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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第572回

データフロー方式で成功したCerebras SystemsのWSE AIプロセッサーの昨今

2020年07月20日 09時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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WSEを搭載したCS-1を発表
日本でも受注開始

 Hot Chips 31における発表はここで終わりで、実際にネットワークを載せた場合の性能は開示されなかった。これに関しては2019年11月に行われたSC19で発表があるかと思いきや、発表されたのはこのWSEを搭載したCS-1というシステムであった。

WSEを搭載し「CS-1」。右上の2つ並んでいるのは冷却ポンプ。下の4組は冷却ファン。左上の12個はPSUと思われる。その上の斜めになっている部分には100GbE×12のMPOコネクタと制御用プロセッサー、およびFPGAボードが搭載される

 全体の高さは15Uとされる。通常データセンターのラックは42Uなので縦2段積み、たまにある45Uのサイズなら3段積みが可能になる。これを横から見たのが下の写真だ。

横から見る「CS-1」。こうしてみると、下半分はほぼがらんどうである。黒い部分がいわゆるラジエーター

 CPUはこの写真で言えば右上にある。下半分はほぼ冷却用になっている。そういう意味では液冷といっても、シャーシの外に水冷システムを必要とするものと異なり、PCの簡易水冷の巨大版といった構造になっているのがわかる。そのCPUブロックが下の写真だ。

CPUブロック。Cerebras Systemsのスライドを見ると、WSEのパッケージの真横にVicorのVRMと思しきものが10個(片側5個づつ両端に)設置されている

 ちなみにWSEは定格でほぼ15KW(!)ほどの消費電力となっており、おそらくNVIDIAのAmpereと同じくVicorのVRMで供給しているようだ。4KWのPSEが12個も用意されるのも無理ないところである。一番上には制御用CPUと、ネットワーク通信用FPGAが搭載されている。

一番上には制御用CPUと、ネットワーク通信用FPGAが搭載されている。ローカルCPUになにを使っているかは不明だ

 さて、このSC19での発表や、製品紹介でも、繰り返されたのは下の画像の数字だけである。

冷静に考えると、チップサイズが56.7倍というのはアドバンテージになっていない気がする

 それにもかかわらず、すでにPSC(Pittsburgh Supercomputing Center)が2台のCS-1の導入を決めたほか、アルゴンヌ国立研究所はこのCS-1を新型コロナウイルスのワクチン開発に転用することを発表するなど、出だしは順調である。

 国内でも、昨年12月にTEDがCS-1の代理店契約を締結して受注を開始している。さすがにこうしたパートナーには、実際のモデルを動かした場合の性能が開示されているのだと思いたいが、いまだに具体的な性能が出てきていないというのはやや怪しい感じはある。

 また、先ほど開発費を加味するとコスト的にはWSEの方が安くなるという議論をしたが、運用コスト(主に電気代)を考えた場合、長期的にWSEの方が安くなるのかどうか、正直よくわからない。理由は、いまだに性能が開示されていないので、性能あたりの消費電力コストの試算ができないからだ。

 ただ、同じようにAI学習を目指したWave Computingが見事に立ち往生し、Cerebrasのビジネスが軌道に乗り始めているのを見るに、Wave Computingはぶっ飛び方が足りなかったのかな? と思ったりもする。

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