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人の無意識な行動から“幸せ”を解析/定量化、組織マネジメントから幅広い事業へ展開目指す

日立、独自の「ハピネス度」計測技術を事業化する子会社設立

2020年06月30日 12時20分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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実証実験で成果、リモートワーク下の「ハピネス関係度」への影響も指摘

 新会社のハピネスプラネットでは、これらの技術を活用して組織マネジメント支援などの事業を展開するほか、計測したハピネス度を多様な場面で活用し、新たな産業を創生していくという。

 「withコロナ、afterコロナ時代の新たな企業マネジメント支援などに活用できるツールになる。計測した幸福度を活用して、企業の生産性を高め、より創造力を発揮するための基本ツールになるように努力する。さらに街づくりや医療、介護、住まい選びなど、“ハピネス&ウェルビーイング産業”と呼べるような新産業を創出したい」(矢野氏)

 新会社では、ミッション達成のために前向きに協力しあう組織を作るためにハピネス関係度を活用。モバイルアプリ「Happiness Planet」を使用して、組織が幸せになるための行動をAIが勧めたり、こまめに対話を行う「プチ報・連・相」などの活動を個人やチームに提案する。なおこのアプリはiOS/Android/Windowsに対応し、Apple Watchでも利用できる。

スマートフォンアプリ「Happiness Planet」と機能、期待される効果

 同社では約3週間にわたり、83社/約4300人の参加を得て、人の幸福感を定量的に計測し、それをチームごとに競争する環境を作って効果を実証。その結果、持続的な幸せ指標である「心の資本」が33%向上し、従業員の前向きな心を引き出すことができたという。この結果は、企業にとって10%の利益につながる成果だと試算している。

83社/約4300人が参加した実証実験の結果。幸福度指標の可視化と

 また、リモートワーク/在宅勤務といった働き方の変化にも注目している。矢野氏自身、リモートワークを始めて以降、ハピネス関係度が下がっていると明かした。オフィスでの無意識な「雑談」が、従業員間の共感や相互理解の機会になっていたためだという。

 「たとえば(意識的、計画的に実施される)幹部の経営会議や職場内の定例会議、“報・連・相”といったコミュニケーションは、リモートワーク環境下でも電話やテレビ会議、メールなどで置換できる。だが、アドホックなコミュニケーションは代替できていない。社内で無意識に行われていた雑談、オフィスにいるからこそ見える人の表情や声のトーンなど非言語情報の伝達は、人の共感や相互理解、信頼に基づく心理的安全性を生むもの。これが会議での判断などにもつながっている。こうしたコミュニケーションが不足しがちなリモートワークでは、ハピネス関係度がより重要な意味を持つ」

 こうした研究や組織での取り組みが必要な背景として、矢野氏は「働き方が変わり、従来の延長線上でのやり方では成果が得られなくなっている」ことを挙げる。こうした背景から、経営者が幸せについて語ったり、ウェルビーイングに関心を持ったりする動きがここ数年で増えており、「日立の幸福度計測技術に対しても関心が高まるタイミングに入ってきた」と語る。

 「日立グループ内でも、新型コロナの影響で広まった在宅勤務におけるマネジメント支援や組織活性化にHappiness Planetを活用しており、これが“ニューノーマル”時代における働き方の基本ツールになると期待している」

幅広いパートナー協創を通じて「街づくり」「投資」などにも幸福度指標を展開

 新会社のハピネスプラネットでは、パートナーとの協創も進める方針だ。今回の会見では、スタート時の協創パートナーとして電通や大塚商会の名前を挙げた。

 「電通とは、ハピネスの概念を国内外に発信し、ムープメントを作っていく取り組みを一緒に行う。また、大塚商会は、すでに有償サービスを利用しており、この経験をもとに、同社の主要顧客である中小企業を元気する施策に共同で取り組みたい。このほかにもさまざまなパートナーとともに、パートナーが持つサービスとかけ合わせたり、さまざまな業界に対して展開していきたい」

 同社では法人向けアプリ事業として、「中期経営計画の達成」「働き方/生産性改革」「メンタルケア」といったテーマごとに、幸福度計測技術を活用したアプリの提案を推進していく。さらに“幸せな投資”を行う「ハピネスファイナンス」、“幸せな街づくり”を行う「ハピネスシティ」など、分野ごとに幅広いパートナーと連携したアプリ事業を展開する計画だ。

 「(幸せについての)宗教や哲学をするわけではなく、科学的に、データに基づいた幸せな社会をつくることを目指している。たとえば街づくりにおいても、スマートシティが目指す“便利な街”ではなく、幸せに過ごすことのできるハピネスシティを目指すことができる。アンケート集計ではなく、(人々の身体行動から)リアルタイムに計測し、評価することができる」

幅広い業界のパートナーと連携し、ハピネス度指標を多様な新産業へと展開していきたいと語った

 このほかにも同指標を用いて、たとえば就職先や取引先として“幸せを生んでいる会社”を選択する、“幸せを生んでいる製品/サービス”を購入する、幸福度を不動産や地域の物差しに活用するといったアイディアを述べた。「日本中、世界中の幸福度をリアルタイムに可視化すれば、政策に反映することもできるだろう」。ちなみにこの“幸せを生んでいる”ことを示す指標を「?H」という新たな単位で示すことも提案し、定着させたい考えだ。

 なお冒頭で触れたとおり、新会社ハピネスプラネットは日立の子会社として、少人数でスタートする。矢野氏は、「幸福度という大きなテーマに対し、ベンチャー企業の俊敏性と日立の信頼性やチャネルを併せ持ち、より独立性を持って、オープンに協創する『出島』によるアプローチで、成長事業を作っていきたい」と抱負を述べた。

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