明瞭に聴ける。低音部のキレの良いスケール感、中音部の艶と麗しいギターサウンドが魅力だ。「5.Confirmation」の低音感と、和音の重奏感も聴きどころだ。
FLAC:96kHz/24bit
Masterworks、e-onkyo music
『Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”』
久石 譲, 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
久石譲の組曲「World Dreams」と「魔女の宅急便」の2大組曲を軸にした、2019年8月のサントリーホールでの公演ライブ。オーケストラによる「魔女の宅急便」組曲を聴く。大ホールでのライブ収録らしく、響きが豊かなステージ感だ。弦、木管、金管、打楽器の位置や音色がライブ的に明瞭に捉えられている。大編成での奥行き感も感じられる。作曲者により編曲は、この音楽のクラシカルで、ヨーロピアンな雰囲気を、色濃くしている。映画「魔女の宅急便」の大ファンだから、本ライブは、個人的におおいに楽しめた。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
山下達郎がプロデュースした1982年のアルバム。80年代のポップスの夢が、再来したようなキラキラ輝く、カラフルで、押し出しの強い音。バックのオーケストラもフランク永井のボーカルもブリリアントで、煌めく。エコーの多さも80年代風。ボーカル音像は、センター位置に大きく、堂々しているが、バックのオーケストラのカスケードのようなサウンドも、それに負けず存在を張る。「サチコ」「メモリーグラス」「ルビーの指環」……のカバーは、まさにバスの朗唱だ。「8. もしもピアノが弾けたなら」の低音ビブラートの魅力。「12.ルビーの指環」も、まさにフランク永井流な低音の魅力。
フランク永井には、もうひとつハイレゾの傑作がある。2013年リリースの「オール・オブ・ミー ~フランク永井 スタンダードを歌う」だ。フランク永井は「有楽町で逢いましょう」(1957年)の爆発的ヒットで有名だが実は、それ以前は進駐軍まわりのジャズ歌手だった。本作は当時のアナログマスターから192kHz/24bitに変換。こんなに上手いジャズ歌手が日本にいたのかと、衝撃を受ける。深い低音の艶感には、これほどの表現性が込められていたとはハイレゾで初めて知る、この歌手の本質だ。センチメンタルでメローなピロードボイスの魅力を192kHz/24bitで堪能できる。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound.、e-onkyo music
良質の国産ジャズレーベル、亀吉レコードの新アルバム。鈴木輪のボーカルとピアノトリオの演奏だ。バンドは目の覚めるような鮮烈な音。ピアノの輪郭がとてもクリヤーだ。ボーカルは可愛く、美しく、艶っぽい音調。「4.Cheek to cheek」は軽妙で、ハイスピード。「6.I can't give you anything but love」。冒頭のアコースティック・ベースが印象的。「8.Dream a little dream of me」はまさに夢見るような雰囲気だ。 2011年~2018年にバンド録音し、2019年~2020年にボーカルを録音した。ミックスとマスタリングは 2020年。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
亀吉レコード、e-onkyo music
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