沢渡氏がダムに惹かれた理由(以下、長め、写真多め)
-沢渡さんがもともとダムに惹かれたのはどんなところなんですか?
沢渡:おっ、そこ聞いちゃいます? これまた1時間でも2時間でも語りたい気持ちなのですが……(苦笑)。
-えー、誌面にも限りがあるので、なるべく短めにお願いできると……。
沢渡:ずばり、「自然と、ヒトの技術や叡智の融合の美しさ」です。私のダム初めは2004年の夏頃だったかな。当時勤めていた会社の同僚と3人で、長野県の白骨温泉にドライブすることに。その道すがらに、奈川渡(ながわど)ダムというアーチ式ダムがありまして。
何気なく休憩で立ち寄ってみたのです。そこの電力館(現在は休館)で、たまたま見学会をやっていまして。ダムの下まで降りることができる。せっかくなので参加してみようかと、そんなノリでダム下まで降りて空を見上げたら……。
「美しい!」
大自然の山にそびえる、コンクリートの大きな壁。アーチ型の形状の美しさ。それを支える人間の技術と知恵のすばらしさ。言葉を失いました。まさに、自然と人とが織りなすアート。素直に感動しました。それは、自然の脅威に抗う、人間の強い意志のようにも感じました。
-あ、はい。
沢渡:それ以来ですね。ダムが「クラスの、なんとなく気になる子」のような存在になっていきました。ドライブしていて、道しるべやカーナビの地図に「ダム」の文字が現われるとなんとなく立ち寄るようになったのです。
-確かに沢渡さんって、車でいろいろなところ行ってますからね。
沢渡:ひとことにダムと言っても形状も立地もさまざまで、楽しみ方も十ダム十色です。
山奥のワインディングの道を走っていたら、突如視界が開けて目の前に現れる巨大なコンクリートの壁(重力式コンクリートダム)、あるいは岩を積み上げた壁(ロックフィル式ダム)。歓声を上げずにはいられないですよ!奈良俣ダムとか、九頭竜ダムとか、マジやばい。感激のあまり涙を流したこともあるくらいです。
そうかと思えば、丸沼ダムのような、穏やかな高原にひっそり佇む、別荘地の貴婦人のようなダムもある。南相木ダム、湯西川ダムなども美しいですよ。比較的新しいのもあって、堤体の色が白い。山奥に佇む美白の貴公子感が半端ないです。山奥に静かに佇む美しき貴公子、貴婦人……ああ……(恍惚) って、誰か止めてくれないといつまでも語り続けます!
-止めます止めます(笑)。沢渡さん、そこから先は別途、書籍とかでお願いできますかね。まあ、多少理解しがたいところはありますが、確かに魅力的ではあります。
沢渡:みなさん、美術館巡りをしますよね。私にとって、ダムは美術館巡りと同じ意味もあるのです。現代アートとしてのダム。Dam as an Art! なんです。
ITインフラの維持管理と日常の当たり前を守ってくれるダムのシンパシー
-台風や洪水が起こるとダムの役割にフォーカスされたりしますが、われわれの生活を支えてくれるインフラですよね。
沢渡:その意味ではダムと自分の仕事を重ねて共感する面もあります。
私は日産自動車、のちにNTTデータでITインフラの運用/ヘルプデスクの運用SEとマネージャーの仕事をしていました。いまなお、NOKIOOでITサービスの構築や運用のマネジメントに携わっています。
ITのインフラの維持運用の仕事って、目立たないじゃないですか。サーバしかり、ミドルウェアしかり、ネットワークしかり、セキュリティしかり。でも、それってとても大切な仕事ですよね。いまやITナシでは私たちの生活は成り立ちません。最近のテーマでいうなれば、コロナ禍でテレワークで仕事できているのは誰のお陰だよって話です。
私たちの日常の「当たり前」を守っている、ITインフラ維持運用の仕事。でもね、そういう下支えの仕事って、目立たない。そして、悪気なく仕事として認識されず、評価されず、ともすれば気の利いたボランティア精神のある人だけに押し付けられる。その割に、トラブルがあると猛烈に責められたりする。決してその人のせいではなく、マネジメントや組織内の経営層、顧客の想像力の欠如、意識の低さの問題であるのにです。
私はダムに、ITインフラ維持運用の仕事と同じものを感じるのです。
-なるほど。過去にやってきたインフラ系の仕事に通じるものがあるんですね。
沢渡:私たち住民の見えない山奥で、静かに下流の私たちの「当たり前の日常」を守ってくれている。生活用水、工業用水、農業用水や電力を安定供給し、水害から下流の街を守る。自然はコントロールできないと思っている人が多いでしょう。そんなことはないのです。私たち人間は、自然を精一杯コントロールしているのですよ。そこにはダムを設計して、建築して、運用する人々の知恵と、技術と、そして思いがあるのです。しかしながら、ともすれば、ダムやダム管理者は「何やっているのか分からない存在」。日ごろ認識されにくく、見えにくいですから。
そこに、私はシンパシーを感じるのです。IT業界を生きてきた人間として、ITインフラ維持運用にかかわってきた1人として。
昨今の度重なる大型台風や豪雨で、ダムの活躍ぶりや価値が言語化されるようになりました。ダム放流イベントなどが注目を浴び、ダムの役割と仕事に光が当たるようになりました。私たち、IT業界の人間も、自分たちの存在が正しく認識され、リスペクトされるよう価値を言語化していかなくてはいけないな、発信していかなければな。そう思います。
ダムに負けないぞ!