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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第28回

AirPods Proに近く追加される「空間オーディオ」の概要をまとめる

2020年05月29日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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映画館の体験を再現できる“空間オーディオ”

 ファームウェアアップデートで対応する、AirPods Pro向けの新機能が“空間オーディオ”(Spatial Audio)だ。最新のサラウンドシステムでは、前後左右だけではなく、上からも音が聞こえてくる点がよくアピールされるが、こうした体験をAirPods Proでも提供するための機能だ。基調講演では、VRなどでよく使われる「没入体験」(Immersive Experience)という英語のフレーズを用いていた。ドルビーアトモスの5.1chまたは7.1chコンテンツに対応している。

 ただしこれを、左右一つずつのイヤホンで実現するのは難しい。そこで「高度な空間オーディオアルゴリズムを開発した」としている。ちなみに、日本語字幕に出てくる「イヤーバッド」とは、英語の「ear bud」(budはつぼみの形の意味)をそのままカタカナにしたものだ。日本語では「カナル型イヤホン」といった意味合いの言葉だが、字幕にするなら単に「イヤホン」とすべきだったろう。

ソースから音の方向情報を抜き出し、定位を再構築する

 立体的な音場感の実現には、指向性オーディオフィルターと、それぞれの耳に届く細かい周波数の調整が必要だったとしている。日本語字幕の“指向性オーディオフィルター”は、元の英語では「directional audio filter」と言っていた。

 directionalは“指向性”というよりも“方向性”と解釈したほうがわかりやすいだろう(例えば、英語の“directional finder”は方向探知機を指す)。左右のイヤホンに音を割り振る際に、音がどの方向から来るのかを意識したうえでデジタル処理を施し、立体的(3次元的)な音場を得る技術なのだろう。

AirPods Proのセンサーを活用し、空間にいる感覚を強める

 だが、Spatial Audioの機能はそれだけではない。

 実のところ、左右の信号を混ぜて2chのイヤホンやヘッドホンで立体感を実現する手法は目新しいものではない。古くはアナログ時代の“クロスフィード”技術があり、デジタル処理ではさらに効率化されている。国内でもアコースティックフィールドの「HPL」(HeadPhone Listening)技術などがあり、HPLもマルチチャンネルをサポートしている。

 驚くのは、それをイヤホンを装着した頭が動いている状態、手に持つスマホがぶれて動いている状態、さらには飛行機などに乗って両方とも動いている場合などを加味している点だ。

 ホームシアター(家庭でのサラウンド環境)では、画面やスピーカーは決まった位置に固定されているため、リスナーが多少動いても、サラウンドスピーカーで作られた音場は動かない。しかし、ARやVRへの応用を考えると、視線を向けている場所と音が鳴っている場所にズレが発生し、違和感につながることがある。

 そこで、AirPods Proの新ファームウェアでは、モバイル環境特有の状況を加味して、音の位置決め計算をするという。

 使用時に頭を左右に振ると、加速度センサーとジャイロスコープがその揺れを感知。音場をリマップして、頭が動いても音場がぶれないようにしているという。また、iPadやiPhoneを手に持ちながら見ている場合も考慮して、iPhoneやiPad内蔵のセンサーを用い、ぶれを検知ているということだ。さらに、バスや飛行機に乗り、自分自身が動いている場合でも音場の再構築ができるという。

 それを実現する、AirPods Proのファームウェアとその計算能力の高さには舌を巻いてしまう。AirPodsのファームウェア技術者が誇らしげに披露するのも納得がいく。この技術はアップルがいま注力しているVR/ARに応用されていくのだろう。

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